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エルシネ6

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山科清春の雑文集です。
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記事一覧

吉本新喜劇否定論に抗する

 最近、どこかで「吉本新喜劇なんか要るか?」みたいなことを読んだ夢を見たのである。

 最近の私は嫁に怒られるほど寝間でスマホするので、もしかしたら本当に読んだことかもしれないけれど、もし夢だったとしても現にしても、まあ、なんか親戚がdisられているようで悲しかったなあ。

 吉本新喜劇で笑ったことはない、面白くない、すぐチャンネル変える、ギャグにコケるのはバカバカしい、下品だ、大阪にあるとされる

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「荒野の坊っちゃん」感想

金原塩之介『荒野の坊ちゃん』(蒼英社文庫)

 いやー、面白かったですね。

 この小説は、タイトルからもわかるとおり、夏目漱石の『坊ちゃん』のパロディでなんですが、黒沢映画でも「荒野」とつけばウエスタンになってしまうように、これも夏目漱石文体の西部劇なんですね。

 漱石文体でのパロディ小説としては『贋作《坊っちゃん》殺人事件』とかが面白かったのだけれど、西部劇というのは思いつかなかったな

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『エムエスエクス』感想

 ブンボル長島『エムエスエクス』(すぱる4月号)読了。

 妙に感激。

 ネット上では難解だ、難解だという書き込みを見るが、まあ、難解ではないと思います。

 それは、僕とブンボル氏が同世代で、なおかつ彼と同じように80年代に一世を風靡した(?)「MSX」という家庭用コンピュータのユーザーだったからでしょうが、ちっとも難解ではなかったです。

 作中で描かれるMSXユーザーの卑屈なまでの

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エルシネ・太陽

 14歳の夏、初めて先生に反抗した。

 隣町の臨海中学のプールサイド。

 水泳の市大会の最中だった。

 9月で、とにかく暑くて、太陽が真っ白に輝いていたことを覚えている。

 プールではメドレーリレーの予選をやっていた。

 僕たちは、いきなり、副顧問の新任教師に怒鳴られ、フェンスに引っかけたブルーシートで作った日陰の陣地から、プールサイドの焼けたコンクリートの上に引っ張り出されたのだった。

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エルシネ・月面

エルシネ・月面

 昔、『プログラマーズ・ポケット』という、きわめて個性的なパソコン雑誌があった。

 隔月刊のマニア向けの雑誌だったのだが、その中に「一行プログラムのコナー」というのがあった。一行二五六文字という限られた文字数で、どれだけのプログラムが組めるかを競い合うという、毎回二ページのコーナーだった。(未だに謎なのだが、なぜか、コーナーがコナーと表記されていた)。

 僕は中学三年の時、一度だけ、このコーナ

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g:エルシネ2

 今は『陰陽師』で有名になってしまったSF作家・夢枕獏が、まだ「エロ・グロ・バイオレンスの旗手」としてしか語られなかった頃のこと、彼は著作の中で「実はアインシュタインの有名な公式《e=mc2》と、般若心経の《色即是空 空即是色》は同じことを表しているのだよ」てな事を言っていた。確かにアルバート・アインシュタイン博士が残した相対性理論に係わる有名な公式e=mc2 は今や、ある種の呪文のように無教養な

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『蝦夷手の研究』感想文

澤井幸太郎『幻の拳法其の壱・蝦夷手の研究』

(楼村社・昭和6年)

 うーん、まあまあ面白かったです。

 これは、昭和初期に少年向けに書かれた本なのですが、まあ、なんというか、人を食った仕掛けのある本でして、表向きは澤井幸一郎という拳法家(柔術家)が大正の終わり頃、「蝦夷手」(えぞて)という幻の拳法をもとめて、東北、北海道から樺太、さらには沿海州(現在の中国黒竜江省あたり)まで遍歴すると

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黄金の60年世界

(1960年)1月6日

 35年度の初仕事、島田の退職で歯のぬけたようなかんじがしたが、どうにもならん。森田・親方とも競輪勝ち、銭神のおっさんだけが敗け、しょんぼり。

「吹き下ろし、金なき我が身にしみとおり」

 日記帳20円、残金40円

「初雪に顔でわらって心でないて」

  1月8日 金曜日 晴

 一昨日、銭神のおっさんからもらっていた山陽電車の家族パースの表紙を失っておっさんに話す。

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黄金の80年世界

1980年 10月22日 水曜日(はれ)

ユーホー

 6時ごろ、けんどうの帰り道、かんしゃのこうえんで、東のそらから、サーと赤い光が見えた。ぼくとくにかず君とくわおか君は「あー、ユーホーや」と言ってびくりしました。

 家までユーホーの話ばっかりして帰ました。そしてお父さんに話すと、「それは夜かんひこうや」と言った。

 でも、本当だったら、新聞しゃにでんわをしようと思ったのに。

10月30

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『幻影飛行機械』感想

 ちょっと調子が悪くて、雲の上を歩いているようにふわふわしているのですが、ついつい読みかけの本を手にとってしまいました。

 

 そして……泣きながら(嘘)一気に読みました。

目方大作『幻影飛行機械』(ハカヤワ文庫JA)

 えー、詳細を書くような気力体力はないのですが、まあ、一言で言えば「スーパーヒコーキ野郎大戦」であります。

 あるいは「ドキッ!ヒコーキ野郎だらけの幻魔大戦」と

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我未だ木鶏に至らず

 ひさしぶりに来阪された作家の小川国夫先生にいろいろお話を伺いました。

 お財布を新幹線にお忘れになったそうで、ずいぶん遅れて来られました。先生は私の顔を見るなり、

「山本君は、空手はどうですか」

「最近、さぼっています」とお答えすると、

「昔、双葉山という力士がいたんですよ。ものすごく強い力士で何十連勝もした。

 その力士が土がついた時に、一言こういったんだそうです。

 『我、未だボ

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鏡の中の歌

1 避難

「《ヨウカイ》が来るぞ!」

 インカムのヘッドホンからランタオの叫ぶ声が聞こえた。

 掘削中の縦穴の中にいたサンフーは、今壁面につきたてたばかりのセラミック製のシャベルから手を放すと、急いで縄梯子を登って、すこし離れたところにある基地車へと向かった。

 古い時代のトレーラーを改造したベースカーの、コンテナ側面の梯子をかけ登り、アンテナ台の上によじのぼる。

 くん、と鼻を鳴らした

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デウス・マキニカリス

 その朝、《もず4号》は、長年働いていた「プクプク運送」をぬけだした。

 止めようとした《おおとり1号》の下にフォークをさしこみ、おもいっきりひっくり返したあと、追ってきた《きゅうかんちょう3号》をプラットホームから落とした。

 《もず4号》はもう戻らないつもりだった。

 あの人に、会いに行こうと思った。

        ☆

 もう、あんなところで働くのはいやだ!

 天井の太陽電池パネ

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『imbt2』



 十一歳の時だった。ぼくは母に連れられて見知らぬ街に行った。公園で一人で遊んでいると、トンガった目をした奴と出会った。外国人みたいな雰囲気をもった年上の少年だった。見たこともない、赤いような茶色いような、つめえりの学生服をきちんと着ていた。きっとこの近所の中学だろうと思った。

 ずっと一人で立っていて、なんだかとてもさみしそうに見えたのでいっしょに遊ぼうと言うと彼は言った。

「遊んでやっ

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