1000文字ショート(ホラー)/いじめ怪談会

「あんな怖い怪談会はなかった」
 Kは、話し始めた。

 Kのぬっぺりとした顔は、不気味だ。
 存在そのものが、こっちを不安にさせる。 

 彼は今、怪談師をしている――その業界では、ちょっとは知られている。

「自分で言うのは、ちょっと恥ずかしいが、怪談に関しては誰にも負けない。譲れない」
 話し続けるK。

「他の怪談師同様、怖さにも免疫がある。だから、ちょっとやそっとじゃ怖いなんて思わない」
 
 巷に溢れる怪談が、作り物に見える。
 怪談師の怪談で本当に怖いものなんてない。 
 やらせも多いし 

「だけど、あの怪談会だけはトラウマになっている」

 中学生の頃。
 僕はいじめられていた。
 典型的ないじめられっ子。
 殴る蹴る、当たり前。

 ものまねの上手いヤツって、ものまねをやってればいじめられなかったりするだろ。

 僕は、怪談が上手いというのが取り柄だった。
 みんなの前で、怪談をすれば殴られなくて済んだんだ。

 ある日、学校の英語の授業で、ラフカディオ・ハーンが取り上げられた。
 英語教師が、テキストから抜き出してきた。
 クソ・ティーチャー。
 今でも許せない。

「そのうち、いじめっ子のリーダーが耳なし芳一の話を再現させるという罰を考えてきた」

 僕は学校の屋上に連れて行かれた。

“目隠し”をされる。  
 抵抗などできない。

「ビデオで撮影しているから、逃げてもわかるぞ。その時は命はないぞ」
 不良たちが僕の腕を手錠で椅子と繋いだ。 
 
 4、5人はいた。
 いつものメンツ。

「つまり、誰もいない屋上で“百物語”をしろというんだ。真夜中の屋上で、一人きりの怪談会だ」

 不良たちは、僕を置き去りにしていく。
 離れ際、つま先で腹を蹴られた。
 
 大丈夫だ。
 無事に物語を終えれば、イジメから解放される。
 
 遂に“百物語”が始まった。
 ビデオで撮られているから辞められない。 

 70話目あたり。
 不良たちが戻ってきた。
 
 不良たちは押し殺した笑い声を上げながら「ガンガン」と椅子を蹴ってくる。
 首を絞めてくる。
 苦しい。

 死ぬ。

“百物語”を終えた僕は、そのまま崩れ落ちてしまった。
 意識を失ってしまう。
 
 数日後、
「傑作だった」不良たちがビデオを見せてくる。

 嘘。
 僕は震え出す。

 誰も映っていない。
 途中で不良たちなど戻ってきてはいなかった。
 
 一人きりで、見えない悪霊に襲われながら、話し続ける。狂った僕の姿が映し出されているだけだった。


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