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私のもう一つの世界-パラレル
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小説(ショート・ショート)「きいきい」

小説(ショート・ショート)「きいきい」

ただ、ひたすらに大切な何かを探す話を、書いてみたかったのです。

何か、感じるものがあれば、コメントも待っています。
物語の世界を覗いてやってください。

小説「夢で会いましょう。」(完全版)

小説「夢で会いましょう。」(完全版)

       夢で会いましょう。



お雑煮の匂いが、部屋中に立ちこめた。昔ながらの匂い。食欲をそそる匂い。優しい母の匂い。幼くして母を亡くした俺にはよく分からなかったが、母の存在をいくぶん洋子に重ねていた。お雑煮なんか母は作ってくれる人物だったかどうかは分からない。だがいつも、愛情を込めて洋子は俺に作ってくれた。
「できるよ。そろそろ」いつもの彼女の声が消え

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小説「夢で会いましょう。」第一週

小説「夢で会いましょう。」第一週

夢で会いましょう。
果肉星叙 著



お雑煮の匂いが、部屋中に立ちこめた。昔ながらの匂い。食欲をそそる匂い。優しい母の匂い。幼くして母を亡くした俺にはよく分からなかったが、母の存在をいくぶん洋子に重ねていた。お雑煮なんか母は作ってくれる人物だったかどうかは分からない。だがいつも、愛情を込めて洋子は俺に作ってくれた。

「できるよ。そろそろ」いつもの彼女の声が消えてしまう気がした。そんな事をよく

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ショート・ショート「Avan Club」①

ショート・ショート「Avan Club」①

ないかい?こんな出会いは。
何時も通っているはずの所が、急に素晴らしく見えてくる出会い。アバン・クラブ。そこで私の人生は変わった。
ポスターの張り紙は、賑やかなネオンの繁華街から少し路地裏に入った、10mほど先の寂れた脇道にあった。
アバンクラブという深い暗闇に包まれた静寂の店が、潜んでいる。

シャッターは降りている。どこから入るのか、でもポスター通りすでに開店時間だ。20:30。暗くて、外観は

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短編小説「Donuts Boy?」part1

私はラクーン警察署に勤める何の変哲もない警察官レヴィット・ルーシーだ。その晩は、警察署のトイレで奇妙な男の子に出会うことになる。

何の前触れも無く、私の目の前に現れた少年。 奇妙な少年。

 1

闇は私を包容する。最近ラクーンは忙しい。慌ただしい。警察の仕事はまるで迷宮だ。やってもやっても罪人たちが目の前に現れる。だがそれもいい。罪人には罪を名付ければいい。それだけのことだ。情けは人の為

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連載小説『ロックバンド・バラード』②

2021年5月21日、こちらの暑い地域で雨が降った。記録的な猛暑での、雨。モーテルのベッドで、TOMよりもイケメンではない、しかし素敵な性格の男性と、私は寝ていた。TOM率いるロックバンドCUBE BEARと出会う約2年前、だった。
最初の事件は、この1年後に起こる。私が『DYLAN』と出会う時にそれはもう起きていたのだろう。DYLANはとても優しかった。

--私の体に生きる潮の満ち引きも、勝て

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連載小説『ロックバンド・バラード』①

ロックバンドのツアーに参加した。
私が髪の長いその男に恋をしたのは、2ヶ月ほど前だった。マイクを手に、自分を表現する様は、私にとって天使だった。男だが、白いドレスが似合うほど、キュートな天使が私の目には映っていたのだ。
人は生まれた時から、透明人間だ。そんな役割を負っている。
『CUBE BEAR』と名付けられた彼のバンドは、混沌とした時代にねじ込まれたテディベア(良い言い方をすれば)なのだろう。

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ショート・ショート(小説)「MOON」

ショート・ショート(小説)「MOON」

二人にとって、浴槽は小さすぎたね。ブランコに乗るみたく、妙なバランスで少年少女はセックスをした。まるで人間じゃないみたい。今だけは、人魚伝説の人魚になったみたい。そう、そうじゃないなら、立派な花瓶の花。サンフラワーたち。魔法使いたちは、死んだ。105号室のおじさんも死んだ。太陽だけが、良い顔して笑顔。そんな世界で生きたいと思うかい?ジェニファー。分からない君の気持ちは。覚えたてのセックスは、全然良

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短編小説「ジェニーは幽霊」②(全⑤話予定

短編小説「ジェニーは幽霊」②(全⑤話予定

バーボンの匂いが鼻につく。甘い蜂蜜の匂いは、この娯楽室には残っていない。なんという事だ!ミアとは、先月別れたばかりだが、あの日記帳だけは、見ておきたいのだ。ミア。
喋れもしない化け物が、何百箇所も蜂に刺され、なお生きてるジェニーは俺の向かいにいる。お口チャックな神様はどれだけ俺を、困らせる?もううんざりだ!!
「早く鍵を渡せ」俺は怒っていた。
「ミアと関係を持ってるのは、いいとしてまだお前からあの

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短編小説「ジェニーは幽霊」①

短編小説「ジェニーは幽霊」①

 ジェニーの顔は腫れていた。おかしなほどに腫れていた。ぐちゃぐちゃに腫れていた。
『ジェニーよしてくれよ』やつはなんてコメディアンだろう?こんな可笑しな顔を晒してまで、俺に一体なんのようだ?俺は早くトイレにいきたいんだ。そしてアレを持って、此の腐った町を脱出したい。
『ジェニーよしてくれよ』また言ってみる。
 寄宿舎の娯楽室。ビリヤード台や、ウィスキーのボトルが常備された最高の娯楽室。だがここにい

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