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大学の劇場で探しものをすると必ず見つかる
先日の公演の撤収時、忘れ物をした。
そう嘘をついて、大学構内の劇場の鍵を借りた。
エントランスの鍵を開け、入ってすぐ右手に聳えるホールに入る扉に手を掛ける。
がちゃん。
ノブを回す音の大きさに思わず首をすくめ、周りを見回す。別に悪いことをしているわけでもないのに。小さく苦笑する。劇場と外界を隔てる扉はずしりと重く、開けるために思い切り体重をかけなければならなかった。
この扉、こんな重か
三題噺(煙突 猫 美しい)
私が住んでいるアパートの近所には野良猫が住み着いている。このアパートに住み始めた頃からずっと、夜中にか細い鳴き声が時折聞こえてくるし、実際、出がけや帰りがけに、彼女らの姿を見ることもそう珍しくなかった。
彼女ら。そう、我が家の近所をうろついている猫は少なくとも二匹いた。一匹はいかにも野良という風情の、煤けたボサボサの毛並みをした灰色の猫。もう一匹は、それとは対照的に美しい毛並みをした、野良と思
三題噺(焼肉 野菜 天上界)
「改めて考えると不思議な生き物だよねえ」
彼女は網の上の肉を箸でつつきながら呟いた。
アルコールが回り始めて、その顔は少し上気している。
つついていた肉をつまみ上げ、タレにつけて口に運んだ。
「わひとさいきんだよね?」
手で口元を押さえながら彼女は言った。
「何が?」
俺がそう返すと、彼女はしばらく口をもごもごさせ、軽く上を向いた。
喉がゴクリと動いたあと、一息ついてから彼女は私に向き直った。
「
三題噺(木の実 黄泉の国 幻燈)
金目のもんなんかないぞ。おじいちゃんのおじいちゃんが随分な道楽モンでな、その代でなーんも無くなったからな。
祖父は事あるごとに笑いながら私にそう話していた。
とはいえ、栄華を極めていた頃と比べると見劣りするのだろうが、それでも祖父母の家は十分豪邸と言って良いものだった。
そんな広い広い祖父母の家の、やっぱり広い屋根裏部屋は、子供だった私にとって、怪しげな魅力をたたえた絶好の遊び場だった。
屋根裏部