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創作

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1人でも多く読んで貰いたいので頑張ります。 1年で短編50本チャレンジ中
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#恋愛

【サンプリング小説】目の前を横切ってゆく黒猫のほうは良いことありますように

【サンプリング小説】目の前を横切ってゆく黒猫のほうは良いことありますように

目の前を横切ってゆく黒猫のほうは良いことありますように
引用:twitter @tarrorism (たろりずむ 様)

アカリの束縛が段々と強くなってきたのは、付き合って間も無い頃からだった。
束縛といっても、それはまるで子どもの後追いのようなもので、
彼女は決して俺から離れようとしないのだ。
俺にとってアカリは疫病神だ。
一緒にいるとロクなことが無い。
それでも彼女は時々俺に向かって、まるで俺

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【サンプリング小説】来世では喜劇となってあのひとのリュックの中に潜んでいたい

【サンプリング小説】来世では喜劇となってあのひとのリュックの中に潜んでいたい

来世では喜劇となってあのひとのリュックの中に潜んでいたい
引用:twitter @abggg_d (あぼがど 様)

祐希先輩が事故で死んだ日、リュックの中にはシェイクスピアの『マクベス』が入っていたらしい。

先輩らしいと思った。

私は通夜に参列をしたが、最期まで彼の顔を見なかった。
祐希先輩の親族に挨拶をしたら、
焼香だけあげて、こっそり帰ろうと思っていた。
上手くやったつもりである。
啜り

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それがあなたの本音なら #月刊撚り糸

それがあなたの本音なら #月刊撚り糸

半年付き合っている光輝に連れてこられたのは、街灯ひとつ見えない駄々広い草原だったので、私の心は大層昂ぶっていた。
何せ、しし座流星群が大量に降る夜である。
26回目の誕生日。
軽々しくおめでたいなんて言える年齢では無くて、
私にとっては今日までの日々が大勝負だった。

周りには瞬間を待ち侘びる仲間が沢山いる。
私たちも2人分のレジャーシートを轢いて、
お尻がくっつく位に近付いてゆっくりと夜空を見つ

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【サンプリング小説】この僕はイケアのサメのぬいぐるみでないし君を強く抱けるよ

【サンプリング小説】この僕はイケアのサメのぬいぐるみでないし君を強く抱けるよ

この僕はイケアのサメのぬいぐるみでないし君を強く抱けるよ
引用:Twitter @uzume_no_hijiri(あめのうずめ 様)

僕たちは、心を巡る感情が余りにも沢山で複雑だ。
だから人間は、喜怒哀楽を表に出してコミュニケーションを行っている。
僕は人間の、心に収まり切らなくなって表情が変わる瞬間というものが堪らなく好きだ。
それが笑顔だろうが泣き顔だろうか、はたまた怒りだろうが、感情が表に

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暑い夏に、涼しい部屋で。

暑い夏に、涼しい部屋で。

【流しそうめん器 3400円】

ショッピングモールに入っている雑貨屋で、
そのプライスリストを見ながら、花乃は何分も立ち止まっていた。

1つ隣には5000円のものが置いてある。
ちゃんと高さがあって、上から下に流れるやつ。
本物の竹がモチーフにされていて、見た目にも重厚感があった。

3400円のは、ただ丸の中をグルグルと回るだけだ。
おもちゃみたいなプラスチック製の物である。
花乃は腕を組ん

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雷様を連れて来る

雷様を連れて来る



その日はずっと雨が降っていた。
漸く1日が終わって静かになった頃、
遠くの方から不穏な音が鼓膜に響いた。
低く、世界に不安を掻き立てるようなゴロゴロである。

由香里は枕元の
目覚まし時計をセットしているところだった。

「雷?」

海斗は由香里の顔色が変わったことに気が付いて、
窓を開けて様子を伺った。

音の小ささからして距離は随分遠いようだが、
このまま近付いてくるのは間違いない。

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僕の心と君の言葉

僕の心と君の言葉

口が1つしかないのは
心が1つしか無いからだと、
僕は痛い程に思い知った。

小さな市民体育館が空っぽになって、
主催者の男が茶封筒を渡して来た。

「いやはや、想像以上に大盛況でしたよ。
大人も子どもも喜んでくれて」

小太りでスーツを着た男は、
満足げに笑っている。

カメラを持った女性が小走りで近付いてきて、
名刺を僕に手渡した。
肩書きには
『南市役所広報担当』と記されている。

シンプル

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タロちゃん

タロちゃん

髪を切った。

洗面台の前で、
安いカットバサミを使って、
バッサリ切った。

そうする他に無かったからである。

『人は、思い込みでヒトを認知する』

大学時代、心理学の授業で教えて貰った。

だから、私の髪が長いと信じているタロちゃんは
私を見つけられないと思った。

大胆に切った髪は上手く整えられるはずもなく、
毛先もバラバラでヘンテコだった。

でもそんなこと構わなかった。

私はお母さん

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失くし物の見つけ方

失くし物の見つけ方

見つからない。

滑り台の下も、土管の中までも見た。

だけど見つからなかった。

昨日確かに私の指輪は

丸を描いて
自宅の目の前にある公園へ飛んで行ったのだ。

昨日の夜。

私は康介に別れを告げられた。

突然のことで、私はただ
「え、なんで?」

とただ真っ直ぐに
見つめることしか出来なかった。

康介はそっと机の上に合鍵を置いた。

「お互い気付いてただろ。
ただ失うのが怖くて口にしなか

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君のポケットの中のキャンディ

君のポケットの中のキャンディ

生まれて初めて一目惚れしたのは、
大学近くの古びた本屋だった。

そこには皆参考書や
授業に必要な教科書を買いに行くのだが、
一人暮らしを初めて間も無い俺は
暇を持て余して文庫本コーナーへ寄った。

実家の近くにあった本屋は
一目で出版社や著者名が分かるように、
まるで運動会の行進のように
ピッシリと整列していた。

この店は、文庫本コーナーに
需要が無いことが分かっているようだ。

とり

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