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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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2022年12月の記事一覧

百物語16「人食い」前編

百物語16「人食い」前編

結膜下出血したのです。

これは結膜下の細い血管が破れて出血したものです。白目がじんわりと血液で赤く染まります。結膜下の出血なので、眼球から出血する訳ではありません。白目は「眼球結膜」で覆われています。これはまぶたの裏側にまで覆われています。

眼医者の話では出血が治まるのは早くて1週間ほどですが、長引けば2~3カ月かかってしまうのです。

まぁ僕が境界型糖尿病で高血圧、コレステロール過多なので、

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「妄想邪馬台国」3

「妄想邪馬台国」3

「多分、もう少しで終わるから我慢しなよ」治子が笑った。
「稗田は短気なんだよ」異能が僕の肩を叩きながら治子を見て笑った。
「じゃあ、もう少し我慢するから話を続けてよ」僕はふてくされてコタツの上に頬杖を突いた。
「どこまでいったっけ?」
「天岩戸よ。タヂカラオがアマテラスを引っ張り出すところ」
「そうだった」

岩屋の外の騒ぎが気になったアマテラスは天岩戸を開けて身を乗り出した。それを見て、タヂカラ

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「妄想邪馬台国」5

「妄想邪馬台国」5

異能は本棚から落ちてきた分厚い本が頭にぶつかって倒れた。
「だ、だいじょうぶ?」治子が異能のそばに駆け寄った。すると治子のミニスカートがまくれ上がってピンク色のパンティが丸見えになった。治子はそのことに気づかない。
異能は、それを見て、気絶したふりをしながら薄目を開けて治子のパンティを凝視した。

「大丈夫なの? ねぇ、異能くん、ねぇ…。ねぇ稗田くん、救急車呼ぼうか?」治子が本気で心配している。

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「妄想邪馬台国」4

「妄想邪馬台国」4

豊葦原では大きな争乱があった。

アマテラスが高天原の天の浮橋から地上を見ると、騒がしいので、八百万の神々を集めて「地上は争いが絶えぬようだから、これを治めるにはどの神を地上に降ろせばいいのか?」と神々と相談した。

結局、天菩比神(あめのほひのかみ)を地上に降ろすと、アメノホヒはオオクニヌシに媚びるばかりで、彼からは三年も音沙汰がなかった。

天若日子(あめのわかひこ)を地上に降ろしたが、彼はオ

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「妄想邪馬台国」2

「妄想邪馬台国」2

「出雲国譲りって知らないの?」
「うん」
「古事記を読んだことはあるでしょ?」
「ごめん、ないんだ」
治子が呆れている。
「出雲国譲りとは天津神(天照大神)が国津神(大国主命)から葦原中国(出雲)を譲り受ける神話のことよ」
「へぇ」
「天津神は高天原にいるでしょ? 国津神は日本にいる。私が思うに高天原とは朝鮮半島のことで、半島から渡ってきた人びとによって、出雲を治めていた先住民族が駆逐されてしまっ

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「妄想邪馬台国」1

「妄想邪馬台国」1

1978年の初冬。赤城おろしが吹く季節になった。

群馬県伊勢崎市連取本町の平和荘。地元の国立大学に通う異能清春の部屋だ。異能の部屋の北側には歴史書、法律書や犯罪心理学書、それにどこから持ってきたものか気味の悪い死体検案書や犯罪者の陳述書のコピーなどが積まれ、西側には探偵小説や怪奇小説が同じように積まれている。いずれもカビ臭く湿気を伴っていることから相当に古いものだ。本以外は布団がかかったコタツし

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百物語15「忘れ物」

百物語15「忘れ物」

雨が降っていた。

僕は船橋から最寄り駅までの電車に乗っている。
車窓のガラスには進行方向から後方に向けて雨水の筋が走っていく。車窓の外に光る街の電光看板の灯火を雨水の筋が引っ張っては消えていく。

数駅に停車したあと僕の最寄り駅の灯りが見えた。電車は少しずつブレーキをかけながらゆっくりと駅のホームに入っていく。僕は早めに降車の準備を始める。せっかちなのだ。

電車が停車してホームのプラットホーム

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百物語14「鏡」

百物語14「鏡」

本当の話だから面白くはない。

鎌ケ谷大仏駅の側に八幡神社がある。参道には百庚申と呼ばれる無数の庚申塚がある古い神社だ。

僕は鎌ケ谷大仏駅の駅ビルにあるカルチャースクールで講師をしていて、その帰りにこの神社に参拝している。神も仏も信じてはいないが、長く続いてきた歴史遺構として手を合わせて拝む価値があると思っているだけだ。

八幡神社は、以前、鬱蒼とした林のなかにあったが、数年前に全ての木が切り取

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百物語13「オセロ」

百物語13「オセロ」

死んだ叔父とオセロゲームをしている。
僕が白で叔父が黒だ。盤面はほとんど白く、僕が優勢のようだ。
叔父が僕の駒を返して黒くする度に身体に痛みが走る。
しかし、叔父は、その痛みを感じないようだ。死人だからだろう。
伯仲の戦い。なかなか勝負がつかない。
それにしても駒が返される度に身体の痛みは酷くなる。
そして…。
「ほうら、かっちゃん、すべての角を取ったぞ!」突然、叔父が叫んだ。
「ああっ!」盤面の

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百物語12「湖」

百物語12「湖」

高校生の時のことだ。その頃は福島県に住んでいた。父親の故郷が猪苗代町だったし、5歳違いの従兄(本当は従兄の子どもであるから従甥なんだけど、めんどうだから従兄と呼んでいた)が猪苗代湖畔でドライブインを経営していたので、夏休みになると、バイクに乗ってドライブインに行って湖で遊んだ。

ドライブインを始める前までは、従兄と一緒に泳ぎに行っていたのだが、彼はドライブインの調理も担当しているから時間がない。

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百物語11「ホーム」

百物語11「ホーム」

月に2度ほど、仕事で東京に出る際には自宅の最寄り駅から電車に乗って、隣の駅で別な路線電車に乗り換えるのだが、乗り換えるホームの反対側のホームの隅に赤い服を着た男女が4人立っている。

初めは、乗り換える際にちらりと見かけるだけだったが、毎回、同じ服を着て同じ場所に立っているので、次第に気になるようになり、注意して見るようになった。

はじめは、お揃いのユニフォームを着てスポーツ観戦にでも行くのだろ

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百物語10「妖刀」

百物語10「妖刀」

出版社で働いていた時のことだ。

家電メーカーH社の子会社(システムエンジニア企業)が僕の顧客のひとつだった。そこの取材対応してくれていたのがF課長だった。彼は刀剣マニアで、たくさんの古刀を所有していた。実際に見たわけではない。彼自身と彼の部下たちから聞いた。

彼が所有している刀剣には値打ちがあるものも多く、「資産として集めてるんです」と言っていたのを記憶している。なかでも特に鎌倉時代の古刀のこ

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百物語9「見知らぬ人」

百物語9「見知らぬ人」

夜に散歩をしていると見知らぬ人から話しかけられることがある。2日前に船橋の裏道を歩いていると、自転車に乗った同年代くらいの女性に話しかけられた。

街灯が少し離れたところにあって薄暗かったので女性の顔ははっきり見えなかったが笑っているようだった。

「あたしさ、昔、この辺りに住んでいたんだけれど、道に迷っちゃってさ、ここ、なんて街だかわかる?」

昔住んでいたのなら街の名ぐらいわかるだろうに…と思

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