肝試し

 昨日さ、結局お前が断った後飯田にも声かけてさ、肝試し行ったんだよ。あの廃屋に。うん、この前坂本が見つけたやつ。坂本と飯田と三人で。十時くらいに集合して。
 やっぱさ、雰囲気あるわけよ。少し山に入ったところだから周りに他の家なんてないし、街灯だってほとんどないし、外観も庭も荒れ果てててさ。窓に板打ち付けてたりして、入り口もすっかり扉が歪んでてなかなか開かないし。
 中も中で超暗いの。飯田なんか自分が踏んだ廊下のきしむ音でビビったりしてさ。割と騒ぎながら探検してたんだよ。あんまり静かだと怖いから。
 まあそこまではよくて。本気でビビったのはその後だよ。一階は一通り見終わったからいよいよ二階に行こうっつって廊下にもう一回出たところでさ。
 ぎっ、ぎっ。
 つって。足音がしてきたんだよ。二階から。もちろん俺たちのじゃない。もう、聞こえた瞬間皆固まっちゃって。
 いや、ホントなんだって。叫ぼうとしても声出ないし、逃げようとしても足も動かない。ヤバい、ヤバいって頭の中で繰り返すばっかりでさ。
 そうこうしてるうちに初めは頭の上から聞こえてた足音が段々降りてきてさ。階段の向かいの壁が丸く照らされて、細い白い腕が壁の向こうから覗いて……。
 わっ!
 驚いた?ははは。ごめんごめん。どんな反応するかと思って。
 いや、先言っちゃうと全然霊とかじゃなかったんだよ。人。懐中電灯持った普通の女の人。まあ陰気でちょっとヤバそうな雰囲気はあったけど。まあまあ好み。
「どなたですか……?」
って。こっちのセリフだわ、って感じ。
 とりあえず人だ、ってわかって一気に気が抜けてさ。一番前にいた俺が話する感じになって。正直に肝試しに来たんですけど、って。そしたら、
「うちにですか……?」
って聞いてくんの。
 そう、廃屋じゃなかったんだよ。住んでた。その人が。壁に手触れてなんか探ってるなと思ったら廊下がちょっと明るくなってさ。電気まで通ってんの。
 もう平謝りよ。不法侵入だもん。いや、誰も住んでなくても誰かの所有物なわけで不法侵入なんだけど。現在進行形で住んでたらまた違うっていうか。
 でもその人も心が広いっていうか、全然怒ってなくてさ。俺らが泥棒だったらどうすんだ、って感じだけど。まあ廃屋と間違えるような家だし泥棒なんて入らないか。とにかく、うちに勝手に入ったことはとやかく言いませんので、って。で、
「申し訳ないのですが、赤ん坊が泣くので、お引き取りいただけませんか?」
って言うんだよ。こちらは家主に見逃してもらってるだけの不法侵入者だからな。
「もちろん。すぐ帰りますんで」
って言うしかない。
 実際上の階からほぎゃあ、ほぎゃあって泣き声が聞こえ始めて。そりゃこんな大の男が三人がかりで騒いだら赤ん坊も起きるわ。ああ、起こしちゃったな、って。申し訳ないことしたな、って感じ。で、お母さんに詫び入れてそそくさとその家を後にしたわけだ。
 と、いうわけで、なんか変な感じに終わったけど、なんだかんだ結構楽しかったわ。またやることがあったら今度はお前も来いよ。
 ん、眠そう?ああ、ちょっと寝不足なんだわ。
 いや、肝試しでちょっと興奮してたのもあるんだけどさ。昨日あんまり眠れなかったんだよ。隣の部屋だと思うんだけど、赤ん坊がずっと泣いててうるさくて。

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