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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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#消雲堂綺談

「血」

「血」

仕事場に向って急いでいると小さな十字路があった。
見れば警官が数人道路にしゃがみ込んで何かを調べている。
そのなかのひとりの警官に「なにかあったんですか?」と聞いてみる。
「交通事故です。あ、あちこちに血だまりがあるので気をつけて歩いてください」
「あ、はい」
見れば十字路の中央周辺に大小の赤黒い血だまりができている。
血を踏まないように注意して歩いて仕事場に向った。
しばらく歩いていると足元から

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骨を食らう女(再掲載)

骨を食らう女(再掲載)

その日、僕は仕事で荻窪に出かけた。仕事が済んだのは午後9時。荻窪駅のホームに上がる階段をゆっくりと歩いていると、ちょうど黄色い総武線の電車がゴトゴトと走ってきたので、僕は階段を踏み外しそうになりながらも電車に飛び乗った。

電車は津田沼行きだった。電車は荻窪駅から千葉方面に向かって走る。お茶の水で乗り換え不要の中央・総武緩行線だ。

20代に新宿区上落合に住んでいた僕は、東中野駅も最寄り駅のひとつ

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百物語 18「人を喰らう話」

百物語 18「人を喰らう話」

六国史のうち、平安期に編纂された、清和、陽成、光孝天皇の代である天安2年(858)から仁和3年(887)の国史「日本三代実録」には以下のような話が掲載されています。(中公文庫 日本の歴史「平安京」から)



8月のある晩、午後10時頃に、内裏(天皇の居住地域のこと)・武徳殿東縁の松原の西に美しい女が三人、東に向って歩いていると、ひとりの男が松の木の下に佇んでいた。これがなかなかの美男で、ひとり

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芸能人連続自死事件 壱

芸能人連続自死事件 壱

*あくまでも作り話です。実在の人物事件とは無関係です。

「依頼」

その日、神田明神下にある探偵、伊能清春の事務所に女性の訪問客があった。異能の事務所は明神下側の階段「男坂」の中腹の踊り場にある。男坂の階段を昇降する参拝客は少なかった。旧型コロナ禍であり、非常事態宣言なるイベントのような出来事が数度続いていたから外出は自粛されていたからだ。

訪問客の女性は櫻田ちなみと名乗り、異能が勧めるソファ

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百物語16「人食い」前編

百物語16「人食い」前編

結膜下出血したのです。

これは結膜下の細い血管が破れて出血したものです。白目がじんわりと血液で赤く染まります。結膜下の出血なので、眼球から出血する訳ではありません。白目は「眼球結膜」で覆われています。これはまぶたの裏側にまで覆われています。

眼医者の話では出血が治まるのは早くて1週間ほどですが、長引けば2~3カ月かかってしまうのです。

まぁ僕が境界型糖尿病で高血圧、コレステロール過多なので、

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百物語13「オセロ」

百物語13「オセロ」

死んだ叔父とオセロゲームをしている。
僕が白で叔父が黒だ。盤面はほとんど白く、僕が優勢のようだ。
叔父が僕の駒を返して黒くする度に身体に痛みが走る。
しかし、叔父は、その痛みを感じないようだ。死人だからだろう。
伯仲の戦い。なかなか勝負がつかない。
それにしても駒が返される度に身体の痛みは酷くなる。
そして…。
「ほうら、かっちゃん、すべての角を取ったぞ!」突然、叔父が叫んだ。
「ああっ!」盤面の

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百物語12「湖」

百物語12「湖」

高校生の時のことだ。その頃は福島県に住んでいた。父親の故郷が猪苗代町だったし、5歳違いの従兄(本当は従兄の子どもであるから従甥なんだけど、めんどうだから従兄と呼んでいた)が猪苗代湖畔でドライブインを経営していたので、夏休みになると、バイクに乗ってドライブインに行って湖で遊んだ。

ドライブインを始める前までは、従兄と一緒に泳ぎに行っていたのだが、彼はドライブインの調理も担当しているから時間がない。

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百物語11「ホーム」

百物語11「ホーム」

月に2度ほど、仕事で東京に出る際には自宅の最寄り駅から電車に乗って、隣の駅で別な路線電車に乗り換えるのだが、乗り換えるホームの反対側のホームの隅に赤い服を着た男女が4人立っている。

初めは、乗り換える際にちらりと見かけるだけだったが、毎回、同じ服を着て同じ場所に立っているので、次第に気になるようになり、注意して見るようになった。

はじめは、お揃いのユニフォームを着てスポーツ観戦にでも行くのだろ

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影を消す男

影を消す男

僕は久しぶりに鏡の前に立ち、まともに僕の影と向かい合った。僕の影も勿論微笑していた。僕はこの影を見つめているうちに第二の僕のことを思い出した。第二の僕…独逸人の所謂ドッペルゲンガーは仕合わせにも僕自身に見えたことはなかった。芥川龍之介「歯車」より

「影を消す男」

僕は夜の散歩を日課としている。昼間は働いているので、夜7時頃に帰宅してからスポーツウェアに着替えてすぐに自宅周辺を歩く。目標歩数は8

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百物語6「幽霊」

百物語6「幽霊」

江戸時代の怪談から

能州(現在の石川県)飯山の谷合に神子ヶ原という村があった。

村の百姓某の妻は脇に鱗があり、乳房が長く、子供を背負い乳房を肩にかけて乳を飲ませていた。さらに妻は力持ちで男にも負けたことはなかった。

その妻は、ある日、病死してしまう。死後17日目に妻の幽霊が現れて夫を取り殺してしまった。

その後も村にその幽霊が現れて、女子どもが恐れた。そこで、村の作蔵という男が「死人の墓に

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百物語5「辻斬り」

百物語5「辻斬り」

生涯に81人を斬ったという侍がいた。神田佐久間町にあった佐竹藩の中屋敷に暮らしていた佐竹藩士の岡部菊外という男だ。

人を斬るのが飯より好きな彼は、新刀を買う度に「七人を斬ってみなければ刀の本当の切れ味がわからない」と言っていた。彼の刀には血糊が付き、これが刀の柄に染み付くと、柄が腐ってしまうので、刀の柄巻師へ次々に刀を持ち込む。

しかし、辻斬りというのは通り魔か無差別殺人鬼のことだ。侍だから殿

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百物語4「上の音」

百物語4「上の音」

僕は3階建ての古いアパートの3階に住んでいる。古いといっても、昭和40年代に西洋風建築を取り入れた鉄筋コンクリートづくりで、造りはしっかりしている。そうはいっても、やっぱり古い。

少し前からおかしなことが起きている。昼夜構わず天井の上で子どもが走っているような音がするのだ。僕の部屋は最上階の3階だから天井の上ということは屋根の上を走っているということになる。ベランダに出て屋根の上を観察してみるが

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百物語3「後部座席の影」

百物語3「後部座席の影」

父の会社が倒産すると、父はすぐに神奈川県Y市にある建設会社の面接を受けて、そこで働くことになった。当時、福島県K市に住んでいた僕たちは家族全員で父が就職した会社がある神奈川県Y市に引っ越すことになった。

そのとき僕は群馬県I市にある大学に在学中だったが、大学にはほとんど行かずに1年留年を2回繰り返しており、既に大学を卒業する気はなかった。これ幸いと大学を中退した僕は、父から借りていた車に乗って神

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「彼女」

「彼女」

都会生活が嫌になって、流行の田舎暮らしをしてみようと関東近郊のC県の山奥に建つ古民家を買って住んでみた。その古民家は約100坪の土地付の100万円という値段だけあって、屋根以外、ほとんどがボロボロの荒ら屋だった。それを毎週末に通って少しずつ修理して、半年ほどで暮らせるようになった。

それでも実際に移住するまでは1年半ほどかかった。田舎暮らしには時間がかかる。まずは住居まわりの雑草を抜き、大量の砂

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