カモヘラシカ

書き続ける。

カモヘラシカ

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マガジン

  • 【2023】キバナコスモス

    生きる。書き続ける。

  • 短編

    短編小説置き場

  • 【2022】灯

    浪人生だった。未来への期待と、前向きな焦燥。

  • 【2021】タコノマクラ

    18歳の頃、幼いとき父にもらって、すぐに落として割れてしまったタコノマクラのことを真剣に思い出していた。私の子供時代とは、宝物とはなにかという問題。

記事一覧

固定された記事

夕やみ

 きつい階段だった。ひどく長くて、傾斜が急で、一段上るごとに息が切れた。夕やみの中、隣を歩くきょうだいの輪郭はぼやけ、ほとんど影に近い。周りのものすべては夕やみ…

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これが世界なのだ

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白昼夢

白昼夢                        2022.9.23 もろい もろい 指先で 空に 描いた 白い月 どうして消えないんだろう? どうしてかがやくんだろう…

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透過

透過                            2022.8.22                                       すごくきれい…

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かなたの丘に

かなたの丘に                2022.5.21 夜の丘のふもと。 女の子は、つぶやいていました。 星の、こぼれおちそうにまばゆい光を、ゆるやかな鼻すじのて…

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夜明けごろ

夜明けごろ                      (~2023.9.12) 線を引くことで世界をつくりだし ああこれが世界なんだなと、認識する そんな 夜明けごろ 朝の…

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2023.5.21

                          2023.5.21 うつくしいものに触れることのあまりのうつくしさに 身動きが取れなくなってしまったあのときの私は 山…

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川 記憶の底で 川は命の比喩だった 螺旋階段 川の源流 揺れるキバナコスモス 川辺の道の 一面に たしかに知っていた 色の滲みあい うつくしいもの きれいなこと と…

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あたらしい春

あたらしい春          230501 つきさすような西日に、ほを止める この光はいま、わたしの横顔をふちどって ろうかの先のかいだんに、はたと腰をおろす そよ風…

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川面

川面                 20211006                                        川面に一番近い場所で 寝袋を広げ…

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メタセコイヤ回廊Ⅰ.Ⅱ

Ⅰ                 20210930                メタセコイヤの並木道が  ずっと遠くまで続いている この季節まで知らなかった 秋の…

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ゆうぐれ羽虫           20210928                     わあ すごい すごいよ と ゆびさしたそのさき こぼれおちては にじみゆ…

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カモヘラシカ                    20210812 ヘラジカの角が五歳の弟よりも重たいと知ったとき、彼は心底驚いたように笑っていた ヘラジカと衝突して…

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月あかり

月あかり              220403                           かみさまを拾った 夜の底 溶けてゆく 日々のてのひら 掴みあぐねて…

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『かっぱぼとキュウタの話』

 かっぱぼうずはそうっと、ちいさいぼうやの腕をつかみました。そうしてさっと、引き寄せました。かすかな水しぶきとともに、ぼうやは小池に落ちました。  かっぱぼうず…

カモヘラシカ
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夕やみ

夕やみ

 きつい階段だった。ひどく長くて、傾斜が急で、一段上るごとに息が切れた。夕やみの中、隣を歩くきょうだいの輪郭はぼやけ、ほとんど影に近い。周りのものすべては夕やみと同じ色で、自分の存在すらも定かではなかった。
「後ろを振り向いたらねえ、影が襲ってきて、食べられちゃうよ」
「登りきるまで、絶対に振り向いちゃだめだよ」
 姉と私は、二人の間に手をつながれた弟をからかいながら歩いた。そうしていないと、自分

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これが世界なのだ

これが世界なのだ

20231223

目がよく見えなくなる夢を見た

書き留めようと思ったけれど、忘れてしまった

見知らぬ街の市場でわたし、見たことない魚の死骸を鷲掴にし、その死んだ目に釘付けだった

ぬめぬめした表皮の感触に、お酒に酔うさまさえ知らないわたしは、狼狽え、恐怖し、吐き気をおぼえた

それからは嘔吐ばかりだ

あのぬめぬめした感触が、うそいつわりのないわたしの原風景をすらあの魚のあの肌の感触へ変容さ

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音

音     20231031

久しぶりにイヤホンを外して歩くと、街の音が聞こえる

街の音が聞こえると、安心する

生きているってかんじがする

足音と、呼吸音

話し声、誰かの咳と、擦れ合う服の音

クラクション、戸の軋み、踏切の音、その反響

川辺でわたしは腰をおろす

久しぶりに、詩を書いた

ペンとノートを取り

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白昼夢

白昼夢

白昼夢                        2022.9.23

もろい もろい 指先で
空に 描いた 白い月
どうして消えないんだろう?
どうしてかがやくんだろう?

聞こえない ふりをして
手放した夢の声
起きられない ふりをして
しがみつく夢の端
もう耐えられない とつぶやいたら
その声が私に はりついた
目をそむけたんだ

どうしてだろう

なくしもの
よごれて にごって 虹をま

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透過

透過

透過                            2022.8.22                                      

すごくきれいな、日々だった。

そんな印象を残して、景色は途切れた。ぷっつりと。
そう、
ぷっつりと。終わり、
はじまっていくことの意味を、ただ、
問うように。

この春に見た桜の光景を、私はいつまでも忘れないのだと思う。
私の中で確かに、ひ

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かなたの丘に

かなたの丘に

かなたの丘に                2022.5.21

夜の丘のふもと。
女の子は、つぶやいていました。
星の、こぼれおちそうにまばゆい光を、ゆるやかな鼻すじのてっぺんにとまらせ、
夜よりも黒い両目の内を、星のかなたの深みへ投げて。
「まだ、まだ、まだ...」

夜の丘の中腹。
少女はそっと、呼んでいました。
町の屋根から、扉から、こぼれ、ゆらめき、にじんでいく、
さみしい声を、あの家の

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夜明けごろ

夜明けごろ

夜明けごろ                      (~2023.9.12)

線を引くことで世界をつくりだし
ああこれが世界なんだなと、認識する
そんな
夜明けごろ

朝の光は立ちあがり、街の境をふりきった

ぶらんこがあっち側の空へ
ゆれ、ゆれ、
ぶらんこがこっちがわの空から
駆け、駆け、

弧を運ぶ

軋みの音に手をかざし、
こぼれ、漏れていく指先の光に
朝が、静かに集まって

ああここが

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2023.5.21

2023.5.21

                          2023.5.21

うつくしいものに触れることのあまりのうつくしさに
身動きが取れなくなってしまったあのときの私は
山なみのむこう
しらみゆく空のかなたを見つめながら
いつまでもあなたの腕のなか
このあたたかいやさしさのなかで
とどまっていたいと願っていた
いつか終わる
終わってしまうことをわかっていたから
ほのかにただよう桃色のなかで
じっと

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川



記憶の底で 川は命の比喩だった
螺旋階段 川の源流
揺れるキバナコスモス
川辺の道の 一面に

たしかに知っていた 色の滲みあい
うつくしいもの きれいなこと とうめいなものごと
ことばに汚される以前の
この川の源流

うつくしいもの 切実な記憶
子どもの頃を思い出して 肌に触れる空気
とうめいなもの 薄い綿布
乳臭い弟のおなか
誰もいない寝室 そっと抱き上げた
まだ首も座っていなかったのに

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あたらしい春

あたらしい春

あたらしい春          230501

つきさすような西日に、ほを止める
この光はいま、わたしの横顔をふちどって
ろうかの先のかいだんに、はたと腰をおろす

そよ風がまどべをかたどって
春めいたろうか、ひやりとしたゆかに
まどぶちの影、つくり出す

光となってつとおちた
がくぶちみたいなまどの影

手を伸ばして、そっと触れたら
線はほころび、とびちった
ろうかの向こうで、あたらしい声

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川面

川面

川面                 20211006                                       

川面に一番近い場所で
寝袋を広げた
ノスタルジーについて議論しながら
「もっと実感したい。もっと実感しないと。ここに、今川面を見上げて、朝日を眺めているということ。」
カメラを構える人がいると
すべてが詩情を醸すのは
とても不思議で
きれいな心の現れでした

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メタセコイヤ回廊Ⅰ.Ⅱ

メタセコイヤ回廊Ⅰ.Ⅱ

Ⅰ                 20210930               


メタセコイヤの並木道が 
ずっと遠くまで続いている

この季節まで知らなかった
秋の空があんなに高く
輝くだなんて

冬になれば忘れてしまう
わかったうえで 心から驚く

春になっても 夏になっても
並木道は続いている
いつかは驚くんだろうなと
わかりながら
やっぱり僕は忘れていく

そしてどんどん秋

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ゆうぐれ羽虫

ゆうぐれ羽虫

ゆうぐれ羽虫           20210928                    



わあ すごい

すごいよ と ゆびさしたそのさき

こぼれおちては にじみゆくそらに

てりはえる きんいろの やまやま



しずんでいく しずんでいく



さざめいては きえて かわしあうこえのように

たとえば あそこ 羽虫たちがおどっている



ああ みごと

みごとだったねえ と

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カモヘラシカ

カモヘラシカ

カモヘラシカ                    20210812

ヘラジカの角が五歳の弟よりも重たいと知ったとき、彼は心底驚いたように笑っていた
ヘラジカと衝突してアメリカでは年間二五〇人が死ぬんだって聞いたとき、
彼は確かにそんなこともあるかもねといって笑っていた
一三年前、虫眼鏡で星を眺めようと家を飛び出した彼は、
八年後にカモシカを轢いて死んだ
自分が轢いたのがヘラジカじゃなくてカモ

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月あかり

月あかり

月あかり              220403                          

かみさまを拾った 夜の底
溶けてゆく
日々のてのひら 掴みあぐねて
かみさま あなたを拾ったの

月のかけらが眩しいな
日々も昨日も滲んでる
今日も今夜も揺れている
溶けてゆく 日々の線

知りたくないことばっかりで
知れなくなることばっかりで

かみさま そろえた指先は
夜更けに線をかくけれど

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『かっぱぼとキュウタの話』

『かっぱぼとキュウタの話』

 かっぱぼうずはそうっと、ちいさいぼうやの腕をつかみました。そうしてさっと、引き寄せました。かすかな水しぶきとともに、ぼうやは小池に落ちました。
 かっぱぼうずは、舌なめずりをしました。
「むむう。むむう。」声をあげ、小池のまん中を目指します。ひさしく味わうよろこびが、胸のそこで渦巻いています。
 ちいさいぼうやは、かっぱぼうずに手を引かれ、はじめての景色を泳ぎました。おかしな色の景色でした。みな

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