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短編

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夕やみ

夕やみ

 きつい階段だった。ひどく長くて、傾斜が急で、一段上るごとに息が切れた。夕やみの中、隣を歩くきょうだいの輪郭はぼやけ、ほとんど影に近い。周りのものすべては夕やみと同じ色で、自分の存在すらも定かではなかった。
「後ろを振り向いたらねえ、影が襲ってきて、食べられちゃうよ」
「登りきるまで、絶対に振り向いちゃだめだよ」
 姉と私は、二人の間に手をつながれた弟をからかいながら歩いた。そうしていないと、自分

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『お花柄の恐竜』

『お花柄の恐竜』

「この街のね、ずうっと西の先に行ったら、お花でできた街があるんだ。ずうっと西日が射しててね、それはきれいな、金色の街。それで、お日様が沈まないと、お花は眠らないでしょ?だから、その街はね、ずうっと起きてるの。」 
 私、「へえ!」と思ってリョウちゃんを見た。リョウちゃんは、ほっぺたをパッと輝かせた。そして言った。
「ほんとうを言うとね、リョウちゃんの恐竜は、たまごのとき、そこからやってきたんだよ。

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『まわりもの』

『まわりもの』

悲鳴のように空が鳴く。下方から吹く風が、身体に当たって砕け散る。目をあげると、視界が紅い。眩しいくらい紅い。
夕焼けが来たのだ。赤すぎる夕焼け。
「明日は春分だね」と昨日、誰かが言っていた。そういうことを思い出す。思い出してマヤは、足を踏み出す。
だけど、のぼれない。
階段なんかじゃないこれは輪っかなんだと気付いた時突然、足元がぐるぐる、まわり始める。手が足になりたがる。足が指先になりたがる。ぐる

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『晴天の街』

『晴天の街』

 かっぱの肉を出す店があった。真偽はわからない。
 名無し少年は、この店がきらいだった。
 名無し少年は街の隅にあった小さな池が埋め立てられ、この店が出来上がった時のことを、よく覚えていた。真っ白い外壁、適度に磨かれた窓、手入れの行き届いた花壇、真っ赤に乗っかかる三角屋根も。幼かった少年の目には、可笑しいくらいに焼き付いていた。
 名無し少年はこの年、春から街を歩いていた。他の少年たちも同じように

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『かっぱぼとキュウタの話』

『かっぱぼとキュウタの話』

 かっぱぼうずはそうっと、ちいさいぼうやの腕をつかみました。そうしてさっと、引き寄せました。かすかな水しぶきとともに、ぼうやは小池に落ちました。
 かっぱぼうずは、舌なめずりをしました。
「むむう。むむう。」声をあげ、小池のまん中を目指します。ひさしく味わうよろこびが、胸のそこで渦巻いています。
 ちいさいぼうやは、かっぱぼうずに手を引かれ、はじめての景色を泳ぎました。おかしな色の景色でした。みな

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