紫にまぎれる 幽木武彦

 福澤さんというお客さんから聞いた。
 八年前のことだそうだ。彼女は、当時三十四歳。若いころからアクティブで、仲のいい夫と二人、アウトドアな生活を楽しんだ。
 そんな夫が、事故で早世した。
 福澤さんは憔悴したが、立ち直らせてくれたのは、かつてのツーリング仲間だった。ツーリングは、夫と出逢ったきっかけでもある、かけがえのない趣味だった。
 よく晴れた、秋のある日。
 気心の知れた二人の女性と、N県

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第43話 都市伝説『降霊術』(秋の特別編)

以前やりました降霊術という名のこっくりさん実況中継を、今回もしました。

呼び出したのはお馴染み、怪談の神様と呼んだら現れたクトゥルフ神話体系の創始者、H・P・ラヴクラフト先生です。

怪談系YouTuberとして、

「再生数を伸ばすにはどうしたらよいか?」

ということをラヴクラフト先生に聞いたのですが、彼も答えに窮したのか、結局また新しいクトゥルフ神話を書け、ということでした。

(前回言わ

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こわいですねー

第42話 『あんず飴』(BJ・お題 『祭り』)

 串に刺したものにはけで塗る作業を繰り返す男
 隣できょろきょろ見回し、前を覗き込む女。
 引かれた手をほどき、その向かいに駆け寄ってしゃがむ女の子。
 「Cool」と、カメラのシャッターを切る男。

「あっちはあんず飴を売っていて、あっちが焼きそば屋に並んでいて、金魚すくいを覗き込む子と、写真を撮っている外国人。祭りだね」
「しっ、よせよ」

 男の手にはなにもなく、何かを塗るような動きをしてい

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素敵な恐怖を!

第41話 怪談『不撓な人々』(バス・お題 『祭り』)

祭りの独特な雰囲気は子どもの頃からすごく好きでした。
縁日では、色々美味しいものがあり、くじ引きで、おもちゃを当てたりと楽しい事がいっぱいでしたね。 
ですが、祭りには楽しい部分だけでなく、激しくぶつかったり、山から大木で滑り落ちたりと危険な祭りも沢山あったりもします。

例えばですが、私の地元にも祇園祭があったりしますが、その祭りの下敷きになって亡くなっても事故になるそうです。
これは以前、四谷

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恐怖倍増!
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献花の谷 神沼三平太

 都内に勤める小松さんの話。
 高校時代からの腐れ縁の友人の気まぐれで企画した、女二人連れのハイキングの途中で、目的地までの道を間違えた。好奇心が服を着て歩いているような友人の先導なので、案の定というか、こうなるだろうと予想はついていた。
 幸いすぐに気づいたので、元来た道を戻ればいいだけだ。所々剥げてはいるが、地図にも載っている舗装道である。迷うことはない。
 だが友人の背中に声を掛けても、聞こ

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聞こえてくる音 小田イ輔

 Aさんは農業を営んできた七十代の男性、現在は殆どの仕事を跡継ぎである長男に譲り、半隠居生活を送っている。

「時々、ジャバジャバってよ、大きい水の音なんだよな、どっからともなく」
 彼の話によれば、幼い頃から家の中でそんな音を聞くという。
 住んでいるのは大きな古民家、リフォーム済で、今でこそ現代風のオシャレなそれになっているものの、以前はいかにも農村の日本家屋といった趣であったそうだ。
「生ま

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沈んだ街で 春南 灯

 碧い湖水、葉のない枝を広げる立ち枯れた木々、水鏡に浮かぶ雲――その光景はあまりにも幻想的で、まるで異界を覗き込んだかのようだったという。
 シューパロダムの完成により、ダム湖の底に沈んだ集落の一部が、渇水期にのみ露わになることを知り、野口さんは中学まで暮らしたこの地を数十年ぶりに訪れた。
 眼下に広がる光景に、記憶の街並みを重ねてみたが、本当にここがあの鹿島なのか――故郷が消えた悲しみに肩を落と

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脇見運転 真白圭

 ある夜、豊田さんが埼玉市内で車を運転していたときのこと。
 道路の左手側に見えた、一軒の明かりのない住宅が無性に気になった。
 別段、外観に特徴がある訳でもないが、何かが心に引っ掛かるのだ。
 門前を通り過ぎる瞬間、車窓から玄関口を見詰めて――
(あぁ、此処は一家惨殺があった家だな)と思い出した。
 が、事故物件に興味は無く、事程左様にあの家が気に掛かる動機もない。 
 それはわかっているのだが

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頑張り布団 小田イ輔

 A君はその日、秋晴れの下、一人で車に乗り高速道路を走っていた。
 道路状況もスムーズなドライブ日和のなか、心軽やかにアクセルを踏んでいた昼過ぎ、ふと、妙なことに気付いた。
 角度的に難しく全貌は捉えられないが、どうも小さな布団から手足が生えているようなものが、スタントマンよろしく前を行く車の屋根にへばりついている。
 見える限り、伸びた四肢はリアルで、踏ん張っているような力感があり、人形などの類

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第40話 『背後』(BJ・お題 『ハロウィン』)

 あの時からに違いない。きっとそうだ。私が背後に恐怖を感じるようになったのは。小さい頃のあるハロウィンの夜のことだ。この年になっても、この時のことだけはよく覚えている。
 まだ物心ついたばかりの頃だった。お菓子をもらうために近所を歩き回って帰って来てからなかなか眠ろうとしなかった私達兄弟に、父が話を聞かせてくれた。どんな内容だったかは覚えていないが、ブギーマンが出てきたのと、話の最後で父が、早く寝

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悪霊退散!
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