【第8話】底辺クリエイターからディズニーのクリエイティブディレクターへの道
新たな挑戦
先輩Mさんのアシスタントとして参加した「初TVCM企画」は見事に競合コンペを勝ち抜き、私は「クリエイティブ制作」として協力した。
この時「次こそは自分の企画で監督として」と強く誓った。
その頃、会社の組織にある変化があった。
当時、最先端だったオンライン編集ソフト「Avid DS」を導入した「オンライン編集室」が社内に設立されたのだ。
会社の狙いとしては
◾️外注していた「編集作業」の内製化(コストカット)
◾️マルチな社内ディレクター育成(案件取得)
という2点があった。
しかし、新規にエディターを雇う予定はなく、再び「社内公募」が始まった。
前回のTVCM同様、ここは「CG制作&デザイン」の会社だ。
やはり「今更新しい分野は無理」と、誰も手を挙げなかった。
キタ!変化はチャンスだ!
私は「以下の条件付き」で立候補した。
◾️編集業務の合間は「TVCM監督」に挑戦する事を認める
◾️私とは別に最低2人はアシスタントを採用
◾️私の監督業務が軌道に乗ったら、編集業務はアシスタントに任せる
◾️私の監督業務が軌道に乗ったら、私をマネージャーとして「TVCM制作部」を設立する
全ての条件が承諾され、私の「オンライン編集」と「TVCM監督」の挑戦が始まった。
オンライン編集
TVCMに挑戦する為にも、まずは「編集業務」を安定させないといけない。
その為には「Avid DS」を使いこなす必要がある。
この「Avid DS」は、「After Effects」の様な高度な合成とアニメーション、「Premiere」の様な安定した映像&音楽編集が可能なソフトで、かなり複雑な構造だった。
当時ポスプロでもてはやされた「インフェルノ」の様な万能ソフトだ。
ただし、スタッフは社内公募で私1人きり。
教えてくれる先輩などいない。
ソフトの立ち上げ方、素材の取り込み方、編集や合成の方法、書き出し方、テープデッキとの繋ぎ方など…
全てを1人で、説明書やネット情報を参考に、とにかく使ってみる事で覚えないといけない。
CMの「10桁コード」もこの時に知った。
そんな状況なのに、プロデューサーは「1週間後にはお客さん呼んで実務始めるから。失敗すんなよ!」と言ってくる。
そのあと1週間間、泊まり込みで基礎を覚えた。
いじわるディレクター
1週間後、初のお客さんである「ディレクターSさん」のオンライン編集が入った。
Sさんは、私が映像制作チーム所属の時に仕事した際は「さすがー!」「すごいねー!」とCGやVFXを褒めてくれるが、自分ではCGやVFX、デザインはもちろん、編集やMIXさえ出来ない、所謂「昭和の指示だけディレクター」だった。
自分では作れないから「すごいねー!」なのである。
それでも地上波の「ドラマ」や「バラエティー」では、それなりに名の通ったディレクターだった。
初のお客さんが、顔見知りの「Sさん」であって、正直ホッとしていた。
しかし…
作業当日の朝、大量のテープ素材とOKテイクを記した書類、そして1枚のメモ…
「俺が行くまでに、いつも通り、俺好みに粗編(仮編集)しとけ」
いつも通り?俺好み?
初めて担当するんだもの、分かるワケないじゃん!!
後から聞いたのだが…
Sさんには某有名編集室に10年以上お抱えのエディターがいたらしいのだが、
そこへウチの会社(クライアント)から
「社内に編集室を作ったから今後はそこで作業する様に。エディターも映像制作チームから異動したスタッフを使う様に」
と言われた事が不満だったらしい。
そこで…
「俺のお抱えエディターは指示なんか出さなくても、俺の好みを理解して編集しておいてくれた。場所も担当者も変えるなら同じレベルにしてみろよ!」
と嫌がらせをしてきたのだ。
しかも、担当者が顔見知りの私だと知りながら。
数時間後に現れたSさんは私の粗編を観て、
「なんだよ、このクソみたいな編集!俺の好みを全く理解してないだろ!センスねーな!始めからやり直せ!バカ!」
と言って、そそくさと外出してしまった。
具体的な指示も出さずに…。
彼にとって編集は「自分の畑(ホーム)」なのだ。
人間とはこんなにも環境によって態度が変わるのか!
と戦慄と絶望をした。
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