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夏目漱石論2.0

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#谷崎潤一郎

近代文学2.0の中間報告

近代文学2.0の中間報告

読んでる人いる?

 一応そろそろこれまでやってきたこと、これからやることを整理しておきたいと思います。

 この記事で述べたように近代文学2.0では「丁寧に読む」という信条によってこれまで、

・谷崎潤一郎の初期作品が極めて政治的なもの、体制批判的なものであり、ドミナとは捏造されるものであること
・夏目漱石作品もまた明治政府・明治天皇制に批判的であり、その粗筋がほぼ読み誤られたまま多くの人々に論

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すれ違う二人の天才② 鏡花パンチ

すれ違う二人の天才② 鏡花パンチ

 この流れだと『金色夜叉』を読んで「自分にもあれくらい書ける」と嘯いた夏目漱石も鏡花にパンチを喰らっていたかもしれない。

 いまさらながら「押しかけろよ」と云いたくなる。それでどうなったか、論語で諭されたか……。なかった話ながら、もしと考えてみると面白い。

 そういえばそうか。まあそうか。しやしかし、谷崎もそうか。

 みんな仲良くしろよ。いちゃいちゃはしなくていいけれど。

 

芥川龍之介の『地獄変』をどう読むか⑤  カメラを左右に振っている

芥川龍之介の『地獄変』をどう読むか⑤  カメラを左右に振っている

 一方では、

 ……などと書きながら、芥川龍之介のどこが近代文学なのか論じないのは、「無責任」のような気がするので、『地獄変』のどこが近代文学なのかということを少しだけ考えてみます。

 これは『羅生門』や『鼻』、その他ほとんどの作品に共通しているポイントなのですが、案外解っていない人がいるみたいなので、念押ししますが、実は「元ネタ自体はたいしたことはない」んです。ここ ↓ に『鼻』のことは書き

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『彼岸過迄』を読む 20 500円でどう? ではない世界

『彼岸過迄』を読む 20 500円でどう? ではない世界

 まず須永の五六軒先には日本橋辺の金物屋の隠居の妾がいる。その妾が宮戸座とかへ出る役者を情夫にしている。それを隠居が承知で黙っている。その向う横町に代言だか周旋屋だか分らない小綺麗いな格子戸作りの家があって、時々表へ女記者一名、女コック一名至急入用などという広告を黒板へ書いて出す。そこへある時二十七八の美くしい女が、襞を取った紺綾の長いマントをすぽりと被って、まるで西洋の看護婦という服装をして来て

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谷崎潤一郎の『恐怖』を読む コント作家・谷崎潤一郎

谷崎潤一郎の『恐怖』を読む コント作家・谷崎潤一郎

※この作品は青空文庫で誰でも無料で、何の手続きもなく、特別なプログラムのインストールなしで読むことが出来ます。ほぼ安全です。『恐怖』はとても短いので個人差はありますが、大体五分もあれば読むことが出来ます。できれば今回はまずご自身で『恐怖』を先に読んで貰えませんか?
その上で私が書いているものを読んで、自分の「感想」と私の書いていることの、どこがどう違うのか確認していただければ、有難いです。そうすれ

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夏目漱石はなぜ三角関係に拘ったのか?あるいは谷崎潤一郎の『神と人との間』を読む

夏目漱石はなぜ三角関係に拘ったのか?あるいは谷崎潤一郎の『神と人との間』を読む

 案外タイトルの毒は気が付かれないと、そこを落ちにして書いてきたパターンが続いたので、今回は最初にやっつけてしまう。何が『神と人との間』だ。『肉塊』じゃないかと早速言いたくなる。この台詞でまた先を読まぬ内から、あの手の話かと確定してしまう。実際にあの手の話が始まり、延々と続いていく。延々と……。
 途中で読むのを止めたくなり、何でこんなものを読んでいるのかなと思いながら読み、何でこんなものを谷崎は

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読み誤る漱石論者たち ダミアン・フラナガン② 谷崎は芥川の弟子ではない。

読み誤る漱石論者たち ダミアン・フラナガン② 谷崎は芥川の弟子ではない。

 ダミアン・フラナガンが毎日新聞にまたいい加減なことを書いている。これを読むのは主に外国の人なのだろう。間違った情報が海外に発信されているとしたら、いや、実際にされているのだが、これは彼個人の問題ではなく、そのプロフィールで公にされている出身大学やこの記事を掲載している新聞社の問題でもある。
 まず基本的な誤りを指摘すれば、谷崎潤一郎は芥川龍之介の弟子ではない。敢えて言えば、永井荷風の引きで世に出

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先行研究は必ずあるのか?

先行研究は必ずあるのか?

 人文学系の学生なら一度ならず「先行研究は必ずある。独自研究はあり得ない。兎に角先行研究を徹底的に調べて、その上で書きなさい」という宗教を押し付けられた経験があるだろう。しかしこの宗教は明確に間違っている。そんなことを言われたら「ちゃんと調べましたか?」「あんたは預言者か」と突っ込んでよいと思う。理系の学生が同じようなことを言われることはなかろう。独自研究は一つその結果を示すだけでよく、先行研究の

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ハイレグとしての文學 谷崎潤一郎の『或る顔の印象』を読む

ハイレグとしての文學 谷崎潤一郎の『或る顔の印象』を読む

 谷崎潤一郎の『或る顔の印象』を読んだ。それはツイッターでハイレグの画像を検索した、と書くのと何ら変わりのない行為だったのではなかろうか。あるいは夏目漱石で検索してみると、実に多くの人が好意的なコメントを寄せている。漱石ファン、は多い。その中で、

 こんな漱石ファンがいて、

 こんなコメントが付いていた。しかし彼らが夏目漱石の『こころ』や谷崎潤一郎の『細雪』を読んだという体験は、実は「ツイッタ

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批評の文体③

批評の文体③

 私は「近代文学2.0」としていささか真面ではない作家たちの作品についてこれまであれこれ書いてきました。真面ではないという形容は、作家と作品の両方にかかります。また「近代文学2.0」という区分けそのものが真面ではないと考えています。
 この真面ではないという感覚を具体的に説明すると、例えば村上春樹さんについて考えてもらえばいいと思います。早稲田大学を卒業して、作家になり……とその経歴や実績を私が説

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作家にとって思想とは何か①

作家にとって思想とは何か①

 この二週間ばかり、考え続けていることがある。まずは何の先入観も持たないで、このツイートを眺めて欲しい。

どうして萩の月は食べるとなくなってしまうのか

 ……なるほど。「どうして萩の月は食べるとなくなってしまうのか?」この問題は「食べたから」という以上の答えを持ちうるだろうか。寧ろこの人は萩の月のおいしさ、もっと食べたいという感情、そういうものを表現しているのであって「どうして萩の月は食べると

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夏目漱石と谷崎潤一郎②

夏目漱石と谷崎潤一郎②

 この夏目さんが夏目漱石であることには少々驚いた。これまで谷崎潤一郎の作中で夏目漱石の名前を見た記憶もない。芥川との接点はあるが、谷崎には夏目漱石との直接のつながりはないと思い込んでいたから意外だ。同時代に生きながら、何故か交わらなかった天才二人というイメージだったが、少し軌道修正が必要だろうか。

 作家が作中で登場人物に芸術論、小説論、あるいは哲学、認識論を語らせることは珍しくない。優れた小説

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シンプルな読みに向けて

シンプルな読みに向けて

 これまで私は夏目漱石から谷崎潤一郎までのいくつかの作品について、何か書いてきた。それを「新解釈とは言えないまでも私なりの感想のようなものをまとめてみました」とでも書いてしまえばいささかでもお行儀が良かろうものを、私は「宇宙で初めての新解釈です」と云わんばかりに書いてきた。これはどう考えても私なりの感想のようなものではない。現に、『途上』のからくりにさえ、誰一人気が付いていなかったのではないか? 

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「お話」とは何か   軸があるかないかだよ からあげくんが妖精だったなんて!

「お話」とは何か   軸があるかないかだよ からあげくんが妖精だったなんて!

 前回、私は谷崎の『泰淮の夜』について「お話」になっていると書いた。『蘇州紀行』は紀行文だが、『泰淮の夜』は「お話」だと。

 実はこのあたりのシンプルな筈の事が案外伝わっていないのではないかと思い、少し補足説明しておきたい。紀行文はどこそこを観光した、何々を食べたの羅列でよい。筋ができてしまうとお話になる。『泰淮の夜』は支那料理を二ドルでたらふく食べ、三ドルで芸者が歌を歌うと聞かされる。では女は

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