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「介護の大変さを、少しでもやわらげる方法」㉖「体験記を読む」

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、書き続けることができています。

 初めて読んでいただいている方は、見つけていただき、ありがとうございます。

 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。家族介護者の心理的支援を仕事にしています。

家族介護者の負担

 コロナ感染対策の緩和が言われるようになりましたが、ご高齢者に関わることが多い家族介護者の方にとっては、それほど不安の大きさが変わっていないかもしれません。それに、もともと、介護が始まってから、いつ終わりが来るか分からない毎日が、ずっと続いているかと思います。

 その気持ちの状態は単純ではなく、説明しがたい大変さではないかと推察することしかできないのですが、それでも、ほんの少しでも負担感や、ストレスを減らせるかもしれない方法は、お伝えする努力はしていきたいと考えています。

 時間的にも余裕がなく、どこかへ出かけることも出来ない場合がほとんどだと思いますが、この「介護の大変さを、少しでもやわらげる方法」シリーズでは、お金も時間も手間もなるべくかけずに、少しでも気持ちを楽にする方法を考えていきたいと思います。

 今回は、26回目になりますが、「体験記を読む」について、考えたいと思っています。

体験記

 介護を一人でやらざるを得なくなり、介護サービスを利用するようになって、様々な関係者とも知り合うようになり、そこでコミュニケーションをとるようになっても、場合によっては、自分の気持ちは理解されないと感じて、孤立感が深まる場合があります。

 そういった時に、家族会や、もしくはご近所で似たような境遇の方と知り合い、介護の大変さを共有できることによって、孤立感がやわらぐこともあるのですが、その一方で、ご本人には落ち度がなくても、あまりにも介護負担や負担感が大きいことで、そうした機会に出会えなかったり生かせないことも少なくないと思います。

 それでも、もし、ほんの少しでも時間があるときに、本を読むような気持ちの余裕がわずかでもあれば、同じように介護をしていた方の体験記が、気持ちの支えになることもあります。

 それは、書物という物体に過ぎませんが、そこで書かれていることが、自分にも思い当たることであり、その思いも分かる、という瞬間があれば、それで、孤立感が少しでも減る可能性があるからです。

 ですから、介護をされている方が、介護者の体験記を読むことをすすめられた方もいらっしゃるかもしれません。

相性

 ただ、ぼんやりとした印象にすぎませんが、そうして「体験記」などを読んでもピンとこない、もしくは返って気持ちがザワザワした方もいらっしゃるのではないか、という想像をしてしまうのは、私にもそんな経験があるからです。

 私が介護を始めた20世紀の終わり頃には、男性介護者として有名な方がいらっしゃいました。

 ご自分の配偶者のために、高槻市長をやめたことが、「美談」として有名になった人でした。舞台化もされたと思います。私自身も、男性ですから、そういう意味では共通点はありましたが、ちょうど介護を始めた頃と、この「美談」が広まっていく時期が一緒だったので、全く関係がないのに、この人のエピソードを、同じ男性として参考になるからと、聞かせてくれる人もいました。

 ただ、私の心が狭いせいか、こんなことを思っていました。

 私自身は30代で、自分自身が介護の途中で心臓発作を起こし、過労死一歩手前と言われ、仕事を辞めざるを得なくなり、やむをえず、介護に専念している状態でした。母だけではなく、妻の母親(義母)にも介護が必要になってきて、誰かを雇うような資金もないので、自分の体を使って、介護を続けるしかありませんでした。

 そして、これは自分の力不足でもあったのですが、介護前には、仕事をしていましたが、何の実績も残せていないままで貯えもなく、介護を続けていく中で、資金が足りなくなる可能性も低くありませんでした。

 そうなったら死ねばいいや、といった自暴自棄な気持ちもあった中で、市長まで勤めて、それを介護のためにやめて、それがさらに評価される、という方は、男性介護者という共通点があるだけで、自分とあまりにも違って、あまり褒められたことではないですが、うらやましい気持ちの方が強かったです。

 ですから、著書を読んで、自分が男性介護者のモデルケースのように語られる風潮のために、かえって苦しまれている介護者の方がいるのは本意ではない、申し訳ない、といった表現もあったので、評判以上に立派な方とは思ったのですが、それでも、その体験記を読んで、配偶者の介護の大変さも伝わってきましたが、やはり、その読書体験で負担感がやわらいだ感じはしませんでした。


 それは、すすめてくれた方にも、ましてや、この元市長の方にも責任があるわけでもなく、私という介護者の状況との相性が悪かった、ということだと思います。

 もしかしたら、似たような経験をされている方も、思った以上に多くいらっしゃるような気もします。

介護での「激しい思い」

 その後、何冊も家族介護者の当事者の方々の、貴重な体験記を読むこともありました。

 そうした中でも、かなり大変な思いをされた上で、その時のご自分のネガティブな感情も含めて書いてくれている体験記には、自分だけではないんだ、と感じ、孤立感が減ることもありました。

 この体験記↑は、ご自分が追い詰められるような介護環境にいらっしゃる時の激しい感情も、きちんと書いてくださっているので、私自身も、そんな気持ちのことがあり、その時は、誰もわかる訳がない、といった思いだったので、読んでいて、心に届いたのだと思います。

 この著者↑の方のことはテレビのドキュメンタリーから、映画にまでなり、映画館まで見に行きました。

 とてもまっすぐに、介護をされているご自身の母親へ向き合っていて、ご本人の消耗も激しいのだと思いますが、それは、全力で介護している、ということだと思いますので、その感情の激しい浮沈も、分かるような気がしました。


 以上の2冊の体験記を書かれた介護者の方々は、息子として一人で親を介護しているのですから、私自身は、妻と二人で母と義母を介護しているので、状況は違います。ただ、その感情の揺れ具合いのようなことに、多少でも共感できたので、読むことで少し孤立感が減り、負担感も減ったように思いました。

 この書籍の著者の方↑は、親を介護する娘という立場ですが、このかたも、介護中の気持ちの揺れ動きなどを率直に書いてもらっていることで、同じような辛い状況にある介護者にとっては、孤立感を減らす効果があるのかと思います。


 私が読んだ書籍は限られていますので、どこまで正しい味方か分かりませんが、もし、当事者の体験談を読むのであれば、現在の自分の感情の持ち方の程度と、似ていると思える方の本や文章を読むと、もしかしたら少しでも大変さがやわらぐかもしれません。

 そういった意味では、最も辛く大変な時には、大勢の方の体験ですが、この書籍↑がいいのでは、と思ったりします。
(このタイトル自体に、ある程度、共感できれば、本書を読むことで、負担感がやわらぐ可能性があると考えています)。

様々な介護

 ただ、当然ですけれど、介護をされていても、いろいろな方がいらっしゃいますし、思いもそれぞれです。ですから、できたら、状況が同じだけでなく、自分の感情のあり方と似ているのではないか、と思える体験記を読んだ方が、負担感がやわらぐ可能性があるかと思います。

 それを分かるためには、お手数ですみませんが、やはり少しでも読んでみて、自分になるべくしっくりくる文章を探していただくのが、一番確実ではないかとも思います。

 さらに何冊か紹介します。

 孫の立場で祖母の在宅介護をした著者↑は、覚悟が伝わる文章で経験を書いている、と思います。

 自宅の近くで、高齢で認知症の父親を、ご自分のきょうだいの方々などと一緒に取り組んだ介護で、大変だとは思うのですが、比較的、穏やかな印象を受ける文章だと思いました。

 著者↑は、結果として両親を介護し看取ることになるのですが、かなり率直でありながら、冷静な部分もある文章だと思いました。

 この書籍↑は、介護中だけではなく、介護後も続く辛さも含めて書いてくれているので、そうした状況にある方にもおすすめできそうに感じました。


 また、この「“介護後”うつ」の著者は、いわゆる「有名人」の方ですが、同様に「有名な方」が書かれた介護の体験記も少なくありません。

 こうした書籍を読む場合は、とてもシンプルな話なのですが、その「有名な方」の「ファン」であれば、手にとって、共感もしやすく、負担感が和らぐ可能性があるのではないかと思います。

介護に関する小説

 最後に紹介したいのは、小説です。

 男性の小説家が、配偶者が認知症になってしまい、介護をする日常が淡々と描かれているのですが、とても心に染みてくるような話です。小説ですが、本人の体験を元にしているようです。

 もう随分前の作品で、ベストセラーにもなり、ドラマや映画にもなりました。この作品で、認知症(当時は痴呆)のことが社会的に認知度が高まったとも言われています。小説の中の、徘徊や異食などの周辺行動だけが目立ってしまったのですが、実は、その一方で、家族介護者の葛藤なども、すでに表現されています。

 小説家の文章は、基本的には文章表現力が高く、対象との距離の取り方が的確な場合が多いので、読みやすいのも事実だと思います。


 今回、紹介した書籍は、このnoteで、これまでも取り上げてきた作品も多いですし、また、私自身の能力の限界もあるので、偏りもあると思います。ただ、それでも、この中で興味を持った作品があれば、手を取っていただければ、少しでも負担や負担感がやわらげられる可能性があるかもしれません。

 また、もし、よろしければ、この体験記が自分にとって良かった、といった作品があれば、教えていただければ、ありがたく思います。

 よろしくお願いいたします。 



(他にも介護のことをいろいろと書いています↓。よろしければ、読んでもらえたら、うれしいです)。





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