マガジンのカバー画像

短編小説

19
小説のような、エッセイのような、 お仕事小説、家族小説
運営しているクリエイター

#建築

川とビルの狭間で

川とビルの狭間で

 たどり着いたのは、大きなビルに挟まれた、ひなびた細いビルだった。「高田ビル」とレトロな字体の看板があった。
「ここだね。」
岩城が扉を開ける。浜口と南が後に続いた。
「事務所は·····6階だね。」
岩城が入ってすぐのエレベーターのボタンを押す。扉が開いた。6人乗りとあるが、3人でいっぱいだ。「6月22日給湯器のスイッチが入ったままでした。火災につながるので、退室前に必ず火元の確認をして下さい

もっとみる
森の中の丸太舟

森の中の丸太舟

 ロープが張ってある石の門を通り抜け、林の中を下って行く。
 家が現れ、女性が外で作業をしていた。
「こんにちは、竹田さん。
 急に言って、すみません。」
「浜口さん、こんにちは。
 全然かまわないですよ。」
ジーンズに赤いTシャツ、グレーのショートカットの女性が、にこにこしながらこちらをじーと見つめる。
「こちらがアイ設計所長の岩城さん。」
「はじめまして。」
「私はアイ設計の南と言います。
 

もっとみる
水平線ドライブ #短編小説

水平線ドライブ #短編小説

 右へ左へハンドルをきり、坂道を進む。視界が開け、水平線が広がった。
「気持ちいいね!」
「うん。」
父と2人でドライブなんて、何年ぶりだろう。もしかしたらはじめてかもしれない。ひさしぶりに実家に帰ってきてよかったと美紀は思う。

10年前、
「おまえ、これからどうするつもりなんだ?」
大学卒業間近になっても、就職の決まらない美紀のところに、父から毎日電話がかかってきた。
「····· ちゃんと

もっとみる

現場のオニ  #短編小説

かみ合わない現場だった。
ひとりひとりは、性格も穏やかで、知識もあり能力も高い。しかし、ちょっとした連絡事項が、全然、現場全体に伝わっていない。

所長は、鋭い目つきで立っている。がっしりした体格。アメフトか何かしていたのだろう。大きな工事現場をまとめるには、あれくらいの迫力がないといけないのだろうか。

ミカも、この工事現場に、監理として出入りしている。設計図どおりに施工されているか、鉄筋本数を

もっとみる