【無料・目次付】自民党の日本国憲法改正草案(平成二十四年)まとめ|政治初心者の教科書
【注意】本記事においてご紹介する憲法改正草案は平成二十四年に取りまとめられたものであり、現在の議論の中心に位置するものではありません。
参考資料としてご紹介するに過ぎず、より最新の自民党による憲法改正の素案については、以下の記事をご確認いただきますようよろしくお願いいたします。
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自民党総裁が岸田文雄氏になってからというもの、「憲法審査会」が過去最多回数で開催され、定例化された。
そして、岸田自民は「憲法改正案の起草機関の設置」に踏み込んでおり、岸田氏が総裁任期の間に憲法改正へ踏み切るものとの見方が強まっている。
以前から改憲草案に関するデマは多数発信されてきたが、最近になって苛烈さが増したのは、憲法改正が現実味を帯びてきたからだろう。
最高法規たる憲法の改正については、賛成であれ反対であれ、正しい情報・知識のうえに議論がなされるべきである。
そのため、本記事では、現行の日本国憲法(以下「現行憲法」)と自民党による憲法改正草案(以下「改憲草案」)をそれぞれ引用し、比較しながらご紹介しようと思う。
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引用する改憲草案
本記事において引用する改憲草案は、「日本国憲法改正草案(現行憲法対照)自由民主党 平成二十四年四月二十七日(決定)」である。
また、この改憲草案は現行憲法との対照表記となっているため、現行憲法についてもここから引用するものとする。
現状として自民が優先的に改憲を考えている項目は、『(資料編)「日本国憲法の改正実現に向けて」』にある【自衛隊の明記】【緊急事態対応】【合区解消・地方公共団体】【教育充実】の4項目なのであろうと考えられる。
これについては、以下の記事において解説している。
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ただ、"改憲議論がどのような歴史を辿ってきたのか" というのも重要な情報であると言えよう。
また、「日本国憲法改正草案(現行憲法対照)自由民主党 平成二十四年四月二十七日(決定)」を基にしたデマを潰すためにも、本記事ではこれについて引用するものとする。
起草機関設置に伴う更新
本記事では「日本国憲法改正草案(現行憲法対照)自由民主党 平成二十四年四月二十七日(決定)」を引用して記事を作成するが、岸田自民は憲法改正案の起草機関設置に踏み込んでいる。
そのため、起草された条文案の確認が可能となった際は、新たに記事を作成することとする。
抜粋基準について
現行憲法・改憲草案ともに100条を超えるため、すべてをご紹介することは困難であり、抜粋してご紹介することとなる。
そのため、前文などの重要箇所や主な変更点、デマに利用されることの多い箇所を抜き出し、解説を加えることとする。
その他の条文については、ぜひ「日本国憲法改正草案(現行憲法対照)自由民主党 平成二十四年四月二十七日(決定)」からご確認いただきたい。
X(旧Twitter)等における注意
X(旧Twitter)をはじめとするSNSにおいて、「自民党改憲草案の条文を挙げて(いるように見える)のデマ」が横行している。
画像などに条文のようなものを記載し、「何条」とまで示しているものもある。
しかし、それらには恣意的に文言や切り抜き方が歪められているものが多く、正当な批判であるとは言い難い。
これは本記事を含めてだが、たとえ改憲草案を引用している言論であっても、その引用条文が正しいものであるかを確認すべきである。
再度、自民党改憲草案のリンクを貼っておく。
本記事をブックマークしたり、スキを押して保存したりして、ぜひご活用いただきたい。
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憲法改正草案シリーズ
改憲草案については、本記事の「自民党の日本国憲法改正草案(平成二十四年)」の他、『(資料編)「日本国憲法の改正実現に向けて」』、「緊急事態条項に関する憲法改正条文案(国民・維新・有志の会)」を扱った2記事を加え、3記事体制としている。
主な考え方としては、以下のようになる。
①自民党の日本国憲法改正草案(平成二十四年)
改憲議論のたたき台となった "元祖・改憲草案" 。
②(資料編)「日本国憲法の改正実現に向けて」
自民党が優先的に改憲したいと考えている4項目。
③国維有案「緊急事態条項に関する憲法改正条文案」
憲法審査会での議論が進み、生まれた2党1会派による条文イメージ。
各記事に目次を付けているため、ぜひご興味のある箇所だけでもご確認いただければと思う。
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憲法改正の手順
大前提として、憲法改正の手順について確認しておこう。
現行憲法では、憲法改正の手続きについて、以下の条件が示されている。
つまり、衆参両院の2/3以上の賛成を得て「憲法改正の発議」を行い、国民投票において過半数の賛成を得た場合に憲法の改正が成立するということだ。
☆デマの否定☆
「自民党による憲法改悪を許さない!」「勝手な改憲を許さない!」といった言説が出回っているが、あまりに稚拙であり、「改憲草案どころか現行憲法すら読んだことがないのだろう」と言わざるを得ない。
上記のように、改憲には「国民投票における過半数の賛成」が必要となる。
つまり憲法改正の決定権は日本国民がもつのであって、自民党が国会決議等によって改正できるものではないのだ。
これに代表されるように、「現行憲法すら読んだことのない者(もしくは読む能力すらない者)のイメージに基づいたデマ」や「現行憲法や改憲草案をまだ読んでいない者を騙そうとするデマ」が多数存在する。
国民投票にかけられていない段階で現行憲法および改正案を読んでいないことは、何ら問題のあることではないし、責められることでもない。
しかし、憲法改正について論じるのであれば話は別だ。
政治にしても何にしても、何かを論じるのであれば根拠について調べることは当然の姿勢であり、それをせずにデマを主張する者は批判に晒されて然るべきである。
そして当然、現行憲法および改正案を読んだうえであっても、読んだことのない者を惑わせようとデマを発信する者は、これも批判に晒されて然るべきである。
私はそのようなデマを、徹底的に糾弾していく。
国民の生命と生活にかかわる最高法規たる憲法の改正について、国民を惑わそうとする者は許さない。
改憲に賛成であれ反対であれ、議論は正確な情報を基に行われるべきだ。
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前文
現行憲法の作成にアメリカおよび連合国のGHQが関わったことは紛れもない事実であり、それゆえか、現行憲法の日本語には違和感のある箇所がいくつかある。
これは、故石原慎太郎氏もご指摘されていたところだ。
まずは、現行憲法と改憲草案それぞれの前文を読んでいこう。
現行憲法
改憲草案
改正点【総評】
総評で言えば、歴史ある日本の国柄を明記し、長ったらしく書かれていた箇所を端的にまとめ、時代の変化を適用し、またより理解しやすい日本語に修正されたと言えるだろう。
改正点(天皇)
たとえば、現行憲法の前文には「天皇」の文字が一切ないが、改憲草案の前文には「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって」の文が追加された。
日本は西暦2024年で皇紀2684年を迎え、"皇室" を王朝とし、万世一系(男系による皇位の継承)によって成り立つ "皇統" の正当な継承者である "天皇" を戴く国家なのである。
これは「現存する世界最古の王朝」として、ギネスブックにも認定されている。
このような、「世界最古の王朝、天皇陛下を戴く日本」の憲法前文に、「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家」との文言が入るのは当然のことであると言えるだろう。
改正点(国民主権)
現行憲法では、「日本は国民主権の国である」ということを、以下のように長く記している。
これを、改憲草案では「国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される」の一文にまとめられた。
非常に簡潔で読みやすくなったと言えるだろう。
改正点(時代の変化)
現行憲法は1946年11月3日に公布、1947年5月3日に施行されたものであって、時代の変化に適応できていない条文が多々ある。
たとえば、前文で言えば以下のような文である。
当時の日本は「悪の枢軸国」であり、戦勝国から見たその認識が色濃ゆく反映された内容になっていると言えるだろう。
しかし、現在の日本は枢軸国から脱し、戦後から復興して発展し、G7唯一のアジア国家として責任ある立場に置かれている。
これを反映したのが、改憲草案の以下の一文だ。
「憲法」とはまさに「最高法規」であり、我が国のすべての法規を縛る憲法を時代に合わせるというのは、これまた当然のことであると言えよう。
改正点(平和を愛する諸国民)
現行憲法には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」との文言があるが、改正草案ではこれが排除されている。
当然のことである。
国家の存立はその国およびその国民自身が責任をもって保持するものであり、"諸国民の公正と信義に信頼して" など、夢想的かつ無責任な自存自衛の放棄に他ならない。
これに代わり、改憲草案には「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り」とある。
この姿勢こそ独立・主権国家としてあるべき姿であり、これは素晴らしい改正であると思う。
改正点(反する法令の排除)
現行憲法の前文には「われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」とあるが、改正草案にはこれにあたる文言がない。
そのために、「憲法を超えた法令および詔勅・勅令等が出せるようになってしまうのではないか」と不安を覚える者もいるかもしれない。
しかし、安心してほしい。
改憲草案の第101条に、以下の規定があるのだ。
これは現行憲法第98条の文言を修正したものであって、実は現行憲法にも同様の条規が存在するのである。
改正草案ではこの重複を修正したに過ぎず、日本国憲法が日本国の最高法規であり、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為を排除することに変わりはないのだ。
☆デマの否定☆
主に左翼勢力が改憲草案のデマを言うとき、以下のようなことを主張する。
しかし、これらの主張は前文の時点で否定されているのだ。
改憲草案の前文には、「国民主権」「基本的人権を尊重する」「平和主義」の文言があり、上記の主張が明らかなデマであるとわかる。
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第一条
現行憲法1条は、「天皇」について記した条文である。
今上天皇陛下は126代にあたり、西暦2024年で2684年となる歴史の間、"万世一系" により皇位が受け継がれてきたとされている。
皇室は「現存する最古の王朝」(ギネスブックにも認定)であり、日本は皇室を王朝とし、"天皇" を戴く国家なのだ。
そのような日本において、憲法の第1条に「天皇」を記すことは当然であると言えるだろう。
>万世一系
ここで、「万世一系」について少し。
万世一系(ばんせいいっけい)は、基本の意味として「永久に一つの系統が続くこと」を指す言葉である。
日本においてこの言葉が使われる場合、そのほとんどが「皇統」についてを指している。
皇統における「万世一系」は「男系継承」によって皇位が継承されてきたことを意味し、「男系継承」とは、「天皇のお父さんの、そのお父さんの、そのお父さんの……」と辿っていくと、初代天皇にあらせられる神武天皇に行きつく、という皇位継承の形である。
よって、「天皇の父親」は必ず皇族に限られるのであって、臣下や時の権力者、他民族などによる皇位簒奪が起き得ず、神話の代を含めて2684年、実在が確認されている範囲でも1500年以上の歴史を紡いでくることができたのだ。
無論、過去の詳細なところまでは検証が不可能であって、「途中で血筋が変わっているのではないか」とする者もいる。
しかし、「天皇」という存在が我が国の神話に由来し、「万世一系」によって継承されてきたという「伝承」が権威の根拠となっていることは事実である。
昨今、「男女平等の時代なのだから皇位継承においても "女系" を認めるべきではないか」とする論調もあるが、『伝統』はその時代時代の価値観に合わせて変化するものではない。
『伝統』は変わらないからこそ『伝統』なのであり、先人たちが、時には命を懸けて護ってきた伝統を「時代だから」と安易に破壊するのは、あまりに無責任な行為であると言えるだろう。
>天皇とは
ここで、「"天皇" とはどのような存在か」についてご説明しておこう。
「天皇」を戴く国家にしては不思議な話だが、学校教育等において「天皇」を学ぶ機会がほとんどなく、そのため国民のなかにも「天皇って何なんだ?」という方もいらっしゃることと思う。
なかには、「国民の金で贅沢をする自利的な皇帝」のように「天皇」を捉えている者もいよう。
しかし、それはまったくの的外れであると断言できる。
では、「天皇」とはどのような存在であろうか。
それは、人々を想い、"私" を捨て、24時間365日、"公" に尽くされる存在であると言える。
たとえば、「天皇」が神道(日本古来の信仰であり、神社は神道の存在)の祭司として執り行われる「新嘗祭」の宮中祭祀についてご紹介しよう。
新嘗祭は毎年11月23日に行われる宮中祭祀であり、数ある宮中祭祀のなかで最も重要な儀式であるとされてきた。
現在11月23日は「勤労感謝の日」とされているが、本来は祭日の名称としても「新嘗祭」と呼ばれていたものである。
GHQが神道の神話や祭礼、儀式を起源とする祝日の廃止方針を示したため、昭和23年施行の祝日法で「勤労感謝の日」とされてしまった。
11月23日の18時になると、新嘗祭の「夕の儀」が始まる。
「御祭服(新嘗祭でのみ「天皇」が身にまとう伝統装束)」を身にまとった「天皇」が、儀式が行われる神嘉殿へと移られる。
この御祭服は非常に重いものであり、着替えるのに数十分が必要であると言う。
儀式中は「天皇」と2人の采女のみが神嘉殿へ入ることを認められ、「天皇」は神饌を神前に供える(収穫を感謝する意味合いを持つ)。
その後、神前に拝礼し、一年の五穀豊穣と国家、国民の幸福を祈られる。
そして、供え物を神々とともに食される「直会」に臨まれ、神前で新穀を食すことにより天照大神の霊威を身に受け、それを更新される。
夕の儀が終了するのは20時。
その後、同様の次第により23時から翌1時まで「暁(あかつき)の儀」が執り行われる。
この間、「天皇」は重く、動きづらい装束を身にまとい、その儀式の大半を正座して行う。
そのうえ、11月後半の冷え込む夜に、神嘉殿に暖房設備などあるはずもなく、この過酷な環境のなか、「天皇」はただ人々のためにこの儀式を執り行われる。
宮内庁幹部や掌典職の話を含めた「新嘗祭」の話は、以下の記事に詳しくある。
「天皇」は「国王」でも「国皇」でも、「天王」でもなく『天皇』なのである。
"皇" は "皇帝" を意味し、"王" よりも格上の存在であることを意味する。
そして、その天皇が総べる範囲は "国" に留まらず "天"、つまり世界のすべてを意味するのだ。
しかし、"天皇" はただ統治し、民を縛り付けるような存在ではない。
世界のすべてに対し、"私" を捨て、24時間365日、"公" に尽くされる存在であることが、『天皇』の名からも理解できる。
そのような有難いご存在を、我々日本人は戴いているのだ。
現行憲法
改憲草案
改正点【総評】
現行憲法においては、「国家元首」に関する記載がなかった。
そのため、内閣や内閣総理大臣を元首とする説や、「天皇」を元首とする説が乱立する状態だったのだ。
これはおそらく、戦前の「天皇」の地位を解体する意図の基に、このような状態にされたのではないだろうか。
大日本帝国憲法のこの4条は、「天皇は国の元首であり、統治権(国家を治める権利)を掌握し、この憲法の条規に従って統治権を行使する」といった内容を指す。
「天皇」の名の下に先の大戦が行われたため、その「天皇」を「元首」から外したのであろう。
しかし実態として、現在、諸外国からは「天皇」が元首にあたる地位であると認識されているという。
「国家に元首が必須であるか」には議論のあるところだが、実態として「天皇」が元首と扱われており、それに何ら問題がないことを考えれば、これを憲法に明記することは当然であると言える。
そのうえで、「天皇」が「日本国・日本国民統合の象徴」であること、「その地位が主権の存する日本国民の総意に基づく」ことについては、改憲草案においても踏襲されている。
☆デマの否定☆
「天皇」の地位を「元首」とすることを根拠に、「戦前回帰である」との主張を行い、他のデマと併せて「国民主権でなくなる」と触れ回る者がいる。
しかし、改憲草案においても「天皇」は「象徴天皇」であり続け、また「国政に関する権能を有しない」という点にも変更がない。
「天皇」の権能は現行憲法とほぼ変更がなく、「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」であり「統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ」であった大日本帝国憲法とは似ても似つかないものである。
この時点で、「戦前回帰」との主張は誤りであると言える。
そして、「その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」としている以上、主権が国民に存することは明白であり、「国民主権でなくなる」というのも明確な誤りである。
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第九条
憲法第9条は「平和主義」を謳う条文であり、日本国憲法における特徴的な条文であるとも言えるだろう。
それ故に、改憲を主張する勢力にとっても、護憲を主張する勢力にとっても、非常に重要な条文となっている。
現行憲法
改憲草案
改正点【総評】
「日本国は平和主義だ」と言われてきたが、改憲草案でもそれを踏襲し、さらに「平和主義」の文言が直接的に盛り込まれた。
そして、国連憲章第2条4項、現行憲法と共通して「武力による威嚇」と「武力の行使」を否定し、「侵略戦争の禁止」は継続して明記。
そのうえで、自衛権の保有も明記するとともに、それに伴い国防軍の存在を明記して自衛隊違憲論に終止符を打ち、その権能についても明記された。
現実的な安全保障に照らし、よく出来た条文であると言える。
改正点(第9条1項)
「戦争の放棄」の文言が削除されたことから「自民党は戦争をしたがっている!」とする声があるが、この指摘はあたらない。
まず「戦争の放棄」から「安全保障」に変更されたのは、「侵略戦争を否定したうえで自衛権は放棄しない」という、新9条の性質を包括的に表現するためだろう。
そのうえで「平和主義」を盛り込み、侵略戦争禁止条項である憲法9条第1項についてはほとんど変更がない。
文言を適切なものに変更するのみに留まった。
また、この9条第1項は国連憲章にも準拠している。
>国連憲章第2条4項
この国連憲章2条4項に関しては、「侵略戦争の禁止」と解するのが一般的だ。
このように、国連憲章にも準拠して侵略戦争を否定し、そのうえで自衛権および国防軍の存在を明記、自衛隊違憲論に終止符を打つ。
>自衛隊違憲論
自衛隊の存在が、現行憲法第9条2項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」に違反するという主張。
主権国家・独立国家固有の自然権である「自衛権」の存在を明確に無視した暴論であるため、近年では議論の場に上ることもほとんどないが、未だに根強く存在する思想でもある。
日本共産党等が未だにこれを主張している。
改正点(第9条2項)
現行9条の「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」を削除し、「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」と差し替えた。
現行9条で言われる「戦争放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」のうち、「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を削除し、「自衛権の保有」を明記した形だ。
現行憲法下において、自衛隊は「戦力ではない」とされている。
そのために、自衛隊にはさまざまな制限がかけられている。
おかげで、日本の防衛はアメリカありきとなっており、アメリカの気分ひとつで日本の防衛が叶わなくなってしまうのがこれまでだった。
これが、独立・主権国家として正しい姿だろうか。
戦後、日本が世界から危険視されていた頃ならいさ知らず、G7の一員として責任ある立場を担い、日米同盟に加えて日英・日豪の準同盟を結び、日比準同盟も視野に入るようになった現在。
このままでよいはずがない。
そのため、自衛隊(警察予備隊)を国防"軍"に昇格させ、「戦力」として保有する必要があるのだ。
これにより、「戦力の不保持」が削除される。
そして同時に、「交戦権の否認」も削除された。
防衛省は、この「交戦権」について以下のように説明している。
つまり、現行憲法における「交戦権」とは「戦いを交える権利」ではなく、「交戦国が国際法上有する種々の権利の総称」を指しているというのである。
これは白人との戦争に負けた日本に課された重い枷であり、国連憲章(国際法)よりも厳しい制限となっている。
しかし、国連憲章は第2条4項で侵略戦争を禁止しており、国際法において認められる権利は、「満足に防衛を行うための権利」であると言える。
これも先ほどと同じく、戦後、日本が世界から危険視されていた頃ならいさ知らず、責任ある立場を担うようになった現在、ここまで重い枷が必要であろうか。
「交戦権の否認」を残すことは、「満足に防衛を行うための権利」を放棄することに等しく、独立・主権国家としてあるべき姿ではない。
侵略戦争を否定しつつ、自国の防衛については一切を放棄しない。
これこそ国際法に準拠した憲法であり、独立・主権国家としてあるべき姿と言えよう。
改正点(国防軍)
ここについては再度、改憲草案における国防軍に関する条文(第9条の2第1項~5項)までを引用してから綴ろう。
憲法9条第2項を改正した場合、日本国憲法から「戦力の不保持」が消える。
そうなれば、「自衛隊(2023年版 軍事力ランキング世界8位(2022年版では5位))は "戦力" ではありません!」などという最低最悪の屁理屈を捏ねずに済むようになるのだ。
正規の国軍として金をかけ、命を削って訓練を行い、そのうえで自衛隊よりも軍事力ランキングが低い国・軍隊が山ほどあるなか、「我々は "戦力" ではありません(つまり俺たち未満のお前らも "戦力" じゃねーから)」というのは、あまりに失礼だろう。
これがようやく、「我らは日本の国防軍である」と名乗ることができるようになるのだ。
憲法9条の2 第1項によれば「内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍」とのことだが、これは現在も自衛隊の最高指揮官が内閣総理大臣なので同じである。
そして、第1項、第2項、第3項において国防軍の権能(目的等)を示し、法律によってより詳細な権能を規定することとしている。
第4項では、組織構成等についてを法で規定することが定められている。
第5項では「国防軍に審判所を置く」としているが、これは「軍法会議」を指しているのだろう。
「軍」はその存在の特殊性から、"軍法" や "軍規" と呼ばれる特殊な法をもち、違反者を "軍法会議" にかけて裁くものだ。
現在の自衛隊にはこれがないため、国防軍とした後にはこれを置くと明記した形だ。
改正点(第9条の3)
"国の究極の使命は、「国民の皆様の生命と財産を守り抜くこと」「領土・領海・領空・資源を守り抜くこと」「国家の主権と名誉を守り抜くこと」"
これは高市早苗経済安保大臣の言葉である。
「まさに」と言えるだろう。
要約すれば、「国の究極の使命は、国家の主権と名誉、領土・領海・領空・資源、国民の生命と財産を守り抜くこと」であると言える。
国には、国民の命と生活を守る責務がある。
そのためには、国民の住む領土、そして領海の制海権、領空の制空権、そこに眠る資源を守らねばならない。
また、外交戦や歴史戦を仕掛けられた際には、国民が不当に貶められることのないよう、闘わねばならない。
そしてそれは、国家の主権と名誉を守ることであると言える。
このうち、憲法第9条は現行憲法においても改憲草案においても「安全保障」について記す条文であるため、「国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない」としているのだ。
☆デマの否定☆
憲法9条の改正について、「侵略戦争が可能になる」「中国に侵略戦争を仕掛けたい自民党」などの言説が拡散されている。
しかし、これらは明確にデマであると断言できる。
まず第一に、憲法第9条1項(侵略戦争禁止条項)を堅持することから、憲法改正後においても侵略戦争を行うことは憲法違反となり、不可能であると言える(そもそも侵略戦争は国連憲章違反)。
そして第二に、侵略戦争を仕掛けようとしているのは自民党ではなく中国共産党の方だ。
自民党が憲法改正を急ぐ裏には中国共産党の横暴があり、これらから日本、日本国民を守るための改憲なのだ。
にもかかわらず、「侵略戦争が可能になる」「中国に侵略戦争を仕掛けたい自民党」などのデマが拡散されている。
SNS等を利用したプロパガンダ戦は現代戦争の基本となっており、デマの裏に何らかの意図が存在する可能性も考慮しておくべきだろう。
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第十二条
憲法第12条は、「国民の権利及び義務」について記した条文である。
「公共の福祉」という、「日本国憲法を除いて聞くことのない単語」が登場する条文でもある。
現行憲法
改憲草案
改正点【総評】
主に「リベラル」や「左翼」と呼ばれる層に多いが、「自由」や「権利」をはき違えている日本国民が増えているように思う。
マジョリティ女性の権利を無視して「男性器のあるトランス女性であっても女性用スペースを利用する権利がある」と言ってみたり、「私にも自由に生きる権利がある」と言って育児を放棄してみたり。
各々が際限なき自由を求めるようになれば、必ずどこかで権利がバッティングする。
ここで折り合いをつけるために「公共の福祉(現行憲法)」との概念が存在するわけだが、これをよりわかりやすく「公益及び公の秩序(改正草案)」とし、自由に責任が伴うことを明記した形だ。
改正点(公共の福祉)
第12条において特徴的だった、「公共の福祉」との文言が「公益及び公の秩序」との文言に置き換えられた。
現行憲法ではこの他、第13条、第22条、第29条に「公共の福祉」との文言が使用されていたが、すべて「公益及び公の秩序」への置き換えもしくは削除されている。
「公共の福祉」というのは非常に曖昧な文言であり、これは学者間でも解釈が大きく割れる文言であった。
そのため、だれが読んでも理解が容易である「公益及び公の秩序」に置き換えられたのだと言えるだろう。
また、現行憲法第12条では「常に公共の福祉のためにこれを利用する責任」とされていたが、改憲草案では「常に公益及び公の秩序に反してはならない」となっている。
これは現行・改正第13条と合わせた形と言えるだろう。
そのうえで、現行憲法では自由と権利を「公のために利用する責任がある」とされているが、改憲草案では「公に反してはならない(目的は問わない)」という形になっている。
「自由」や「権利」の性質を考えれば、「他者の権利との兼ね合い上、公に反してはならないが、その目的は問わない」というのはまさに本質に沿った条文と言えるのではないだろうか。
また、自民党も以下のように説明している。
また、このようにも。
改正点(責任と義務)
改正草案では、「公共の福祉→公益及び公の秩序」の変更に加え、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し」との文言が追加された。
これを根拠に「自民党が国民に義務・責任を押しつけ、国民の自由を制限しようとしている」との論を展開する者がある。
しかし、現行憲法と改正草案、それぞれの2文目を比較してみよう。
このように比較するとよくわかるのだが、「改憲草案において『責任』が追加された」のではなく、「現行憲法から『責任』は負わされていた」のである。
そして、「責任」とは「義務を負わされること」を言い、何か国民に課されたものが増えるわけでもない。
そのうえで、「改正点(公共の福祉)」において解説した通り、「公のために利用する責任がある」が、「公に反してはならない(目的は問わない)」となり、より「自由」として正確に認められるようになったと言えよう。
☆デマの否定☆
上記2節で解説した通りだが、本節のみをお読みの方に向けてまとめておこう。
「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に変更されたこと、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し」との文言が追加されたことを根拠に、「自民党が国民に義務・責任を押しつけ、国民の自由を制限しようとしている」との論を展開する者がある。
しかし、「公益及び公の秩序」への変更は曖昧な文言をわかりやすいものへ替えたに過ぎず、後者についても、すでに現行憲法の時点で「自由に責任が伴う」ことは明確に示されている。
そして、「責任」とは「義務を負わされること」を言い、何か国民に課されたものが増えるわけでもない。
また、第12条において平時の人権制限を行うのであれば、わざわざ反対勢力による苛烈なプロパガンダを打たれている「緊急事態条項」(次章)を草案に入れる必要性がない。
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第九章(緊急事態条項)
現行憲法において第9章は「改正」についての規定だったが、改憲草案においては「緊急事態」について定めた章となっており、「改正」は第10章となっている。
緊急事態において、国家権力が平時の枠組みを超えた権力を行使できる権限を「国家緊急権」という。
現行憲法には国家緊急権に関する規定が存在しなかったが、改憲草案には盛り込まれた。
草案第9章の規定を一般に「緊急事態条項」といい、デマやプロパガンダが多く打たれている内容でもある。
そのため、本章では第9章の全文を引用し、細かく解説を入れていく。
注意点
再三の注意であるが、本記事において解説する自民党改憲草案は平成二十四年に取りまとめられたものであり、現在の議論の中心に位置するものではない。
自民党が議論の主とするものは「日本国憲法の改正実現に向けて」のたたき台素案へと変化し、また憲法審査会ではそこからも変化し、これは国民・維新・有志の会が取りまとめた2党1会派案とも異なる。
この点を充分にご理解いただいたうえで、本章、その他の章についてご確認いただきたい。
現行憲法
改憲草案
改正点【総評】
緊急事態における強権発動の範囲、またその抑制、解除の在り方についてさまざま議論があることは承知しているが、私は緊急事態条項(緊急時の強権発動)の制定に賛成である。
「リベラル」や「左翼」と呼ばれる層は「人権!人権!」と騒ぎ立てるが、たとえば大規模な自然災害、たとえば他国による無差別ミサイル爆撃、核攻撃、たとえば大規模なテロ等が発生した際、際限なく人権を認めることは、現実的に不可能だ。
そのため、政府が強権を発動して指揮をとり、可能な限り多くの国民を守るため、緊急事態条項の存在が必要不可欠なのである。
諸外国における緊急事態条項
以下は「国立国会図書館調査及び立法考査局」が公開している資料だが、OECD加盟国(日本を含め38ヶ国)では、実に79%の国が緊急事態条項と呼ぶべき仕組みを制定している。
調査対象がOECD加盟国に限定されている理由は、以下の通り。
宣言型・無宣言型や発動要件等はさまざまであるが、実に多くの先進自由主義国において緊急事態条項が設定されているとわかる。
また、内容はさまざまであるが、世界各国の93.2%が緊急事態条項を憲法に規定しているという。
緊急事態条項の内容については議論があって然るべきと思うが、「国家緊急権(国家権力が平時の枠組みを超えた権力を行使できる権限)を憲法に規定することそのものが危険」という論には首を傾げてしまう。
改正点(第98条1項)
緊急事態条項については第9章すべてが該当し、その条文が非常に多量であるため、各節において再度、条文を引用する。
第98条1項においては、緊急事態条項の発動要件が記されている。
緊急事態条項の発動要件は、以下の4つ。
①我が国に対する外部からの武力攻撃
②内乱等による社会秩序の混乱
③地震等による大規模な自然災害
④その他の法律で定める緊急事態
①の「我が国に対する外部からの武力攻撃」については、
・台湾や尖閣諸島の併合に武力行使を躊躇わない構えの中華人民共和国(台湾有事)
・ウクライナへ侵略戦争を継続中の隣国ロシア連邦
・日本方向へとミサイルを発射し続ける朝鮮民主主義人民共和国
・反日大統領が政権を握った際の大韓民国(文在寅政権では自衛隊との交戦指針が存在した)
などが主な想定と考えられるだろう。
※ "台湾有事" については以下の記事をご確認いただきたい。
リンク先へ飛ぶ前に♡を押していただくと、後々、この記事を「スキした記事」欄から見つけることができ、見失うことがありません。
②の「内乱等による社会秩序の混乱」については、たとえば反政府テロ組織による同時多発テロ、たとえば「暴力革命方針の堅持により、破壊活動防止法に基づき公安調査庁の調査対象である日本共産党(※1)」による暴力革命などが考えられる。
※1について、以下「共産党が破防法に基づく調査対象団体であるとする当庁見解(公安調査庁)」より引用
③の「地震等による大規模な自然災害」については、南海トラフ巨大地震や富士山の噴火、首都直下型地震等が言われており、これらを念頭に置いたものであろうと考えられる。
本記事において引用している改憲草案は平成24年(西暦2012年)に確定されたものであり、Q&Aにも「今回の草案では、東日本大震災における政府の対応の反省も踏まえて、 緊急事態に対処するための仕組みを、憲法上明確に規定しました」とある。
④の「その他の法律で定める緊急事態」についてであるが、「憲法」とは今後も運用し続けるものであって、この先にどのような非常事態が起こり得るか、想定に漏れるものも存在することだろう。
そのため、そのような緊急事態が発生した場合にも緊急事態条項を適用し、国民の命・安全を最大限に確保することができるよう、この文言が差し込まれているものと考えられる。
法律の新設・改正は憲法の改正に比べて手続きが少なく(国民投票がない)、新たな緊急事態への対応として、その度に憲法に書き込むよりも適している。
もちろん、その法律の新設・改正についても民主主義によって信任された国会議員が議論・採決を行うため、国民が選択を誤らなければ何ら問題はない。
そのうえで、「緊急事態の宣言」は総理大臣の独断で発することができるわけでなく、閣議にかける必要があると定められている。
改正点(第98条2項)
第98条2項では、「緊急事態の宣言」について、国会の承認を得ることが義務付けられている。
国会とは民主主義によって信任された国会議員に構成される機関であり、この点においても、権力の暴走が起こらないよう、最大限の工夫がなされていると言えるだろう。
基本としては事前の承認が前提であるが、それが叶わない事態も想定され、その場合においても事後の承認が必須とされている。
改正点(第98条3項)
第98条3項においては、強権の暴走を防ぐ仕組みが記されている。
第98条2項に基づき、「緊急事態の宣言」には国会の承認が必要であるが、これが認められなかった場合(=民意により否定された)は、速やかに宣言を解除せねばならないのだ。
また、国会の承認を得たとしても「緊急事態の宣言」の効力は100日が限度であり、これを超えて継続する必要がある場合は、また新たに「民主主義によって信任された国会議員」の承認を得る必要があるとされる。
そして、この100日を超える場合の新たな承認は「事前承認」に限定されている。
改正点(第98条4項)
第98条4項では、「緊急事態の宣言」についての国会承認が、第60条2項の規定に基づいて行われる旨が記載されている。
改憲草案第60条2項は以下の通り。
そしてこの規定における「三十日以内」は「五日以内」に読み替えられるので、「緊急事態の宣言」についての国会承認は、以下の手順に基づいて行われることとなる。
予算案については「30日以内」であるところを「5日以内」としたのは、「緊急事態の宣言」が必要である(=早急な対応が必要である)という事態の性質に鑑みた結果であろう。
改正点(第99条1項)
第99条に入り、ここからは「緊急事態の宣言の効果」について定められている。
第99条1項では、「緊急事態の宣言」が承認された場合において、内閣および内閣総理大臣が以下の権限を有することが記されている。
①法律と同一の効力を有する政令を制定すること
②財政上必要な支出その他の処分を行うこと
③地方自治体の長に対して必要な指示をすること
「緊急事態の宣言」が必要であると国会で承認された(=民意が必要と認めた)場合というのは、一刻を争う事態であることを意味している。
そのため、内閣は国会の議決を待たずして「法律と同等の効力を有する政令」を制定することができるようになるのだ。
そして、国家が動くには金がかかる。
これに対応するため、「財政上必要な支出その他の処分」を行う権限が内閣総理大臣に与えられる。
また、国家は地方自治体によって構成されているわけであり、ここが動かねば話にならない。
よって、行政への指揮命令系統を一本化するため、そして国民の安全を守る目的で地方自治体の長を動かすため、「指示」を行う権限が、行政権の長たる内閣総理大臣に与えられるのだ。
この場合、内閣総理大臣には民意による信任(選挙)、民意の代弁者たる国会議員による信任(首班指名)、国会議員による「緊急事態の宣言」の承認(第98条2項)が与えられているわけであり、緊急時において地方自治体の長よりも権限が優先するのは当然のことといえるだろう。
改正点(第99条2項)
第99条2項では、第99条1項における「法律と同一の効力を有する政令(内閣権限)」と「財政上必要な支出その他の処分(内閣総理大臣権限)」について、事後に国会の承認を得ることを義務付けている。
「緊急事態の宣言について国会の承認を得たから」として内閣および総理大臣が民意に反した利己的行動を起こさないよう、「権力の暴走を防ぐ仕組み」がここまで重ねられている。
改正点(第99条3項)
第9章に入り、第98条1項から第99条2項まで関係者は内閣および国会、行政に属する者ばかりであったが、ここにきてようやく「国民」が対象者となった。
「緊急事態の宣言」が承認された場合、「何人も、当該宣言に係る事態において行われる指示に従わなければならない」のである。
ここで「全て国民」ではなく「何人」とされているのは、日本に身を置く外国人(在日外国人~旅行者等を含め)にも効力が及ぶことを示していると考えられる。
「緊急事態の宣言」が承認された場合というのは、国民の生命、身体及び財産を守るにあたり、一刻を争う事態であることを意味している。
そのような中、指示に従わない国民がいれば。
混乱を起こし、自身のみであればまだしも、他者やその救助へ向かう人員まで危険に晒し、場合によっては命を奪ってしまうような事態も考えられる。
そのような事態を防ぐためには、国内にいるすべての人間に対して、指示に従わせる必要があるのだ。
そのうえで、このような場合においても、「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」とされている。
以下、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条における「最大限に尊重されなければならない」基本的人権に関する規定。
改正点(第99条4項)
第99条4項には、「緊急事態の宣言」が効力を有する期間(各承認から100日間)において、衆議院の解散が行われないことが記されている。
緊急事態においては通常通りに選挙を行うことが困難になる場合も想定され、このような事態に対応するための条文であると考えられる。
実際に、現行憲法下においても、東日本大震災の後、被災地の地方議員の任期や統一地方選の選挙期日が、法律により特例を設けて延長された例がある。
しかし、国会議員の任期や選挙期日は憲法に直接規定されているものであり、法律でその例外を規定することができない。
そのため、緊急事態条項の一部として、「特例」を直接憲法に書き込んだということだ。
現行憲法にも定めのある「参議院の緊急集会(第54条第2項)」で事足りるとの主張もあるが、厳格に運用すれば「衆院解散から特別国会召集までの70日間」しかこれを適用できず、備えとしては不十分と言える。
また、国会議員に関しては選挙区選挙と比例選挙が存在し、選挙区選では被災地における選挙が困難になり、比例選では一部地域でも選挙が行えなければ議員の選出ができなくなる。
緊急事態を想定した議員任期延長の規定は必要と言えるだろう。
【ナチスドイツとの違い】
独裁政権ナチスが誕生した時代のドイツには、「ワイマール憲法」という憲法があった。
このワイマール憲法における国家緊急権的条項は以下の第48条2項。
第114条、第115条、第117条、第118条、第123条、第124条、第153条は、それぞれ「人身の自由」「住居の不可侵」「通信の秘密」「表現の自由」「集会の自由」「結社の自由」「財産権の保障」を指す。
自民党改憲草案との違いは2点。
①基本的人権の制約程度
・自民党改憲草案「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」
=自民党改憲草案の緊急事態条項では基本的人権が停止されない
・ワイマール憲法「基本的人権の全部または一部を、一時的に停止できる」
=ワイマール憲法では基本的人権を停止することができた
②緊急事態条項の期限
・自民党改憲草案「百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない」
=自民党改憲草案では "緊急事態の宣言" の有効期間が100日であるとされており、これを超える場合は再度、民意の代表である国会の承認を必要とする
・ワイマール憲法「基本的人権の全部または一部を、一時的に停止できる」
= "一時的" との文言を用いてはいるものの、定量的な日数を規定していないため、ナチスは基本的人権を停止したままにできた
以上の2点がワイマール憲法と異なるところであり、「緊急事態条項の制定によってナチスの二の舞になるのではないか」との不安は払拭されるべきものであると言える。
そもそも、ナチスを生み出してしまうような規定を、世界の90%以上の国々が憲法に明記するはずがないのだ。
☆デマの否定☆
緊急事態条項については、非常に多くのデマやプロパガンダが拡散されている。
たとえば「他国には緊急事態条項がない」とのデマがあるが、これは「諸外国における緊急事態条項」の節において解説した通りだ。
主に先進自由主義諸国で構成され、比較的長い立憲主義の伝統を有する国が多いOECD加盟国のうち、実に79%の国が緊急事態条項と呼ぶべき仕組みを制定している。
さらに、内容はさまざまであるが、世界各国の93.2%が緊急事態条項を憲法に規定しているという。
また、第98条2項、同3項、第99条2項にわかる通り、「緊急時における強権発動」を可能としつつも、それに伴い起こり得る「権力の暴走」を防ぐ仕組みも徹底されている。
そして、これは自民党改憲草案、国維有案に共通することだが、「内閣不信任決議案の議決」は禁止していない。
不信任決議案が可決された場合、内閣は10日以内に「衆議院を解散」又は「総辞職」のいずれかを選択しなければならないが、緊急事態の宣言が効力をもつ期間中は解散が禁止されるため、内閣は必ず総辞職しなければならないこととなる。
無論、それでも「権力の暴走」が起こる可能性を完全に否定することは困難だろうが、承認の権限が国会にある以上、これは国民の選択によると言える。
日本国民を見ていると、「主権者たる自覚に欠けているのではないか」と感じる場面が多々ある。
日本が民主主義国家である以上、政治のレベルは国民のレベルだ。
政治に関心をもち、また不満を感じることそのものは素晴らしいことだが、ただ不満を垂れるだけで、議員に陳情するわけでもなく、自ら立候補するわけでもなく、すべてを政治家のせいにし、選挙へ投票にも行かない。
議員の選択は国民の選択である。それが民主主義だ。
つまり、改憲草案における緊急事態条項がここまで権力の暴走を防ぐ形となっている以上、あとは国民が主権者としての自覚を強くもち、政治に関心をもち、よく考えて投票することに懸かっている。
とはいえ、確かに不安が払拭されない方もいることだろう。
そこで、実際にそのような話も出ているようだが、三権分立(行政・立法・司法)を活かして内閣・国会の暴走を防ぐため、「内閣の判断」および「国会の承認」が本当に『緊急事態条項の規定として適格か(違憲状態にないか)』について、最高裁判所等に判断を仰ぐ形がよいのではないかと考える。
これであれば、「内閣が利己に走って不必要な政令・処分等を行う」ことや、「国会が議員任期の延長を目的とし、内閣と結託して不必要な承認を行う」こと等を防止、または直ちに解除できるはずだ。
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緊急事態条項その2
前章では「日本国憲法改正草案(現行憲法対照)自由民主党 平成二十四年四月二十七日(決定)」における改憲草案を扱ったが、これについては議論の変遷が激しい。
そのため、『(資料編)「日本国憲法の改正実現に向けて」』と「緊急事態条項に関する憲法改正条文案(国民・維新・有志の会)」における緊急事態条項案についてもご紹介する。
主な考え方としては、以下のようになる。
①自民党の日本国憲法改正草案(平成二十四年)
改憲議論のたたき台となった "元祖・改憲草案" 。
②(資料編)「日本国憲法の改正実現に向けて」
自民党が優先的に改憲したいと考えている4項目。
③国維有案「緊急事態条項に関する憲法改正条文案」
憲法審査会での議論が進み、生まれた2党1会派による条文イメージ。
「日本国憲法の改正実現に向けて」
緊急事態条項たたき台素案
(資料編)「日本国憲法の改正実現に向けて」における「たたき台素案」については、その名の通り「たたき台」であり、『方向性を示す条文イメージ』に過ぎないことには留意が必要である。
そのうえで、自民党による「たたき台素案」では「改憲草案」よりもトーンダウンし、『災害』に発動要件が絞られていることがわかる。
ここには「期限」等の権力抑制条項が定められていないが、これは「たたき台素案」であり、そのあたりについては、この後の議論において詰める想定だったのだろう。
『(資料編)「日本国憲法の改正実現に向けて」』の解説記事はこちら。
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国民民主党・日本維新の会・有志の会
緊急事態条項に関する憲法改正条文案
国民・維新・有志案では、自民党のたたき台素案よりも踏み込み、以下の5つを発動要件として定めている。
①武力攻撃
②内乱・テロ
③自然災害
④感染症のまん延
⑤その他これらに匹敵する事態
自民党改憲草案において国会は「内閣判断の可否」を判断するのみであったが、国民・維新・有志案では、「内閣判断の可否」に加え、「内閣が宣言を発しない場合に議決を行い、内閣に宣言を発させる」ことも権限として加えられた。
また、内閣が発した緊急事態の宣言に対する可否の議決に必要な賛成数が「過半数(自民党改憲草案)」から「三分の二以上(国維有案)※自民党 "たたき台素案" では任期延長議決が三分の二以上」となり、期限が「100日(自民党改憲草案)」から「6ヶ月(国維有案)」となっている。
さらに、国維有案においては「解散の禁止」に加え、「憲法改正の禁止」まで盛り込まれている。
「投票が困難であるから選挙を停止する」にもかかわらず「国民投票が必要である憲法改正を行う」というのはおかしな話であり、当然の規定とも言えるだろう。
そしてこれは自民党改憲草案、国維有案に共通することだが、「内閣不信任決議案の議決」は禁止していない。
不信任決議案が可決された場合、内閣は10日以内に「衆議院を解散」又は「総辞職」のいずれかを選択しなければならないが、緊急事態の宣言が効力をもつ期間中は解散が禁止されるため、内閣は必ず総辞職しなければならないこととなる。
「自民党改憲草案&自民党たたき台素案」と「国維有案」の大きな違いとしては、「緊急政令」の可否が挙げられるだろう。
自民党は「内閣による政令・国会の承認」によって緊急事態に対応することを想定し、国民・維新・有志の会はあくまで「国会機能の継続」緊急事態に対応することを想定している。
また、国維有案では、平時を含めた措置として、以下の2点も盛り込まれている。
・臨時会招集期限を20日以内とすること
・絶対に制限してはならない人権(内心の自由・信仰の自由・検閲の禁止・奴隷的拘束の禁止)
「緊急事態条項に関する憲法改正条文案(国民・維新・有志の会)」の解説記事はこちら。
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玉木雄一郎(国民民主党代表)の解説
YouTubeにおいて玉木雄一郎・国民民主党代表の解説を発見したため、以下、重要な箇所を抜粋。
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第百条(現九十六条)
改憲草案第100条(現行憲法第96条)は、憲法改正の手続きについて定めた条文である。
まれに「改憲は憲法の破壊」「憲法改正は憲法の軽視だ」のように言う頓珍漢がいるが、現行憲法においても改憲条項が定められている。
"改憲そのものの否定" こそが憲法の軽視と言えるのだ。
現行憲法
改憲草案
改正点【総評】
まず第一に、憲法改正への流れが変わった。
現行憲法では、以下の流れにより憲法改正が成立する。
これが改憲草案では、以下の流れへと変更される。
「発議」とはそもそも「意見や議案を提案すること」や「議事の開始を求めること」を指すので、たしかに改憲草案の流れが正しい。
そのうえで、国民投票にかけるにあたって必要な賛成数が変更された。
現行憲法→各議院の総議員の三分の二以上の賛成
改憲草案→両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成
要は、「国民投票にかけるハードルを下げる」ということである。
憲法改正はそもそも、現行憲法においても改憲草案においても、「国民投票」によって最終的な可否が判断される。
つまり、決定権が国民にあるのである。
最高法規たる憲法は時代に合わせて改正されるべきものであり、だからこそ現行憲法にも改憲条項が存在する。
そして、諸外国は何度も憲法改正を行っているが、日本国憲法は未だに、一度たりとも改正された歴史がない。
それどころか、現行憲法における「発議」すら行われたことがないのだ。
このような日本において、「最終決定者である国民に問う機会を増やす」というのは、私はよいことであると考える。
また、国民投票における必要な賛成数については、現行憲法から変更されていない。
現行憲法
改憲草案
改憲草案には「有効投票の」との文言が差し込まれたが、これは現行憲法では「国民総数(有権者総数)」の過半数なのか「有効投票数」の過半数なのかが不明確であり、現行憲法下での立法において「有効投票の過半数」と定められたからである。
憲法改正に必要な最終ハードルは有権者たる国民の投票にあるのであって、ここのハードルは一切下げられていない。
有権者たる国民に民意を問うハードルが下がったのみである。
私はこれを歓迎する。
☆デマの否定☆
この改正については、実はあまり反対プロパガンダを見たことがない。
おそらく、改憲反対派の多くが改憲草案すら読んだことがないことの証左だろう。
憲法9条第2項や緊急事態条項などセンセーショナルな改正点にだけイメージで反対し、実際の改正内容には興味がないのだろうとわかる。
改憲反対プロパガンダが噓にまみれている理由がよくわかった。
強いて「デマ」を挙げるとすれば、本章冒頭にも書いた「改憲は憲法の破壊」「憲法改正は憲法の軽視だ」のような頓珍漢言論だろう。
本章においてご紹介した通り、現行憲法においても改憲条項が定められている。
改憲そのものの否定、国民投票によって民意を問うことの否定こそが憲法の軽視と言えるのだ。
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現九十七条の削除
現行憲法第97条は、「基本的人権」について定めた条文である。
改憲草案では、これが削除された。
現行憲法
改憲草案
☆【総評とデマの否定】☆
現行憲法第97条が削除されたことを根拠に、「基本的人権がなくなる!」と騒ぐ者がある。
しかし、これは明確に否定できるデマだ。
現行憲法第97条が削除された理由は、現行憲法および改憲草案第11条と内容が重複しているからである。
これは、改憲草案の第11条だ。
これについては、「日本国憲法改正草案Q&A増補版」にもその旨が記載されている。
そのうえで、改憲草案では、前文に「基本的人権」の文言を盛り込んでいる(現行憲法の前文にはこれがない)。
これらを根拠に、「基本的人権がなくなる!」というのが誤りであると断言できる。
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☆デマQ&A☆
改憲は憲法軽視
Q. 憲法の内容を書き換えることは憲法の軽視であり、立憲主義への冒涜では。
A. 現行憲法第96条に改憲手続きについて定めた条項が存在するため、憲法改正は憲法に認められた正当な行為である。
自民党による壊憲
Q. 自民党が勝手に憲法を改悪して破壊し、ねじ曲げようとしているのでは。
A. 第96条が規定する通り、改憲には「衆参両院の2/3以上の賛成」と「国民投票における過半数の賛成」が必要となる。
つまり憲法改正の決定権は日本国民が持つのであって、自民党が国会決議等によって改正できるものではない。
立憲主義の否定
Q. 憲法は「権力を縛るもの」であって、「国民に責任・義務を課し、国民を縛るもの」である自民党の改憲草案は立憲主義を否定しているのではないか。
A. まず第一に、自民党の改憲草案は「国への縛りを廃し国民への縛りへ特化した草案」ではない。
また、立憲主義は「個人の権利や自由を守るため、憲法により国家権力を制限すべきだという考え方(朝日新聞)」であるが、これは「憲法に国民の義務を明記することを否定する」ものではない。
現に、現行憲法にも「教育を受けさせる義務」「勤労の義務」「納税の義務」が規定されている。
諸外国の憲法を確認しても、「憲法に国民の義務を明記することは立憲主義の否定である」とは言えない。
さらに、改憲草案では前文に「基本的人権の尊重」を盛り込んでおり、「国民の権利や自由を守る」ことが軽視されているとは言い難いのである。
国民主権の否定
Q. 自民党改憲草案は国民主権を否定しているのでは。
A. 改憲草案の前文には、「国民主権」「基本的人権を尊重する」「平和主義」の文言があり、これは当然、効力を持つ。
戦前回帰
Q. 「天皇」の地位が「元首」となるので戦前回帰となり、国民主権が否定されるのでは。
A. 改憲草案においても「天皇」は「象徴天皇」であり続け、また「国政に関する権能を有しない」という点にも変更がない。
「元首」とするのは、国際的な実態に合わせ、国家元首不在憲法である現状を改善するのみである。
「天皇」の権能は現行憲法とほぼ変更がなく、「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」であり「統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ」であった大日本帝国憲法とは似ても似つかない。
そして、「その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」としている以上、主権が国民に存することは明白であり、「国民主権でなくなる」というのも明確な誤りである。
平和主義の放棄
Q. 現行憲法第9条2項を廃止する自民党改憲草案は、日本国憲法の三大原則(「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」)のひとつである「平和主義」を放棄しているのではないか。
A. 現行憲法9条が属する「2章」の「戦争の放棄」を「安全保障」と書き換え、「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を明記する第9条2項の内容を廃止することから、「平和主義」を放棄していると読む方は非常に多い。
しかし、自民党改憲草案では、国連憲章第2条4項に準拠した「侵略戦争禁止条項」である第9条1項を堅持しており、第9条1項に明確に「平和主義」との題を盛り込んでいる。
このように、「平和主義」は踏襲しつつ(「平和主義」と直接的に書き込んだことを考えれば、この精神については強化されたとも言える)、「我が国の平和を脅かす者があれば合法的に排除し、我が国の平和を守る」というのが自民党改憲草案である。
よって、自民党改憲草案は何ら平和主義を否定してはいない。
徴兵制度
Q. 自民党改憲草案による憲法改正が成立すれば、「徴兵制」が導入されるのではないか。
A. 日本政府は「徴兵制は違憲」としており、その根拠の一つとして憲法18条を挙げている。
この「その意に反する苦役」に徴兵制が該当するためである。
そしてこの「その意に反する苦役に服させられない」は、改憲草案においても踏襲されている。
よって、憲法改正を理由に徴兵制を導入することは不可能であると言える。
※第13条も徴兵制を違憲とする根拠として挙げられるが、自民党改憲草案では改正対象となっており、改正後も主たる性質は変わらないが「13条は改正される」として否定言論が予想されるため、現状としては18条、もしくは13条と18条の併記によってデマを否定することが望ましい。
国会軽視
Q. 改憲草案の第63条2項に「内閣総理大臣及びその他の国務大臣は、答弁又は説明のため議院から出席を求められたときは、出席しなければならない。ただし、職務の遂行上特に必要がある場合は、この限りでない。」とあり、これは国権の最高機関たる国会を軽視しているのではないか。
A. 第一に、第63条2項は総理大臣および国務大臣の国会出席義務を定めている。
後半のただし書きは例外について定めたものであり、現行憲法において、これがないために国益を損ねた事例がある。
このように、外交よりも国会を優先し、日本の信用を落とした結果、被害を受けるのは日本国民である。
経済的な協力や安全保障上の連携を失っては、そのしわ寄せが国民へ行くことは明らかだ。
改憲草案第63条2項の規定は、「国会軽視」ではなく「国益重視」の条文であると言える。
緊急事態条項=ナチス
Q. 緊急事態条項を憲法に定めると、ナチスのような独裁体制を生み出すのでは?
A.「諸外国における緊急事態条項」の節において解説した通りであるが、主に先進自由主義諸国で構成され、比較的長い立憲主義の伝統を有する国が多いOECD加盟国のうち、実に79%の国が緊急事態条項と呼ぶべき仕組みを制定している。
また、内容はさまざまであるが、世界各国の93.2%が緊急事態条項を憲法に規定しているという。
そのうえで、自民党改憲草案とワイマール憲法には以下のような違いがある。
①基本的人権の制約程度
・自民党改憲草案「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」
=自民党改憲草案の緊急事態条項では基本的人権が停止されない
・ワイマール憲法「基本的人権の全部または一部を、一時的に停止できる」
=ワイマール憲法では基本的人権を停止することができた
②緊急事態条項の期限
・自民党改憲草案「百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない」
=自民党改憲草案では "緊急事態の宣言" の有効期間が100日であるとされており、これを超える場合は再度、民意の代表である国会の承認を必要とする
・ワイマール憲法「基本的人権の全部または一部を、一時的に停止できる」
= "一時的" との文言を用いてはいるものの、定量的な日数を規定していないため、ナチスは基本的人権を停止したままにできた
以上の2点がワイマール憲法と異なるところであり、「緊急事態条項の制定によってナチスの二の舞になるのではないか」との不安は払拭されるべきものであると言える。
基本的人権の削除
Q. 自民党改憲草案では第97条が削除されており、これは基本的人権の否定を意味するのでは。
A. 第97条削除の理由は、第11条と内容が重複しているから。
これについては、「日本国憲法改正草案Q&A増補版」にもその旨が記載されている。
そのうえで、改憲草案では、前文に「基本的人権」の文言を盛り込んでおり、当然、これは効力を持つ(現行憲法の前文にはこれがない)。
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まとめ
47,000字を超える記事となってしまいましたが、お付き合いをいただきありがとうございました。
「最高法規たる憲法の改正については、賛成であれ反対であれ、正しい情報・知識のうえに議論がなされるべきである。」
との立場に基づき、現行憲法と改憲草案の条文をそれぞれ引用しながら綴ってまいりました。
日本国憲法は、我が国に生きるすべての者に関わる重要なもの。
この改正議論が、デマに基づいて行われてよいはずがありません。
ただし、私は明確な「憲法改正賛成派」であり、本記事にもそれが色濃ゆく反映されています。
私見が反映されています。バイアスがかかっています。
また、本記事ではデマの多い改正点について抜粋してご紹介したに過ぎず、全改正点について解説を行ったわけではありません。
ぜひ、さまざまな発信から情報を得、吟味し、考え、結論を出してください。
貴台が正しい情報を基に考え、自分の意見を確立できるよう願っております。
令和6年(皇紀2684年)3月23日 國神貴哉
P.S. 國神からのお願い
最終的に47,000字を超える記事となってしまいましたが、お付き合いをいただきありがとうございました。
「憲法は日本における最高法規であり、その改正については、賛成であれ反対であれ、正しい情報・知識の基に議論が行われるべきである」という私の立場は、皆様にもご納得いただけるものと思います。
しかし、多くの有権者のみなさんはお忙しく、また政治に強い関心がある方も少なく、ファクトチェックに手が回っていない方も多くいらっしゃるものと存じます。
そのような方に事実をお伝えすることができればと、本記事を執筆いたしました。
ですが、noteには広告収入の形式がなく、本記事がいくら読まれようと私には一銭も入りません。
もちろん、自身の収益は二の次であり、儲からずとも日本のために筆を握る所存です。
とはいえ、私もただの21歳。
食っていくことができなければ、このように情報を集めてお届けすることが困難となってしまいます。
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