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記憶の底で 川は命の比喩だった
螺旋階段 川の源流
揺れるキバナコスモス
川辺の道の 一面に

たしかに知っていた 色の滲みあい
うつくしいもの きれいなこと とうめいなものごと
ことばに汚される以前の
この川の源流

うつくしいもの 切実な記憶
子どもの頃を思い出して 肌に触れる空気
とうめいなもの 薄い綿布
乳臭い弟のおなか
誰もいない寝室 そっと抱き上げた
まだ首も座っていなかったのにね
あの時落とさなくて本当に良かった

夢を見た 命の比喩の夢
本当にうつくしいものが、そこにあったんだ

思い出すんだ 光のにおい
川面に揺れるキバナコスモス
一番近くで笑っていた口元 歌っていた身体
私が生まれ落ちた 全くのはじめから
たった一人 そばにいた子ども
うつくしく 全身で 伸びやかに 晴れやかに

真似をした 追いつくために
横断歩道は白線を歩く
車のナンバーはすべて足し算
道路の敷石は踏み外しちゃだめだ
必ず歌を歌うこと
疲れたら 道を外れて歩くといいよ

聞き慣れた歌声のしない時間なんて、私は知らない
流れないで!お願い!流れないで

螺旋階段 この川の源流
キバナコスモス 逃げ場がなかった
つきっぱなしの電灯 半開きのドア
掠れ切ったマスク カフェイン剤
トートバックと トラロープ
山吹色に 暮れた空
真夜中のマクドナルド 卑猥な話をする人々
トラックが風を巻き起こし ガードレールに私はつかまる

流れないでと願っても
流れて、流れて、私は流れて
それでも生きなきゃいけなかった
川沿いの道を一面の花を 泣きながら
うつくしく 歌いあげて

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