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2021年2月の記事一覧
Doors 最終章 〜 Doors
僕は細長い廊下に立っていた.先が見えないくらいとてもとても長い廊下に.目の前には沢山の扉が並んでいる.すると,その扉が端から順に開いていき,全ての扉が開いたら扉の中から光が流れ出した.眩い光に一瞬目が眩んで目を背けた.
光が止むとそこには扉が一つだけあった.ドアは開いており,中からキラキラと光が漏れ出ていた.ゆっくりとその中に入ると,中にはまた別の扉が一つ.こちらには鍵が掛かっており厳重に閉ざ
Doors 第26章 〜 夢
未来で音楽家になる夢を叶えた僕は,もう夢に縛られることがなくなった.そのことは僕をいい方向に大きく変化させた.その一つは夢が変わったということ.新たな夢は『プロ並みの実力をつける』ことだった.一見変わっていないようで,実は大きく変わったように見えるけれど,本質は実は同じものだった.やることに変わりはない.
元々,プロになりたいと思っていたが,どこか周りの同志と違っていた.武道館を埋め尽くす大
Doors 第23章 〜 明日への扉
色々考えた,悩んだ."You"が自分のことではないことくらいは流石の僕でも察しがついた.実らない恋,実らせてはいけない恋だとも.だれも幸せになれない.扉を開ける鍵はあるけれど,そうすればお互いに傷つくだけ.僕が手にしているのは諸刃の剣.どうせ自分はいつだって蚊帳の外だった.
そうだ,お前はJokerじゃないか.忘れちまったのか.その方が楽だぜ.せいぜい庭から道に飛び出た枝になる腐った果実を分け
Doors 第22章 〜 運命の人
運命の人は誰にでもいる.ただし,最初に注意しておかないといけないことが一つだけある.それは,多くの人が思い描く"運命の人"は少し限定的なイメージになっていて,実際はもっと広義な意味を持っているということ.
結論から言うと,運命の人とは『必ず出会う人』のことである.その出会いがたとえ瞬間的なものであったとしても,その人の人生に必要不可欠な登場人物であれば,その人は立派な運命の人と言えるのである.
Doors 第21章 〜 フォーカルジストニア奮闘記5
ついにその扉に辿り着いた.あれほど必死に探していたその扉,開くときはとてもあっさりしていた.音も立てずに悟ったような扉が開いていた.気がつくと既に別の世界にいた.
その世界は時間が生きていた.僕らの世界では,時間は意志を持たずに無機質に働いている認識だ.直前をただひたすら一定方向に一定の速度で進んでいるかのように見える.しかし,この世界では時間が生活している.右に左に動き回りもするし,早くなっ
Doors 第20章 〜 フォーカルジストニア奮闘記4
その疑問を感じ取ったのか,少女が続けてアドバイスをくれた.沼に飛び込んだら,まず広くて白い雪原を想像すること.それが成功して広い雪原に一人立ったならば,今度は空を見上げること.そうすると雪がひらひらと舞ってきて,やがてどんどん大量に降り始める.その中に紛れて稀に輝いている雪が降ってくるから,それを頑張って見つけること.見つけたらその特徴やそのときの状況,或いは思ったことでも何でもいいからすぐに書
もっとみるDoors 第19章 〜 フォーカルジストニア奮闘記3
外は激しく吹雪いている.僕は一人テントの中にいた.雪原のど真ん中に構えたそのテントは,小さいながらも確実に僕を守ってくれている心強い味方.ここにいれば安全であることは保証されていた.ただ,その広大な雪原と激しい吹雪の前に人間の無力さを身をもって痛感していた.吹雪が止むことは二度とない.それがこの雪原の掟.選択肢は二つ,このまま一生この安全の中だけで暮らすか,外に出て本当の安全を探す旅に出るか.
Doors 第18章 〜 フォーカルジストニア奮闘記2
2020年,世間はコロナ禍に見舞われた.多くの人がそうであるように僕の生活も大きく変わってしまった.仕事も含めて音楽関係の活動は全てなくなった.いや,自らなくした.自分自身が不安だったというのもあるが,この状況でリスクを負ってお店に足を運んでもらってまでステージに立つ価値や資格が自分にあるとは思えなかった.どんな顔をして演奏したらいいのか分からない.だから全ての活動を停止させた.
心の中が空
Doors 第17章 〜 フォーカルジストニア奮闘記1
交通事故で右手の指3本を開放骨折をしたことが原因で後々にフォーカルジストニアに悩まされるようになった.主な症状はドラムの連打奏法が満足にできなくなったことだ.
初めて違和感を覚えたのは事故から半年ほど過ぎた時だった.アップテンポな曲をコピーするバンドのスタジオで,突然動かなくなってしまった.
そのスタジオはとても小さかったので,自分の音しか聞こえなかった.だからボリュームを落とすために少し
Doors 第16章 〜 door
階段を上っていたら,僕たちはきっと帰っては来れなかっただろう.
旧造り酒屋を利用したスペースで,とある芸術家が絵を展示していた.そのスペースには階段があり2階へと上がれたが,もしそうしていたなら未来は大きく変わっていた.
薄暗くて細い通路を真っ直ぐ進むと曲がり角に差し掛かった.そこで第一のデジャヴが起きた.この場所知っている.そう感じたので,興味が薄れてきた友人三人とは裏腹に僕は
Doors 第15章 〜 黒いヘモグロビン
通勤の行き帰りにすれ違う人々の顔はどれもこれも険しかった.自分には想像もできないような大きな問題やプレッシャーを抱えているのだろう.右脳から飛び出ている緊張の糸は,糸というよりも鉄筋のようにピンと張っていた.その鉄筋が周りの人にも容赦なく突き刺さり伝染していくようだ.その表情は今にも崩れそうなくらいヒビだらけだった.にも関わらず次の日も平然と会社へ向かう.向かえる.
どうしてだろう.一体何を