学校からの帰り道、工事がおこなわれていた。歩道の真ん中に通行人が近づかないようにパイロンとバーで囲われた小さな一角が作られ、その周りに二名ほど作業員が立っていた。
 横を通り過ぎる際、囲いの中を覗いた。その一角にはマンホールが二つ並んで設置されている。そのうちの片方の蓋が外され、地面に丸い穴がぽっかりと口を開けているのが目に入った。
 「ただいま」
「お帰り、ご飯まだちょっとかかるし先風呂入っちゃって」
「うん」
カバンを自分の部屋に置き、着替えを持って脱衣所に向かった。
 脱衣所で風呂に入る支度をしながら、隣接する台所で夕食の支度をしている母に話しかけた。
「さっきそこのスーパーの横の道、工事してた」
「ふーん」
「マンホール開いてるのって初めて見たかも」
「そこの?」
「うん」
ガラガラ。私が風呂場のドアを開ける音が大きく響き、話はそこで終わった。裸で延々話すほどのことでもない。
 私が風呂から上がった頃には、夕食の用意はほとんど終わっていた。寝巻きに着替え、配膳して食卓につく。いつものようにテレビを垂れ流しながら箸を動かしていると、いつもはテレビにかじりついていることの多い母が話しかけてきた。
「どっちが開いてた?」
「うん?」
「工事。二つあるでしょ、穴」
「ああ、マンホール?どっちだったかな。スーパーの正面入り口に近い方のさ、ほら一回り小さいヤツ、たしかあっち」
「あー」
「うん?」
「マンホールじゃないよ、それ」
「は?じゃあ何」
「えー、何かまでは……。まあ間違いなくマンホールではないのよ。隣のはマンホールだけど」
「意味わかんない」
「ま、後で調べなさいな」
「何を」
「そりゃ"マンホール"でしょ」
そういうと母はいつものようにテレビに見入ってしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?