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こみこみこ
2020年9月11日 14:20
広季は部屋のインターホンが鳴ったと同時にドアを開けた。姿が見えないよう、ドアに身を隠す。「さあ、入って。振り向いては駄目ですよ。まっすぐ歩いて」「はい」美里の肩を抱いて紗雪が入ってくる。「さ、ベッドに腰掛けて」二人は広季に背を向けてセミダブルベッドにゆっくりと座った。紗雪は美里の背中を撫で、耳に髪の毛までかけてやっていた。「大丈夫、大丈夫」耳元で囁くと、美里は肩の力を抜き、深く息
2020年9月10日 17:45
しばらくすると、広季だけがエレベーターホールへと消えていった。紗雪がフロントへと歩いてくる。「ごめんな。いきなり」「ええよ。どうせ暇やし」パソコンの画面から目を離さずに修は答えた。「探偵稼業も楽やないわ」紗雪は大きく息をつきながらフロントに背を向け、カウンターに両手を伸ばした。「ハニワ誠実教って、いろいろやらかしてんの?今回みたいに」振り向くことなく紗雪は修に訊ねた。「そうやなあ
2020年8月24日 00:46
あ、名前、きちんと言っていなかったですね。芦田美里と申します。職業は専業主婦です。夫とは今、別居しています。あのう、そうですねえ。去年の今頃ですかね。家にいると、ちょうど天気が悪くなり始めていまして。雨が降るかもしれないなって、部屋の窓ガラス越しに外を見たんです。その時に窓ガラスに映った自分の顔を見て、あれ?この人、誰なんやろうって思ったんですよね。何だかこう、私というのは、夫と
2020年8月24日 16:54
紗雪はおもむろにマスクを下げ、意を決して紫色の飲み物を口に入れた。甘くてやたら舌や歯にまとわりついた。紗雪の推理が確かならば、この飲み物は、かき氷のブルーハワイといちごのシロップを掛け合わせたものではないだろうか。コップを盆に戻すと、マスクの位置を上げた。これをどうしてお茶と思えるのだろう。教祖がお茶だといえば、それはお茶だということなのだろうか。お茶への疑問はまだあったが、紗雪はひと
2020年8月22日 22:15
ドアの隙間から顔を出した美里は、ビアホールで見かけた時より、しぼんで見えた。「こんにちは」紗雪は無表情を意識してあいさつした。とはいえ、顔のほとんどが眼鏡とマスクで覆われているのだが。「こんにちは。あの。明日じゃなかったでしたっけ?」肩にかかった髪を整えながら、美里は訊いた。「お友達が日にちを間違えたみたいですね」「あ、そうなんですか。ちょっと友達に連絡して来てもらいます」「私がも
2020年8月20日 22:53
瀟洒な邸宅が立ち並ぶ静かな通りを行くと、公園に差し掛かった。「可南~!」甘い声を出しながら、広季が走り出した。ブランコに乗ったその女の子は人差し指を口元のマスクに持ってきた。その様子を見て、広季は走るのをやめてゆっくりと歩き出した。紗雪はトレンチコートのポケットに手を突っ込み、二人の様子をうかがっていた。「元気にしとったかー、可南」「だから、静かにしてよ」両手を広げて抱きしめる気満
2020年8月18日 23:23
広季は朝からずっと泣いていた。ネットフリックスで話題の韓国ドラマを観ているうちに、感情移入しすぎて気がつけば涙を垂れ流していた。「お前、ほんまによう泣くなあ」同じソファに腰掛けているスリムが呆れかえっている。「年取ったら涙腺ゆるうなんねん」「そうですか。あ、電話や」テーブルの上で光るスマホをスリムが指さした。広季はティッシュペーパーで鼻水を拭きつつ、スマホを取り上げた。画面には、妻