開園前からスタンバイしてテーマパークで一日遊ぶ予定だったのだが、私も彼も揃って寝坊してしまい、早速大いに目論みが崩れたのだった。
「ああ、くそ。ここも満車」
彼がつぶやく。パーク周辺に乱立する立体駐車場をパークから近い順に回り始めたところだ。
「そこは?」
「満車」
「あそこに見えるのは?」
「満車だねー」
彼が運転し、助手席の私が駐車場の入り口の電光掲示板を確認する。どこもかしこも赤い「満車」の表示ばかりだ。
「ここまで来たら駐められても結構歩くなあ」
「まあ仕方ないよ」
「お、そこは?」
彼が顎で示した立体駐車場に目をやる。遠くて満車か空車かを示す表示は街路樹の陰で見えないが、何台か前の車が入っていくのが見えた。
「あ、車入ってった!行けるかも」
「お、まじで?」
「あ、待って」
赤い漢字が見えた。
「ダメだ。満車……?あれ?」
「どうしたの?」
「なんか字が違う?」
「え、あー、ダメだ。やばい」
掲示板に軽く目をやった彼は、急に車の速度を上げた。 
 駐車場のそばを駆け抜ける私たちの車の背後で、突如車が揺れるほどの轟音が響いた。
「何!?」
振り向くと、背後は惨憺たる有様だった。
「事故……?」
そこには、原型を留めないほどにひしゃげ、煙を上げる車が一台転がっていた。
「降ってきたんだろ」
ほっとしたように車の速度を下げ、彼が呟く。彼の言葉を裏付けるように、車だったものを中心に、道路は痛々しくひび割れていた。
「こんなになるまで駐める方も駐めさせる方もどうかしてるよなあ」
 車が吹き上げる煙の後ろで掲示板が赤い光を放っている。
「満……じゃない?」
「溢車でしょ。次はどうかなあ」
 私たちの車は駐車場を後にした。私はといえば、車が右折して視界から消えるまで、溢れた車が屋上から途切れ途切れにこぼれ落ちていく駐車場の光景から目を離すことがどうしてもできなかったのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?