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奇妙な味の短編

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奇妙な味の短編を集めてしまった。
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#短編

ただいま

親がいなくなって家は僕のものになった。

だからか扉が勝手に開くようになった。閉めてもまた勝手に開く。
どの引き出しにも隙間が空くようになった。押しても押してもまた勝手に隙間が出来ている。
家中にとても隙間が多い。
数えようとしたけど、こんなには数えられはしない。
数えられないほど隙間が多いということは、すべてが見えるようになって、すべてが見られるようになったということなんだろうか?

これでは何

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水回川頭鳥咥私

カラカラカラと水車が回って川底で頭を打った。
これで仕事が捗るかもしれないとオフィスでキーボードを打つ。
お客さんが全員戻って来た。
半裸である。
悲しそうだ。
見たことない悲しさだ。
でも川底はとても涼しい。
私に服は必要だ。
ダウンジャケットを重ね着する。
このオフィスはクーラーを効かせ過ぎている。
まるで冬のようだ。
この国は冬を殺したのにそれはおかしい。
お客さんは全員風邪を引いたまま帰っ

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時がなければ

「時間が怖くなりました」
「なにもかもが時間の通りに流されて殺されていきます」
「私たちはみな一緒の犠牲者だと知りました」
「時間の対義語は空間であるとも知りました」
「知ってしまったので」

そう言った彼女は空間に逃げ込んだ。

時の流れはなくなり彼女は静止したまま死となんら変わりのない物体と化した。

貴方は気付きもせず私のような女を愛し始めた

父も母もとうとう私のことだけに飽きたらず貴方のことまで罵り始めた。
心の奥底から憤怒が沸き立つ。
さんざっぱら幾多ある短所と長所の中から短所だけを幼年期からあげつらい私の自尊心を壊し続け、誰にも愛されない、愛されなくて当然だろうという『私』を作り上げたというのに、今度は貴方の番だとでもいうかのように優しい貴方から、自分たちにこき下ろされても当然だろうという情けない『貴方』を引きずり出そうとしている

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二人二体

二人二体

少女は自分を成長させるように人形も育て始めた。

母に見捨てれた日に与えられた人形は手のひらに乗るほど小さかった。

少女のほうは何時なんどきもその人形を手離すことはなかった。

握りつぶさぬように、手離さないように、起きているときも寝ているときも人形は少女の小さな手に繋がれていた。

誰も気づかない速度で徐々にだが確実に人形は育ち始めた。

少女の手から吸い出された思いは人形の中に充満していって

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