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#芥川龍之介
岩波書店『定本漱石全集』注解を校正する169 夏目漱石『明暗』をどう読むか⑱ そう言えば書いていない
彼女はいつでも彼女の主人公であった
ごく当たり前のように書かれているが、実はこのことこそが津田にとっては当たり前でないことなのである。お延は、
・お延は自分で自分の夫を択んだ
・津田を見出した彼女はすぐ彼を愛した
・彼を愛した彼女はすぐ彼の許に嫁ぎたい希望を保護者に打ち明けた
・その許諾と共にすぐ彼に嫁いだ
……と一直線である。普通はそうなのだろうといったん思ってみる。津田が変わっていて
サバイバーズ・ギルトのない風景
芥川龍之介が直接的に戦争について書いた作品は『首が落ちた話』と『将軍』のみであると言って良いであろうか。「東西の事」を書いた『手巾』が戦争に関して書いたのではないとしたら、そういう理屈になるのではなかろうか。
しかしこんな残酷な風景はむしろ付け足しである。芥川にとって戦争とは単なるプロットに過ぎない。芥川は『将軍』でも『首が落ちた話』でも戦争を材料にはするが、戦争そのものを云々する意図は見
ライズィングジェネレエシヨンの爲めに
この手紙では久米との海水浴の話がつづられる。芥川龍之介とって夏目金之助は師でもあり、どこかに畏怖があった筈なのだが、この手紙は妙に慕わしい。
こんなシーンはあたかも大正三年に書かれた『こころ』の冒頭の海水浴を思わせるが、残念、このライジングジェネレーションの手紙は、漱石の晩年、大正五年の八月一宮から出されたものであろうとされている。漱石に『鼻』を絶賛された直後である。『こころ』の冒頭の海水浴