連載小説『ロックバンド・バラード』②

2021年5月21日、こちらの暑い地域で雨が降った。記録的な猛暑での、雨。モーテルのベッドで、TOMよりもイケメンではない、しかし素敵な性格の男性と、私は寝ていた。TOM率いるロックバンドCUBE BEARと出会う約2年前、だった。
最初の事件は、この1年後に起こる。私が『DYLAN』と出会う時にそれはもう起きていたのだろう。DYLANはとても優しかった。

--私の体に生きる潮の満ち引きも、勝てなかった快楽も、赤い夕焼けもみんなあなたが教えてくれた。
これは、CUBE BEAR『TRY AGAIN』の名曲の一節だ。
DYLANとのベッドタイムで知った私の熱い想いを、歌詞にしたものをこの一年後、TOMが歌にしてくれたのだ。純粋に嬉しかった。嬉しかった。

『もう少し、こうさせて』
私が、DYLANに告げる。耳元の近くで。記憶に刻むよう。少しでも側にいられるよう。だけど、DYLANはすぐにどこかに行ってしまうような男だった。優しいが、そこが玉にキズだった。
単純なロマンスの時間が私には唯一の、人生の楽しみだったのに。
『ごめんな。もう行かなくちゃ』
ベッドに転がるコンドームがやけに切なかった。胸がギシギシと明日の方へ苦しみ出す。もう逃げ出したい。
『私の方こそ、ごめんねこんな』
『え?』
『いや、なんでもない。……ただ、今日はありがと』
沈黙に流れたその時間が、時間だけが私達の全てだった。

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