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短編

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数分以内に読める怪談です。
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記事一覧

不幸の花屋【短編】

不幸の花屋【短編】

「いらっしゃいませ。本日はどういった物をお探しですか?」
 店に入るとふんわりと甘い香りを漂わせながら、エスニックな装いの店員が現れた。何処と無く、妖艶とか甘美とかの単語を連想させる見た目だ。年齢は50くらいなのだろうが、瞬間瞬間によってそれ以上にも見えるし下にも見える。
「ちょっと……人に送りたくて」
「花束や鉢植、1輪などございますがお気持ちに併せて大きくしていくのが効果的ですね」
「……ちな

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良い子にしていれば

良い子にしていれば

 カチコチと時計が鳴る。
 もう間もなく12時を回って、サンタがプレゼントを持ってきてくれる。
 今年は最新のゲーム機をお願いした。去年は好きなキャラクターのグッズが沢山貰えたし、一昨年は後輪も変速出来る自転車を貰えた。
 僕がきっと良い子にしていたからだ。
 それに比べてあいつは悪いヤツだ。
 服はいつも同じで汚いし臭い。話しかけてやっても全然返して来ない。勉強も出来ないし運動音痴だしとにかくど

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松茸狩り【不思議な話】

「美味し〜い!」
山の麓にある隠れ家的小料理屋で、松茸尽くしのコース料理を食べていた。
日に数客しか取らないというが、これだけの贅沢な料理ならばそれも頷ける。
たまにはと思って奮発し、片道2時間の道のりをやってきたのだ。これくらいあってもらわねば。
食べ終わる頃店主が席にやってきたので、一頻り褒めちぎって世間話をした所、気を良くしたのかこんな提案をしてきた。
「こんなド田舎ですし、お客様もそんなに

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二人用台本【高速バス】

二人用台本【高速バス】

素舞台想定
椅子(箱でも可)が二つ以上

バスが走行する音。
上手から下手へと車が追い越して行く音。

明転

舞台上の中央は薄暗い蛍光灯の様な光が当てられ、その周辺は暗くなっている。
時折、オレンジやグリーンの細く小さい光が、下手から上手へ勢いよく流れていく。
舞台上には携帯を操作するAと、その横に座りうつらうつらとAに寄りかかるBがいる。
少ししてBが大きく船を漕いだ。

A「ちょっと、首痛め

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山に埋まっていた物【怪談】

山に埋まっていた物【怪談】

作業員全員が土の詰まった筒を見て固まっている。

地質調査の為に訪れたこの山地で、通常通りのボーリングを行った際に異変は起きた。
土の詰まったパイプを外し中身を確認した所、地面から数メートル下の部分で人骨が発見した。人骨が見つかるのは別段珍しい事では無い。
問題なのは、それが1番上の人骨から約2メートルおきに3箇所、綺麗に頭蓋骨のみが入っていたからだ。
つまり、体の向きはどうあれ、全く同じ位置に人

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呪いの手紙【ホラー】

呪いの手紙【ホラー】

何故こんな手紙が貴方宛に届いたのか、皆目検討もつかないでしょう。両親にも恵まれ、順風満帆な学生生活を送り、社会人としてもキャリアがあり、奥さんに子供が2人もいる。それなりの苦労はありつつも贅沢や旅行で楽しい一時を過ごしていますね。しかし私はそんなあなたに死んで欲しい。可能な限り苦しみ抜いて一縷の希望に縋り、それにすら裏切られて絶望の中汚らしく惨たらしく死んで欲しい。あなたがこの世界にのうのうと生き

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田原坂【怪談】

私が学生時代に間接的にだが体験した、友人の心霊体験をふと思い出したので書いておきたい。

学生時代私は、クラスメイトが福岡から鹿児島、鹿児島から福岡への自転車旅行を夏休みに敢行したのに感化され、実家のある熊本への自転車帰省を思い付いた。

当時、博多駅付近に住んでいたので、実家までは単純計算で片道120kmの道のりがあった。
結論と言うかオチと言うか、先にお伝えしておくが、根性が無かった為に復路は

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年明け早々の【オカルト】

年明け早々の【オカルト】

「あー・・・・明けましておめでとうございます」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おめでとう」
神社へ延々と続く人の波の途中、あと半分といった所で日付が変わり、至る所から新年の挨拶が聞こえてくる。
何時間ぶりに口を利いただろうか?まず間違いなくこの波に並び始めた時から、お互い咳の一つもしていないと思う。最寄り駅に着いてから?いや電車に乗る時もその前の居酒屋でも、言葉を交わした記憶がない。
しか

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クリスマスと夢の後ー真澄編ー

クリスマスと夢の後ー真澄編ー

「……これは不味いわね」

項垂れる男を目の前にして、私はそう呟いた。

この悲壮感溢れる男の名前は「江藤真澄(ますみ)」。29歳、独身、彼女無し、至って普通のサラリーマンである。項垂れ、溜息をつき、デパートの商戦に上手いことほだされ、来たるクリスマスを孤独に迎えようとしているのだった。

私は真澄の幼馴染であり、家も隣で、それはまぁ仲良しだった。家族ぐるみでの付き合いもあったし、恋の悩みを相談す

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鏡の池【都市伝説】

鏡の池【都市伝説】

特に名前もない、何の変哲もない溜池がある。元々は農耕用だったのだが、過疎化と共にただ生活排水を垂れ流す為だけになってしまった、どこにでもありそうな池。
だがいつ頃からかその池は「鏡の池」と呼ばれる様になった。藻や浮草、生活排水その他諸々によって鏡と言うには程遠い汚さと反射率なのだが。

月の無い夜に覗き込むと、鏡を張った様に綺麗に自分の姿が水面に映るのだと言う。そこですかさず
「お代わりください」

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いたずら電話【都市伝説】

コールセンターで働いていると稀に妙な電話が掛かってくる事がある。大抵はイタズラ電話の類いとして処理される方が殆どだが、明らかに「そういうもの」の場合もあるのだ。
先月私が取った電話では、初め風を切る様な「ビュー」とか「ゴー」みたいな音が聞こえたと思ったら一瞬人の話し声が聞こえ、そのすぐ後に凄まじい衝突音がした。あまりの大きさにヘッドセットを外してしまったが、付け直した時には普通に客が話していた。客

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虫【怪談】

虫【怪談】

友人の両親が営む実家兼食堂で昼食を食べていると、突然、友人が右手で顔の近くを払う様な仕草をした。聞くと「虫がいたみたいだ」と言う。
翌週、昼食を食べている時にまた手で払う動きをしたが、その時友人の顔の近くには何もなかった為
「虫はいなかったよ」
と伝えると、半ば無意識にやっていたのか、友人はハッと驚いた後に深刻そうな顔をして

「……いや俺も最初は虫だと思ってたんだけど、最近違うって分かったんだ。

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