春日傘
今までで思い出に残っているプレゼントは、と言われたら思い当たるのが、実は折り畳み傘だったりする。
それは、いつぞやの4月の誕生日に、突然、郵送で届いた。
花緑青の目を引く色使いに、大判のアネモネ柄。
なぜ、印象深いかといえば、デザインが気に入っているのもさることながら、それは半年ほど前に彼が住む関西へ遊びに行ったときに、お店で一緒に眺めていたものだったからだ。色違いと迷った挙句こっちがいいな、と言っておきながら、ちょっと値が張る代物だったので、躊躇して結局買わなかった傘。
その旅行の際に、彼は私に告白し、私はそれを丁寧にお断りしていた。
にもかかわらず、その傘を、デザインを、色を、覚えていたことに心底驚いたし、そして何より恥ずかしいかな、素直に嬉しかったのだ。何がよいかを聞かれた訳でないのに、欲しかったものが送られた。まるで少女漫画みたいじゃないか、なんて年甲斐もなく心から感動したのだ。
でも、まあ、これがラブストーリーでないのが現実で。
あの夜のことを思い出す。彼の何がだめだったのだろう。顔か、性格か、なにか。それははっきりとは分からないけれど、皮肉なことに、彼ではないことだけは分かるのだ。
友達に言わせれば、試しに付き合ってみればよいのかも知れない。
ただ私には、俗にいう”彼氏”という拠り所を、どうしても誰かに求めているのかが曖昧で。
パートナーが必要だと叫ぶのは、いまや私の本心なのか、
はたまた、この世の中の情勢なのか、
もしくは、刻み込まれた遺伝子のせいなのか、
それすら分からないのだから困ったものだと思う。
手の中には、雨晴兼用のお気に入りがあった。
私は今日も生きている。
春日傘(はるひがさ)
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