シェア
KIGO
2021年4月30日 23:56
人に愛されたいと願いながら、同時に、人が見出した期待に猜疑を抱いている。そして囲まれた柵の抜け穴を求めて、誰も私を知らない世界へ行きたいと願っている。二月尽から、早二か月。抱える二律背反は今や恐怖を伴って、他者と自己の狭間を彷徨っていた。そんな私は四月人(じん)。迷える牡羊座の生まれである。四月尽(しがつじん)******
2021年4月29日 23:50
夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る。立春から数えて八十八日前後に茶摘みは始まり、以降一か月以上の間隔を空けながら続けられる。摘み始めから半月程度の間に摘んだ柔らかい茶葉が、最高級の一番茶となるそうだ。最近知ったのだが、緑茶、紅茶、烏龍茶は、茶葉の発酵度合が異なるだけで、同じ茶葉から出来ているそうだ。こんなにも味や色が違うのにその実、正体は同じだったのだと驚いたのを覚えている。ど
2021年4月28日 22:12
「今年は、部屋に春が来なかった」春の終わり、暮春(ぼしゅん)。写真は桜が散る頃なので晩春とは言えないのかも知れないが、暮れ往く春に想いを寄せる小噺をひとつ。今の部屋に越してきて、これで六年目の春を迎えた。玄関ドアの目の前は小学校で、境界にちらほら桜が植わり、そのすぐ向こうには教室が並んでいた。通勤の頃になると、朝の合唱が聞こえてきて、いや正確には聞こえ始めるとそろそろ家を出る時刻が迫って
2021年4月27日 23:02
稲の種である籾を、苗代に蒔くこと指す。小学校のころだろうか、稲作の授業があった。種籾を塩水にひたして、浮いたものを取り除き、沈んだものを選び取る。最終的には、バケツ稲として育てたり、実際に田植え体験も行ったりしたような。昨年のことだが、友人からおすすめされた酵素ドリンクを、三本セットで購入すると特典で玄米が付いてきた。別の頂き物のお米があったり、新米をはさんだりと、一人暮らしでは最後までなかな
2021年4月26日 23:38
花が咲き、小鳥は囀り、心はずむ季節なのに、何となく気持ちがふさいで、物思いにふける。それは憂鬱というほどではなく、訳もなくふと感じる憂愁の気分。春の物思いが「春愁(しゅんしゅう)」とすると、秋の物思いを表す季語は「秋思(しゅうし)」という。秋の憂いは、木々が落葉し草木が枯れる物悲しい季節感から来るとして、春の物思いは何だかつかみどころがないものである。春愁やくらりと海月(くらげ)くつ
2021年4月25日 23:13
月火水木金土日。日々丁寧に花を愛する彼女の誕生花はハナミズキだという。このハナミズキというのは明治45年、当時の東京市長だった尾崎行雄が、アメリカに桜を贈った返礼として届けられたのが最初だそうで、日本ではまだまだ歴史の浅い花木らしい。その暗号に気づいてから、僕らは火曜日に花を送り合うようになった。生花の時もあれば、写真の時もあるのだけれど。季節も晩春となり、街路樹のハナミズキは見事に満開
2021年4月24日 23:11
鞦韆(しゅうせん)とは、ぶらんこのことである。私にとっての思い出のぶらんこは二つあった。一つは学童期を過ごした地元にある、町役場の公園にあったぶらんこだ。棒状のチェーンで出来た、繋ぎ目に腕を挟まれると痛いやつ。手なんかすぐ錆の匂いが付いたりして、それでもそのぶらんこは皆に人気の遊具であった。立漕ぎや二人乗りもそこで覚えたし、靴を飛ばしたり、いかに遠くまで飛び降りるかを競ったりなんて、やんち
2021年4月23日 23:21
春の朧夜に、亀の鳴く声が聞こえる気がする。実際の亀には声帯はがないため、鳴くことはないそうだが、俳句の季語として古くから親しまれてきた。「夫木和歌集」にある藤原為家の「川越のをちの田中の夕闇に何ぞと聞けば亀のなくなり」の歌に由来すると言われている。川越えの長い道、夕暮れ時に聞こえる声に、一体何が鳴いているのかと尋ねれば、それは亀だというそうだとか。先人たちはその声に何を重ねてきたのだろ
2021年4月22日 23:09
「ーー必ず幸せにするから」絶対がないことは分かっていた。それでも尚、二人で駆け出していた。君が哭く声がする。矢羽の嵐に囲まれて、真っ赤な飛沫が舞い散った。「どうか忘れないで。僕が生まれ変わった暁にはーーー重い瞼を擦る。あの時約束したのは、誰だっけ?心地よい温もりに誘(いざな)われて。僕は再び、記憶の底へ落ちる。春眠(しゅんみん)
2021年4月20日 22:03
薄目を開けば、カーテンの向こうはこちらよりも明るかった。黒髪がはらりとシーツに散らばって、少し覗く耳が美味しそうだと思う。雨の音がした。光る首筋に口付けを落とす。柔らかいとこを見つけて種を蒔くように、身体中にキスの雨が降る。もう一度、そっと後ろから寄り添った。温かい慈雨に草花が芽吹く。表面にはさわさわと葉が生い茂る。しっとりと根を張って。こんな日は、ベットに縫い
2021年4月19日 23:51
今までで思い出に残っているプレゼントは、と言われたら思い当たるのが、実は折り畳み傘だったりする。それは、いつぞやの4月の誕生日に、突然、郵送で届いた。花緑青の目を引く色使いに、大判のアネモネ柄。なぜ、印象深いかといえば、デザインが気に入っているのもさることながら、それは半年ほど前に彼が住む関西へ遊びに行ったときに、お店で一緒に眺めていたものだったからだ。色違いと迷った挙句こっちがいいな、と
2021年4月17日 23:57
モクレンといえば、一般的には紫木蓮を指し、その漢名は、花姿が蓮の花に似ていることから名付けられている。木蓮は、恐竜が全盛期の時代から今と変わらぬ姿で存在していた、地球上で最古の花木とされているそうだ。大きな花弁が揃って天を仰ぐ様は実に豪華である。しかし、開花から散るまでの寿命は意外と短い。子供の頃はそれが少し怖かった。枝ぶりに対して少しスケールアウトしたような大判の花びらが、次第にべろ
2021年4月16日 23:53
蝌蚪(かと)とは蛙の幼生のことを言う。つまりは、おたまじゃくし、である。なんだい、難しい名前して。でも確かに俳句にお玉杓子は長すぎるか。カト。そんな呼び名があったなんてと、むしろ可愛くも思えてくる。田舎で育った私に、おたまじゃくしは身近だった。田んぼにはうじゃうじゃと住みついていたし、手で掬って捕まえては、岩の窪みなんかに溜めたりして。そして可哀想に、干上がっているのだって見たことがあ
2021年4月15日 23:06
小学校も始まったようで、初々しいランドセル姿も見かけるようになった。私の小学校では、集団登校をするのは、新入生が入りたてのいくらかの期間だけで、普段は各自で自由に通学をしていた。私は、そのころより一人で登校するのが好きだった。ませた子供だったので、昔から友達付き合いは上手だったけれど、学校までの1キロちょっとの道のりを、一人で歩く時間が大好きだった。その暫くの間、私の思考は遠く空を駆けていた。頭の