猫が猫が

一番精神的にどうかしてた時の幻聴から名前を取りました。

猫が猫が

一番精神的にどうかしてた時の幻聴から名前を取りました。

最近の記事

最も強い言葉で

ここ数年、ニュースを見ていると各国や組織の代表がこのようなコメントをしているのを頻繁に目にする。 「最も強い言葉で非難する」 重大な国際問題や社会問題を前に呑気な感想だが、面白い言い回しだと思う。 最も強い言葉。 相手を非難する語彙で最も強いもの。 古今東西のあらゆる書籍に記されている言葉から非難の言葉をかき集め、順位を付けよう。「浅慮」よりは「愚劣」の方が強烈だな。「愚劣」とFワードではどちらが強烈だろうか。最も強烈な非難の言葉が見つかるだろう。 しかし、恐らくこのフレ

    • 貼り紙

      警告 ペットのフンは飼い主様ご自身で始末してください。 放置されると私が始末することになります。  近所の家の塀にそんな紙が貼られている。  マナーの悪い飼い主もいるんだなあ。それにしても凄みのない貼り紙だ。警察に突き出すぞくらい言ってもよさそうなのに。  先日、その家の前に人だかりができていた。野次馬の話を聞くにどうも家主が逮捕されたらしい。  何をしたのだろう。

      • 大学の劇場で探しものをすると必ず見つかる

         先日の公演の撤収時、忘れ物をした。  そう嘘をついて、大学構内の劇場の鍵を借りた。  エントランスの鍵を開け、入ってすぐ右手に聳えるホールに入る扉に手を掛ける。  がちゃん。  ノブを回す音の大きさに思わず首をすくめ、周りを見回す。別に悪いことをしているわけでもないのに。小さく苦笑する。劇場と外界を隔てる扉はずしりと重く、開けるために思い切り体重をかけなければならなかった。  この扉、こんな重かったんだ。知らなかった。いつも康太が何も言わず開けてくれていたから。片手でドアを

        • Ps.プレゼントです

           2世紀前、ステラ・ハイパードライブ社のヒト型生物でいう手に相当する器官により宇宙船産業は一つの転換点を迎えた。  当時、宇宙船は非常に高価であり、企業や一部の企業にしか到底所持できないものであった。それは宙間航行および惑星での各種活動に対して課された一つのルールによるところが大きい。そのルールとは、「一定の範囲内の技術水準にある原生知的生命体に存在を認知されぬこと」、である。  「一定の範囲内の技術水準」は付録に数ページにわたり規定されているが、ざっくり「原生知的生物が生息

        最も強い言葉で

          禁煙

          「禁煙すると味覚が鋭くなるって本当なんだな。今までこんなに美味かったことないよ」 彼は満足げに煙を吐いてそう言った。

          やまびこ

          「やっほー」 やっほー、やっほー、やっほー、 もう一度叫ぼうと勢いよく息を吸った僕の口を、父が塞いだ。 やっほー、やっほー、やっほー……。 「うん、もういいよ」 父はそう言って手をどけた。 「やっほー」 やっほー、やっほー、やっほー、 やっほー、やっほー、やっほー……。 「やまびこで遊ぶ時は気をつけてね」 「何に?」 「順番」 「順番?」 「僕らは真似される側だってこと」 僕は首をかしげた。  「やっほー」 その時、僕と同じくらいの年頃の子が、少し離れたところで叫んだ。 やっ

           開園前からスタンバイしてテーマパークで一日遊ぶ予定だったのだが、私も彼も揃って寝坊してしまい、早速大いに目論みが崩れたのだった。 「ああ、くそ。ここも満車」 彼がつぶやく。パーク周辺に乱立する立体駐車場をパークから近い順に回り始めたところだ。 「そこは?」 「満車」 「あそこに見えるのは?」 「満車だねー」 彼が運転し、助手席の私が駐車場の入り口の電光掲示板を確認する。どこもかしこも赤い「満車」の表示ばかりだ。 「ここまで来たら駐められても結構歩くなあ」 「まあ仕方ないよ」

           学校からの帰り道、工事がおこなわれていた。歩道の真ん中に通行人が近づかないようにパイロンとバーで囲われた小さな一角が作られ、その周りに二名ほど作業員が立っていた。  横を通り過ぎる際、囲いの中を覗いた。その一角にはマンホールが二つ並んで設置されている。そのうちの片方の蓋が外され、地面に丸い穴がぽっかりと口を開けているのが目に入った。  「ただいま」 「お帰り、ご飯まだちょっとかかるし先風呂入っちゃって」 「うん」 カバンを自分の部屋に置き、着替えを持って脱衣所に向かった。

          4時限目

           「今日はちょっと面白いものを持ってきました」 4時限目、物理の時間。チャイムと同時に教室に入ってきた先生は、始業の挨拶の後、嬉しそうにそう言った。彼はたまにこうやって実験器具や身近な道具を持ってきては授業中に実演してみせる。多くの場合、すごく面白いということもないのだが、やはり教科書を読むだけの授業よりはずっと生徒の興味を引くことができるのだった。 「光は波動と粒子の両方の性質を持ってる、って話は前回したね」 先生は高らかに音を立てて「波動」「粒子」と黒板に書き付けた。 「

          肝試し

           昨日さ、結局お前が断った後飯田にも声かけてさ、肝試し行ったんだよ。あの廃屋に。うん、この前坂本が見つけたやつ。坂本と飯田と三人で。十時くらいに集合して。  やっぱさ、雰囲気あるわけよ。少し山に入ったところだから周りに他の家なんてないし、街灯だってほとんどないし、外観も庭も荒れ果てててさ。窓に板打ち付けてたりして、入り口もすっかり扉が歪んでてなかなか開かないし。  中も中で超暗いの。飯田なんか自分が踏んだ廊下のきしむ音でビビったりしてさ。割と騒ぎながら探検してたんだよ。あんま

          無世界転生

           人生は驚きに満ちている。  父に抱かれて初めて見た海。初めて触れた雪の温度。遥か遠くにあったはずの25mプールの端に初めて手が届いた瞬間のざらざらした感触。親友の転校。仲の良い同級生に抱いた頭の痺れ。さほど真剣に打ち込んでいたわけでもない部活の引退試合であえなく敗退した瞬間に胸から込み上げた熱い思い。合格発表のボードに自分の番号を見つけた時の現実感のない数分間。自らの視野が広がっていく高揚感。プロポーズの前の緊張感。初めての経験はいつでも僕に衝撃をもたらし、僕の人生を彩って

          無世界転生

          美容院

          だいたい毎回こんな感じ。成長しない。 「今日はどうしますか?」 どう?どうって何だ。誰々みたいに?似せたい方向で憧れている芸能人なんていないし、よしんばいたとしても誰々みたいにしてくれなどと厚かましいことが言えるはずがない。 髪型の名前を言えばいいのか?どんな髪型があったか、思いつく限り頭に浮かべる……。スキンヘッド・アフロ・ドレッド・リーゼント・ツーブロック・モヒカン・逆モヒカン・ウルフカット・マッシュルームカット・ショートボブ。モンハンのキャラクリエイトか何かか。 「か

          トイレの話

          おおむね実体験 ------------------------ 「そろそろ出よっか」  店員が空になった皿を下げるのを見送った後、私は黙々とスマホをいじる彼女に声をかけた。 「そだね」  彼女は画面から顔を上げてそう返すといそいそと身支度を済ませて立ち上がった。  卓上の伝票を拾い上げ、連れ立って会計に向かう。支払いは私持ち。男たるもの女に財布を出させるべきではない、などという話ではない。別々に支払うのが面倒で、共通の出費に対する支払い担当を出掛けるたびごとに交代しているだ

          トイレの話

          三題噺(煙突 猫 美しい)

           私が住んでいるアパートの近所には野良猫が住み着いている。このアパートに住み始めた頃からずっと、夜中にか細い鳴き声が時折聞こえてくるし、実際、出がけや帰りがけに、彼女らの姿を見ることもそう珍しくなかった。  彼女ら。そう、我が家の近所をうろついている猫は少なくとも二匹いた。一匹はいかにも野良という風情の、煤けたボサボサの毛並みをした灰色の猫。もう一匹は、それとは対照的に美しい毛並みをした、野良と思えぬ気品をたたえた三毛猫である。ほとんどの場合見かけるのは三毛の方で、ごくたまに

          三題噺(煙突 猫 美しい)

          三題噺(焼肉 野菜 天上界)

          「改めて考えると不思議な生き物だよねえ」 彼女は網の上の肉を箸でつつきながら呟いた。 アルコールが回り始めて、その顔は少し上気している。 つついていた肉をつまみ上げ、タレにつけて口に運んだ。 「わひとさいきんだよね?」 手で口元を押さえながら彼女は言った。 「何が?」 俺がそう返すと、彼女はしばらく口をもごもごさせ、軽く上を向いた。 喉がゴクリと動いたあと、一息ついてから彼女は私に向き直った。 「発見されたの。こいつら。」 彼女はさらに残っていた最後の2枚の肉を網の上に乗せた

          三題噺(焼肉 野菜 天上界)

          三題噺(木の実 黄泉の国 幻燈)

          金目のもんなんかないぞ。おじいちゃんのおじいちゃんが随分な道楽モンでな、その代でなーんも無くなったからな。 祖父は事あるごとに笑いながら私にそう話していた。 とはいえ、栄華を極めていた頃と比べると見劣りするのだろうが、それでも祖父母の家は十分豪邸と言って良いものだった。 そんな広い広い祖父母の家の、やっぱり広い屋根裏部屋は、子供だった私にとって、怪しげな魅力をたたえた絶好の遊び場だった。 屋根裏部屋に続く階段は2階の廊下の奥の奥、廊下を突き当たって折れた少し先にあったものだか

          三題噺(木の実 黄泉の国 幻燈)