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短編・雑言

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記事一覧

2023 音沙汰

2023 音沙汰

7月

部屋の窓にやもりが来始める。フォロワーがカメラを買うというので同行する。職場で息が苦しくなる。しじみのお味噌汁に恋する。大きなハイビスカスが咲き始める。君たちはどう生きるかを見る。海に行く。割れたお皿の片割れを人にあげる。今も一度も使っていないかき氷機を買う。

8月

江ノ島の夕日を見に行く。名刺を作る。紫陽花がまだ咲いている。また海に行く。あんみつにハマる。友達の作り方を考える。退職届

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2023 逃避行

2023 逃避行

毎年の誕生日に思うこと。思い出す人。もの。音。声。匂い。影。煙。自分が及ぼしたものと誰か、ものに及ぼされたもの。傷は証だ、物は呪いだ。風は乖離で、日陰は境目に見えるようで本当は温度だと思う。去年は何を思い出していて、今年は何を思い出したかをいつまで忘れずにいれて、来年は何を思い出すような一年にするのか。今年思い出した、過去のことを記録する。Twitterは元来備忘録だから。

1月

哲学的な夢を

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かくれんぼをしよう

「もういいかい」

「もういいよ」

そう聞こえてきたから振り返っただけなのに、その先には真っ白の空間しかなかった。壁、ではなく、白い空間だった。触りにいけば何かがあるのかもしれないが、白という色が全てを歪ませて、無限の空間のように感じる。

かくれんぼをしていたはずだった。相手がいたはずなのに、振り返るまではそれが誰だったかは覚えていたはずなのに。振り返った瞬間に全てが真っ白になってしまった。自

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どこで誰と泣く

どこで誰と泣く

天使も悪魔も、きっとひとが亡くなったら泣くのだと思う。存在が危ぶまれた大切なものに対して、ひとは泣く。段々と匂いが消えていく過程に涙の味を感じる。香水のラストノートばかりが鼻に残り、新宿の香水やさんの前には鮮やかな香りがこれでもかと倒れている。自分の愛している香りは2つしかない。アンパンマンみたいな甘くて顎が持ち上がるような名前も知らない聞けない香りと、雨の日のお寺のような竜涎香だけ。香りを嗅ぐと

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2023 今年買ってよかったものまとめ

2023 今年買ってよかったものまとめ

銀河の果てより年の瀬が来る、それも毎年今年もネットショッピング厨の私はAmazonで細々と300回弱も注文をしておりました。そんなどうしようもないショッピングおばけの私が選ぶ今年買ってよかったものを厳選してお送りいたします。個別に取り上げる元気もないのでひとことコメント程度で簡潔にいくつか挙げていきます。

今年買ってよかったもの

ちょうどいい黒くて丈夫なリュック

ここ数年は黒いカンケンリュッ

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月より鋭い

月より鋭い

秋の浅瀬から冬の深淵に近づいた今日この頃の気候ですが、いかがお過ごしでしょうか。毎日毎日新しい朝が来ただの、よくもそんなにくだらない日本語で笑わせてくれるねと鼻に付く。家を出る頃には今日の朝はどんな感じだったかは忘れ、家に戻る頃には見上げた冬空に映る星の数すら思い出せない。今夜はいくつ星を見れたかどうかを本当は大事にしたいし、そういうくだらないことを愛していきたいし、有機物一つ一つに執着して執着さ

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覗いてごらん

覗いてごらん

ほら、覗いてごらんよ。そうそう、そのまま。ほら、見えるでしょう。何が見えるかな。そうだね、うん。そう、その望遠鏡はね、見えるものは見えなくて、見えないものが見えるんだ。見える角度が狭いけれどとっても高性能の望遠鏡なんだ。高性能とは違うかい。まあいいじゃないか。君はそういうのを欲しがっていただろう。そうやってすぐ「他人」と違うものを欲しがる君は。今日の服だってどうしたのさ。かわいいバルーンパンツにも

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いつまでも

いつまでも

シャワーを浴び終え、浴室から少し高い段差を降りオフホワイトのような色の珪藻土マットに水滴が落ちる。リビングからは下品な笑い声が聞こえる。僕の知らない声、何かのタレント番組、もしくはつまらないYouTubeを見ているのだろう。身体を拭き終え、首元はまだ乾き切らないまま、ネットショッピングで生まれた畳めていない嵩張る段ボールがキッチンに積まれている。そんなものを横目にリビングに戻る。知らない声の中で“

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