カモヘラシカ
生きる。書き続ける。
短編小説置き場
浪人生だった。未来への期待と、前向きな焦燥。
18歳の頃、幼いとき父にもらって、すぐに落として割れてしまったタコノマクラのことを真剣に思い出していた。私の子供時代とは、宝物とはなにかという問題。
きつい階段だった。ひどく長くて、傾斜が急で、一段上るごとに息が切れた。夕やみの中、隣を歩くきょうだいの輪郭はぼやけ、ほとんど影に近い。周りのものすべては夕やみ…
20231223 目がよく見えなくなる夢を見た 書き留めようと思ったけれど、忘れてしまった 見知らぬ街の市場でわたし、見たことない魚の死骸を鷲掴にし、その死んだ目に釘付…
音 20231031 久しぶりにイヤホンを外して歩くと、街の音が聞こえる 街の音が聞こえると、安心する 生きているってかん…
白昼夢 2022.9.23 もろい もろい 指先で 空に 描いた 白い月 どうして消えないんだろう? どうしてかがやくんだろう…
透過 2022.8.22 すごくきれい…
かなたの丘に 2022.5.21 夜の丘のふもと。 女の子は、つぶやいていました。 星の、こぼれおちそうにまばゆい光を、ゆるやかな鼻すじのて…
夜明けごろ (~2023.9.12) 線を引くことで世界をつくりだし ああこれが世界なんだなと、認識する そんな 夜明けごろ 朝の…
2023.5.21 うつくしいものに触れることのあまりのうつくしさに 身動きが取れなくなってしまったあのときの私は 山…
川 記憶の底で 川は命の比喩だった 螺旋階段 川の源流 揺れるキバナコスモス 川辺の道の 一面に たしかに知っていた 色の滲みあい うつくしいもの きれいなこと と…
あたらしい春 230501 つきさすような西日に、ほを止める この光はいま、わたしの横顔をふちどって ろうかの先のかいだんに、はたと腰をおろす そよ風…
川面 20211006 川面に一番近い場所で 寝袋を広げ…
Ⅰ 20210930 メタセコイヤの並木道が ずっと遠くまで続いている この季節まで知らなかった 秋の…
ゆうぐれ羽虫 20210928 わあ すごい すごいよ と ゆびさしたそのさき こぼれおちては にじみゆ…
カモヘラシカ 20210812 ヘラジカの角が五歳の弟よりも重たいと知ったとき、彼は心底驚いたように笑っていた ヘラジカと衝突して…
月あかり 220403 かみさまを拾った 夜の底 溶けてゆく 日々のてのひら 掴みあぐねて…
かっぱぼうずはそうっと、ちいさいぼうやの腕をつかみました。そうしてさっと、引き寄せました。かすかな水しぶきとともに、ぼうやは小池に落ちました。 かっぱぼうず…
2023年10月17日 00:58
きつい階段だった。ひどく長くて、傾斜が急で、一段上るごとに息が切れた。夕やみの中、隣を歩くきょうだいの輪郭はぼやけ、ほとんど影に近い。周りのものすべては夕やみと同じ色で、自分の存在すらも定かではなかった。「後ろを振り向いたらねえ、影が襲ってきて、食べられちゃうよ」「登りきるまで、絶対に振り向いちゃだめだよ」 姉と私は、二人の間に手をつながれた弟をからかいながら歩いた。そうしていないと、自分
2023年12月23日 01:51
20231223目がよく見えなくなる夢を見た書き留めようと思ったけれど、忘れてしまった見知らぬ街の市場でわたし、見たことない魚の死骸を鷲掴にし、その死んだ目に釘付けだったぬめぬめした表皮の感触に、お酒に酔うさまさえ知らないわたしは、狼狽え、恐怖し、吐き気をおぼえたそれからは嘔吐ばかりだあのぬめぬめした感触が、うそいつわりのないわたしの原風景をすらあの魚のあの肌の感触へ変容さ
2023年10月31日 18:55
音 20231031久しぶりにイヤホンを外して歩くと、街の音が聞こえる 街の音が聞こえると、安心する生きているってかんじがする足音と、呼吸音話し声、誰かの咳と、擦れ合う服の音クラクション、戸の軋み、踏切の音、その反響川辺でわたしは腰をおろす久しぶりに、詩を書いたペンとノートを取り
2023年9月13日 03:00
白昼夢 2022.9.23もろい もろい 指先で空に 描いた 白い月どうして消えないんだろう?どうしてかがやくんだろう?聞こえない ふりをして手放した夢の声起きられない ふりをしてしがみつく夢の端もう耐えられない とつぶやいたらその声が私に はりついた目をそむけたんだどうしてだろうなくしものよごれて にごって 虹をま
2023年9月13日 02:58
透過 2022.8.22 すごくきれいな、日々だった。そんな印象を残して、景色は途切れた。ぷっつりと。そう、ぷっつりと。終わり、はじまっていくことの意味を、ただ、問うように。この春に見た桜の光景を、私はいつまでも忘れないのだと思う。私の中で確かに、ひ
2023年9月13日 02:56
かなたの丘に 2022.5.21夜の丘のふもと。女の子は、つぶやいていました。星の、こぼれおちそうにまばゆい光を、ゆるやかな鼻すじのてっぺんにとまらせ、夜よりも黒い両目の内を、星のかなたの深みへ投げて。「まだ、まだ、まだ...」夜の丘の中腹。少女はそっと、呼んでいました。町の屋根から、扉から、こぼれ、ゆらめき、にじんでいく、さみしい声を、あの家の
2023年9月13日 02:54
夜明けごろ (~2023.9.12)線を引くことで世界をつくりだしああこれが世界なんだなと、認識するそんな夜明けごろ朝の光は立ちあがり、街の境をふりきったぶらんこがあっち側の空へゆれ、ゆれ、ぶらんこがこっちがわの空から駆け、駆け、弧を運ぶ軋みの音に手をかざし、こぼれ、漏れていく指先の光に朝が、静かに集まってああここが
2023年9月5日 18:04
2023.5.21うつくしいものに触れることのあまりのうつくしさに身動きが取れなくなってしまったあのときの私は山なみのむこうしらみゆく空のかなたを見つめながらいつまでもあなたの腕のなかこのあたたかいやさしさのなかでとどまっていたいと願っていたいつか終わる終わってしまうことをわかっていたからほのかにただよう桃色のなかでじっと
2023年9月5日 17:47
川記憶の底で 川は命の比喩だった螺旋階段 川の源流揺れるキバナコスモス川辺の道の 一面にたしかに知っていた 色の滲みあいうつくしいもの きれいなこと とうめいなものごとことばに汚される以前のこの川の源流うつくしいもの 切実な記憶子どもの頃を思い出して 肌に触れる空気とうめいなもの 薄い綿布乳臭い弟のおなか誰もいない寝室 そっと抱き上げたまだ首も座っていなかったのに
2023年9月5日 17:29
あたらしい春 230501つきさすような西日に、ほを止めるこの光はいま、わたしの横顔をふちどってろうかの先のかいだんに、はたと腰をおろすそよ風がまどべをかたどって春めいたろうか、ひやりとしたゆかにまどぶちの影、つくり出す光となってつとおちたがくぶちみたいなまどの影手を伸ばして、そっと触れたら線はほころび、とびちったろうかの向こうで、あたらしい声あ
2023年9月5日 17:17
川面 20211006 川面に一番近い場所で寝袋を広げたノスタルジーについて議論しながら「もっと実感したい。もっと実感しないと。ここに、今川面を見上げて、朝日を眺めているということ。」カメラを構える人がいるとすべてが詩情を醸すのはとても不思議できれいな心の現れでした
2023年9月5日 17:08
Ⅰ 20210930 メタセコイヤの並木道が ずっと遠くまで続いている この季節まで知らなかった秋の空があんなに高く輝くだなんて 冬になれば忘れてしまうわかったうえで 心から驚く 春になっても 夏になっても並木道は続いているいつかは驚くんだろうなとわかりながらやっぱり僕は忘れていく そしてどんどん秋
2023年9月5日 16:51
ゆうぐれ羽虫 20210928 わあ すごいすごいよ と ゆびさしたそのさきこぼれおちては にじみゆくそらにてりはえる きんいろの やまやま しずんでいく しずんでいく さざめいては きえて かわしあうこえのようにたとえば あそこ 羽虫たちがおどっている ああ みごとみごとだったねえ と
2023年9月5日 16:44
カモヘラシカ 20210812 ヘラジカの角が五歳の弟よりも重たいと知ったとき、彼は心底驚いたように笑っていたヘラジカと衝突してアメリカでは年間二五〇人が死ぬんだって聞いたとき、彼は確かにそんなこともあるかもねといって笑っていた一三年前、虫眼鏡で星を眺めようと家を飛び出した彼は、八年後にカモシカを轢いて死んだ自分が轢いたのがヘラジカじゃなくてカモ
2023年9月5日 16:36
月あかり 220403 かみさまを拾った 夜の底溶けてゆく日々のてのひら 掴みあぐねてかみさま あなたを拾ったの月のかけらが眩しいな日々も昨日も滲んでる今日も今夜も揺れている溶けてゆく 日々の線知りたくないことばっかりで知れなくなることばっかりでかみさま そろえた指先は夜更けに線をかくけれど
2023年9月5日 16:30
かっぱぼうずはそうっと、ちいさいぼうやの腕をつかみました。そうしてさっと、引き寄せました。かすかな水しぶきとともに、ぼうやは小池に落ちました。 かっぱぼうずは、舌なめずりをしました。「むむう。むむう。」声をあげ、小池のまん中を目指します。ひさしく味わうよろこびが、胸のそこで渦巻いています。 ちいさいぼうやは、かっぱぼうずに手を引かれ、はじめての景色を泳ぎました。おかしな色の景色でした。みな