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短編小説

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#青春

小説:親友への手紙

小説:親友への手紙

拝啓 三瓶陸人様

 お久しぶりです。渡辺優成です。近頃はいかがお過ごしでしょうか。というのはいささか意地悪が過ぎましたね。ですが手紙というのは出したことがなかったもので、どのように文章を始めていいのやら、少しわからなくなってしまいました。だからこのような形で始めさせていただきます。

 あだ名も忘れたわけではないのですよ。ただ、やはりあだ名で宛先を書くというのは違うんじゃないかなと思ってしまうも

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小説: イバラの道をゆけ

小説: イバラの道をゆけ

男は天才故に変態であったがそれ以上に繊細であった。しかし、彼の創造物はどれもこれも何やらよく分からぬ臭い汁にまみれている。それゆえ飴細工のような美しい心を理解出来る伴侶となり得る女性はこの世から絶滅したと思われていた。我々どころか男もそう思っていたし、男はそんな境遇に酔いしれニヤニヤと笑っていた。したがってその一報を聞いた時、それは冗談であると我々は一蹴した。しかし、彼の態度を見るとどうもそ

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小説:花火展望石階段の乱

小説:花火展望石階段の乱

 階段を登ってくる風に揺られ、木々はさわやかに揺れる。日陰から見上げる真っ青な空と入道雲は実にまぶしかった。ここで純粋無垢な乙女とともに空を見上げ共有したイヤホンで恋の歌でも聞けたら何と素敵なことであろう。

 しかし現実は甘くないのである。青い空の下で麦わら帽子をかぶり白いワンピースを着た無垢な乙女との出会いなどまるでない。それどころか、ここにいるのは汗で石畳を濡らすさえない男どもである。このう

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小説:孤高なる酒乱学生事変

小説:孤高なる酒乱学生事変

「先輩、今日サークルの飲み会あるんですけど来ないんですか」
「悪いが俺はパスだ」

 後輩からのラインにそっけなく答える。しかし、なぜ大学生は集団で酒を飲みたがるのだろう。

 俺は群れるのが好きじゃない。人は群れの中の秩序を何よりも大事にする。聞こえはいいかもしれないが、その中身は極めて人情にかけてグロテスクなのである。全体の利益のためなら人の大事な時間を奪うことに躊躇をしない。それが秩序を守る

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短編小説:ヒッチハイカー

短編小説:ヒッチハイカー

「その、バックパックは後ろにおいていいよ。それでそこまで行くんだっけ」
「えっと、江ノ島に行きたいです。」
「あーじゃあ、海老名あたりでおろすことになっちゃいそうだけど大丈夫?」

 ヒッチハイクの青年が「大丈夫です」と答えるとともに、車が揺れた。バックパックを座席に放り込んだからだろう。その後、青年が助手席に座り、ドアを閉めたことを確認すると、エンジンを着けて、メーターに表示された距離をしわくち

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短編小説:沢中サッカー部、サッカー人生最後の試合

短編小説:沢中サッカー部、サッカー人生最後の試合

 いつからだろう。近所の公園で自主練習をしなくなったのは。いつからだろう。高校は違う部活をやろうって思い始めたのは。ペットボトルに入った暖かい水をかぶってそんなことを思う。後半15分に取られる熱中症対策の給水時間。もうあと15分で俺の中学時代の部活はいったん終わる。だからこうして沢中での部活を総括し始めてしまったのだろうか。

「時間ないけど、いまのおれたちならまだいける。ここから点取ってこ」

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夏は受験の天王山

夏は受験の天王山

「おい、ケン! 今日駄菓子屋行くぞ! リョウとハヤトも誘っといてくれ」

 俺はそうラインをうち、階段を駆け下りる。

「じゃあ、塾行ってきます!」

 靴を履きながら台所にいる母に向かって叫ぶと、「ちゃんと勉強してこやーよ!」と帰ってきた。俺は元気よく返事をする。しかし、カバンの中に勉強道具は入っていない。あるのはカードゲームのデッキだけだ。

 セミの合唱を聞きながら20分間自転車で走ったとこ

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逆襲の根明

逆襲の根明

「なぁ。俺達さ、もうどうせ生涯童貞なんだからさ、来年の三月風俗でも行こうぜ」

 信じられない。私の目の前で安くてまずい学食のラーメンをすする男は何を言っているのだ。こいつが童貞を守りながら学生生活を終えるというのは理解できる。もちろん生涯守り抜くことも。しかし、私ほどの男がそのような根暗な境遇にとらわれるなどありえない。

「何をバカなことを言っている。生涯童貞は貴様だけだろう」

 私の真の実

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短編小説:橋の下の秘宝

短編小説:橋の下の秘宝

 どうしてもだめだ。今日ずっと、昨日見つけたお宝のことが頭から離れない。まだ、あるだろうか。すぐにでも見たい。こんな気持ちになってしまうならビビらず、昨日の夜家に持って帰ればよかったんだ。

 昨日の放課後はオレとリョウタとアユムの三人だけで河川敷のグランドでサッカーをした。ほんとは仲のいいヒロとか、ナカちゃんとか、モリリンとかも誘った。リョウタもアユムも友達をいっぱい誘ったんだ。でも、やっぱり昨

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小説:週末課題戦線

小説:週末課題戦線

 週末課題、それは存在してはいけないものである。週末課題、それは歴史に名を連ねる暴君も震えあがるほどにサディスティックな高校教師が我々の休息や青春を亡き者にしてやろうと編み出した拷問である。私が週末課題をやってこないのはこの圧政に異を唱えるためである。我々の青春を邪魔しないでくれという我々の無言の抗議だ。これは革命のためであって断じて週末課題をやるのがめんどうくさいわけではない。

 2年生になっ

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