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【感想】【レビュー】ノースマン導かれし復讐者【怪作】

個人的に2022年TOP3に選ぶほど良かった映画です!

後半からネタバレ感想になります。

原題:The Northman
仕様:アメリカ映画、137分
監督:ロバート・エガース
脚本:ショーン・シドルグソン、ロバート・エガース
配給:フォーカス(米国)、ユニバーサル(世界)
予算:7,000〜9,000万ドル
売上:6,963万ドル
米国公開日:2022年4月22日
日本公開日:2023年1月20日
日本配給:パルコ
レーティング:PG12(*海外ではR15以上が多数派)

▼この映画の魅力:

まずは監督が天才ロバート・エガースです。過去の長編映画は『ウィッチ』と『ライトハウス』です。これだけで映画館で観る価値があるってもんです。ビジュアルで独特な世界観を構築できる人なので、暗闇にスクリーンで観覧すれば異性界へのトリップを体験できるでしょう。

王になるはずだった男は、奴隷になり、復讐を誓った…
「父上の仇を討つ!」
「母上を救い出す!」
「裏切り者を殺す!」
「あなたは敵の骨を砕き、私は敵の心を打ち砕く」
「運命を逃れることはできない」

日本版予告編より引用。

予告編でも語られていますが、自分の命を犠牲にしてでも復讐する覚悟はあるのか、という血が煮えたぎる熱い物語です。

何よりもビジュアルが素晴らしいです。俳優、ロケーション、大道具、小道具、衣装、撮影方法、どれも素晴らしいです。私は予告編を見た瞬間からビビッと来ていたのですが、まず冒頭が『コナン・ザ・グレート』なんですよ。この時点で「絶対に見る映画」に決定です。(早い)

それでいて要所に「このジャンルでは珍しい表現」が何度も顔を出し、心理的にえぐいトラウマ的な呪術シーンや、ラストバトルは思わぬ舞台とファッションで繰り広げられるなど、見ていて楽しいものになっています。

そして俳優陣の顔ぶれも超豪華です。主役のアレクサンダー・スカルスガルドとアニャ・テイラー=ジョイも勿論素晴らしいのですが、脇役にイーサン・ホーク、ニコール・キッドマン、ウィレム・デフォー、ビョークという脳みそバグるレベルで超メジャー級のビッグネームが連なります。これで楽しくならない理由がありません。

https://northman-movie.jp

『ターザンREBORN』でも見せてくれた高身長で鍛えられたアレクサンダー・スカルスガルドの肉体も、オールヌードを披露するアニャ・テイラー=ジョイも必見です。未成年への教育的配慮などどこ吹く風。そういう原始的な視覚的娯楽を湛えた良作です。

物語はシェイクスピアの『ハムレット』の原型になったと言われる北欧の伝承(アムレート)で、シンプルな復讐劇ですが、戦闘シーンが超ハードボイルドで非常に残酷なのと、映画『ミッドサマー』を想起させる北欧特有の不気味でグロくて気持ち悪い宗教描写が相まって、とてもユニークな映画になっています。エガース監督の過去作『ウィッチ』をご覧になったことがある方なら雰囲気をイメージしやすいでしょう。

エガース監督をご存知なら想像つくかと思いますが、暴力やゴア描写はかなり強めです。殴られて血が噴き出たり、歯が折れたり、頭蓋が陥没したり、傷口に手を突っ込んだり、体を八つ裂きにしたり。夜中にキャンプファイヤーで数十人の男女が裸で舞い踊るシーンも出てきます。日本ではPG12指定ですが海外ではR指定(中学生鑑賞不可)の国が多いです。

音楽も素晴らしいです。どんな楽器を使っているのか想像もできない、おそらく民族楽器と思われるヘンテコな音のオンパレードです。これが最高に不気味で、異国情緒があって、映画の世界観を実現しています。

脚本はアイスランドの詩人ショーン(Sjón)が担当(監督との共同執筆)しています。彼は1970代末から詩人・小説家として活動を始め、90年代からビョークの歌詞を多く手掛け、近年では映画脚本の仕事も始めました。直近では『LAMB』の脚本も彼です。また『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の挿入歌も彼の手によるものです。こう見ると、ノースマンが湛える北欧の陰鬱さは彼の貢献が大きそうです。

アメリカでは公開直後から批評家を中心に大絶賛されましたが、残念ながら興行収入では黒字にならなかったそうです。しかしそれは裏を返せば、しっかりと予算をかけてクオリティに拘った映画であることの証拠でもあります。世界興収は6,900万ドル(約95億円)なのでテーマや暗さやレーティングを考慮すればかなり善戦した方だと思います。何度も言いますがビジュアルが最高の映画なので、可能であれば映画館での観覧を推奨します。

賞レースも結構多数ノミネートされていますね

▼ネタバレ感想:

ここから先はネタバレ感想となり物語の核心や、結末に言及します。未視聴の方はブラウザバックして、いますぐ映画館に行かれることを推奨します!

#ネタバレ  #ネタバレ #ネタバレ

●あらすじ:

フラフゼイの位置:https://mapcarta.com/17605754/Map

第一幕:
 西暦895年。アイスランド東沿岸のフラフゼイHrafnseyにあるヴァイキングの小国の王子である少年アムレートは、遠征で深傷を負った父オーヴァンディルに連れられて夜通しの成人の儀式を執り行い正式な王位継承者となる。しかしまさにその翌朝に王の弟フィヨルニルが革命を起こし、アムレートの眼前で王を斬首して、王妃グートルンを略奪する。アムレートは追手を振り切って小さな手漕ぎボートで海へと逃げ出し、父の復讐、母の救出、そして叔父の殺害を誓う。
 数年後、屈強な大男に成長したアムレートはビョルノーフル熊狼ベアウルフ)と名乗り、西ロシア(キエフ大公国)で傭兵バーサーカーとして貧しく下賤に暮らしていたが、略奪した村のスヴェントヴィト祠で出会った女預言者から最高神オーディンの御心として、王の誇りを取り戻しフィヨルニルの殺害を果たすこと、雌キツネが運命の剣へと導くこと、そして自身の命の終わりは「新たなる女王」の旅の始まりになることを告げられる。
 翌朝、奇妙なカラスに父の面影を見たアムレートは髪を切り、自身に奴隷の焼印をつけて奴隷商人の船に潜入する。フィヨルニルは今ではノルウェー王ハラルドに征服されて国を失いアイスランドの辺境で羊飼いの集団を率いているらしい。船の中でアムレートは古代言語で呪文を唱える美しいスラブ女のオルガを見つける。オルガは一瞥してアムレートが偽りの奴隷であることを見抜き二人は意気投合する。預言者が告げた新たなる女王とは彼女のことなのか。
第二幕:
 長旅の末にオルガと共にどうにかフィヨルニルの牧場に雇われたアムレートは真面目に働きつつ情報を集めて復讐の機会を探る。グートルンが今ではフィヨルニルの妻になり息子ガンナルも生まれていたことを知り落胆するアムレートをオルガは励ます。
 ある夜、アムレートは雌ギツネに導かれて洞窟の呪術師he-witchに会う。呪術師は当時同じくフィヨルニルに殺された道化師ヘイミルの髑髏を保管しており、召喚されたヘイミルの霊魂がアムレートに地獄の門で作られた魔法の剣ドラウグルを入手せよと告げる。
 そして満月の夜に、呪術師から譲り受けたロープを用いて墳丘墓(古墳)に侵入したアムレートは鎮守する死霊の騎士を倒し、牧場にドラウグルを持ち帰り、更に時を待つ。復讐は定めに従って地獄の門で執行しなければならない。
 翌日、クナットル(旧式のクリケットのような究極に野蛮なスポーツ;ボールで点を競うのは口実で、事実上は奴隷同士を乱闘させる貴族の遊び)のチームメンバーに選抜されたアムレートは、試合に興奮してフィールドに入ってしまったガンナルを相手チームの暴行から救う。憎き叔父と愛する母の息子を救ったことにどんな感情を持てば良いのか分からないアムレートだったが、この活躍のおかげでフィヨルニルの信頼と妻を娶る権利を与えられて、その夜の宴でアムレートはオルガと結ばれる。オルガは森でマジックマッシュルームを集めていた。
 次の日の夜、アムレートは手始めに護衛を2人殺して体をバラバラに刻んで馬に見立てて茅葺屋根に張り付ける。
 翌朝、おぞましい光景に牧場は恐怖に落ちる。フィヨルニルの連れ子でアムレートの従兄弟にあたるソーリルはキリスト教徒の仕業かと疑う。奴らは神を磔にする野蛮な宗教だと。その日の夜にアムレートは更に1人殺して死体の腸を引き摺り出して神棚に吊るす。
 翌日、いよいよ復讐計画の本丸に乗り出す。オルガが幻覚キノコを鍋に仕込んで、夜に全員がラリった混沌を作り出して、アムレートはグートルン(とガンナル)を連れ出すために屋敷に侵入する。しかしそこでアムレートは、グートルンからブリテン王家ではなく奴隷の出身であること、父との間に愛はなかった(父は世継ぎが欲しかっただけ)こと、そして父の暗殺計画の黒幕は自身であることを告白される。女を殺さない主義のアムレートは立ち去るが、怒りのままにソーリルを殺して心臓を持ち出す。
 翌朝、憤怒したフィヨルニルは奴隷を皆殺しにしようとするが、アムレートがソーリルの心臓を交渉材料にしてオルガを逃す。多勢に無勢でアムレートは捕まって一日中拷問を受けるが、夜にソーリルの葬儀の合間にオーヴァンディルのカラスが拷問部屋に忍び込んで縄を解き、オーディンが現れて、ヴァルキリーが空駆ける馬でアムレートを光の門へと持ち逃げる。
第三幕:
 静かな温泉でアムレートは目を覚ます。「此処はヴァルハラなのか」「私はそんな遠くまであなたを運んでいないわ」真夜中に馬を走らせて彼を逃したのはオルガだった。拷問の傷が癒えたアムレートは復讐を諦めてオルガとスコットランド北のオークニー諸島の親戚の下へ逃げることを決心する。
 無事に船に乗り込んだ2人だったが、海上でアムレートはオルガの妊娠に気づき、それは双子の姉弟であると確信する。かつて預言者に告げられた「新たなる女王」とは娘のことだったのだ。そして改めて運命を見つめ直し、このままフィヨルニルの一族を残せば子孫の危険につながると判断したアムレートは、父の形見のメダルをオルガに託し、単身海に飛び込む。
 牧場に舞い戻ったアムレートは奴隷を全員解放し、家臣を全員殺し、グートルンとガンナルも殺す。一歩遅れて殺害現場に到着したフィヨルニルは殺された2人を見てアムレートの本意を察し、地獄の門(ヘクラ山)での決闘をアムレートに申し込む。
 後日、地獄の門でアムレートとフィヨルニルは壮絶な戦いの末に相討ちで倒れる。首を切り落とされたフィヨルニル。心臓を串刺しにされたアムレート。薄れゆく意識の中でアムレートは、妻と子供達の明るい未来を確信して恍惚の表情を浮かべる。再びヴァルキリーが現れてアムレートの体をヴァルハラへと運ぶのであった。

くそ面白い!!!

ややゴア描写がハードに感じるシーンもありますが、10世紀の野蛮な世界観と無骨な物語にマッチしていて、とても良いと思います。

●自分の命よりも王家の繁栄を:

私が一番好きなのは第三幕での、一度は諦めた復讐の運命にアムレートが再び向き合うことを決心する流れですね。それを決意したのが子孫を確信した瞬間だったというのも胸が熱くなります。王家の誇りを守るために、子供に胸を張れる親であるために、敢えて険しい道を選ぶアムレートが格好良すぎます。自分の命を捧げてまで守りたいものがある。演技も音楽も最高でした。そしてそこから最後の戦いまでずっと最高潮を維持します。

我が家系の血だ。俺の血が君の中に流れている。君は王家の血を宿しているんだね。
My family’s blood. My own blood is inside you. You are the well our dynasty will spring from.

言いたくなかったの、この子が安全だと確信できるまでは。
I did not wish you to know until I could trust that our child would be safe.
(ここで音楽がスーッと暗くなる)
もしフィヨルニルが生きていれば、俺達の子は安全にならない。もし奴がこのことを知れば、奴はあらゆる神の名の下に君を追い詰めるだろう。こうしてはいられない。
While Fjolnir lives, our children will never be safe. If he but knew of this, he would hunt you with all the fire of the gods. It cannot wait.

やめて。もう私達には新しい生きる道ができているのよ。
Stop this. There is now a living thread that binds us.
俺は愚かだった。俺は君と一緒に俺の運命から逃げたいと願っていた。俺には見えた、君には双子が宿っている。俺の剣は二人を救うだろう。
I was a fool. I wished to flee with you from my fate. My vision shows me you will have two. And my sword will save them.

でも、あなたは私達と一緒にいかないと。お願い!
But you must come with us. You must!
お告げがあったんだ。俺はどちらかを選ばなくてはならない。親族への慈悲か、敵への憎悪か。そして俺達の前にある希望を俺は見た。俺は両方を選ぶぞ。
It was prophesied that I must choose between kindness for my kin and hate for my enemies. And see what hope we have before us. I choose both.

https://scrapsfromtheloft.com/movies/the-northman-transcript/

現代的な感覚では残された奥さんと子供が大変という見方もできるかもしれませんが、時代考証的にはこのくらいが正しいのでしょう。アムレートは王家出身なので妻子は無事にスコットランドの親族に会えれば経済面で困ることはありません。むしろ戦神と崇められたオーヴァンディルの直径の子孫ということで重宝されるでしょう。対するアムレートは命を犠牲にしてでもちゃんとオーディンの御心に従って復讐を果たすことで、無事にヴァルハラへ行けるので一石二鳥というものです。(裏を返せば現代劇では無理筋な脚本ですし、もう一度裏返せば時代劇だからこそやる意味がある脚本だと言えます)

実は映画の最初に噴火するヘクラ山の映像と一緒に流れる洞窟の呪術師he-witchのモノローグで全て説明済みだった!という演出も良きです。

聞きたまへ、オーディン、全ての神の父よ。いにしえにノルンの神々が定めし人の運命の影を呼び起こしたまへ。ある王子の復讐が地獄の門の鎮めるのを聞きたまへ。ヴァルハラへと導かれし運命の王子である。聞きたまへ。
Hear me, Odinn, All-Father of the gods. Summon the shadows of ages past, when the thread spinning Norns ruled the fates of men. Hear of a prince’s vengeance quenched at the fiery Gates of Hel. A prince destined for Valholl. Hear me.

https://scrapsfromtheloft.com/movies/the-northman-transcript/

●預言者の印象的なセリフ:

1シーンしか出てこないのにビョークのインパクトは強すぎです。

影の中でうろつく我が民を殺めし虐殺者よ。隠れよ。例えお前の兄弟が私の目を盗んだとしても、私にはお前が見える。
Prowl in shadow, slayer of my people. Hide. Even though your brother stole my eyes… I see you.

私には兄弟は居らぬ。
I am no one’s brother.
二度と涙を見せぬ男になるだけでは足りぬぞ、アムレート王子。自らの運命より脱落せし王子。何人にも心を動かされぬ野獣。人々から涙を引き出すケダモノよ。さあ思い出せ、お主が最後に涙を捧げた相手を。思い出せ、間違いを正すという誓いを。思い出せ、オオガラスの王を。思い出せ。思い出せ、それはお前に塩辛い大海を漕ぎ渡って世界の果てに赴かせる理由となる。
It is not enough to be the man that never cries, Prince Amleth. The prince that turned from his fate. A beast that cares for naught. A beast that wrings tears from the eyes of men. Now remember for whom you shed your last teardrop. Remember the oath to right the wrong. Remember the Raven King. Remember. Remember, it contains the salty ocean you must sail upon to the edge of the world.

それは私の血管の中で流れる凍てつく憎悪の川を育てる。(=だから思い出したくない)
It feeds the freezing river of hate that runs in my veins.
運命はお前を北の島へと連れて行くだろう。そこには黒き山の頂から噴き上げる燃えさかる湖がある。
It will take you to an island in the north where there will spring a burning lake, bursting from a black mountain’s peak.

そこで私が父を殺した者を溺れさせる。
There I will drown my father’s killer.
雌ギツネの尾についてゆけ。古代の者の住処に導くであろう、そこでお前はお前の野蛮で冷酷な憤怒に見合う運命の剣を見つけるでろう。
Follow the vixen’s tail to the dwelling of the ancient one to seek the fated sword that matches your brutal rage.

なぜ私の運命をお前が喋るのだ、魔女よ。
Why speak you my fortune, witch?
お前の道が灰になって途切れる時、もう一つの旅が始まる。女王の。
For where your path of ashes ends, another will begin her journey. A maiden king.

もうやめてくれ。
Release me.
お前はノルムが定めた運命から逃れることはできない。さあ行け!
You cannot escape what fate the Norns have spun. Now begone!

https://scrapsfromtheloft.com/movies/the-northman-transcript/

噛み合ってそうで、噛み合ってなくて、噛み合ってる会話(意味不明)がはじめは抵抗してるのにだんだん支配されていくようで最高です。

●道化師の印象的なセリフ:

ヘイミルの死霊の言葉も最高でした。ミイラになっても顔が変わらないわかるウィレム・デフォーがやばいです。(笑)

Hear me. Forged by the deadliest war-smiths ever to crawl from under the great worm’s belly. A sword of the most secretive rare iron, bound with bone of the jotnar. Weightless in its owner’s hand, yet like a dragon’s fang, its bite can never be dulled, never broken nor bent. Its blade could only be quenched in human blood. It is a battle flame like none other. Its name, Draugr.

https://scrapsfromtheloft.com/movies/the-northman-transcript/

●コナン・ザ・グレートな第一幕:

冒頭にも書きましたが、この映画の序盤はアーノルド・シュワルツェネッガーの出世作『コナン・ザ・グレート』にそっくりです。雪の中を騎馬隊が押し寄せる場面も、雪の中で静かにヴィランが歩み寄って兜を脱ぐ仕草も、目の前で肉親が斬首されるカットも、全てがそうです。そしてボートを漕ぐアムレート少年のカットから、そのまま同じアングルでボートを漕ぐ成長したアムレートのカットを繋ぐあたり、予告編作成者は確信犯的に意識しているでしょう。(笑)

『ターザンREBORN』でも見せてくれた高身長でものすごく鍛えられたアレクサンダー・スカルスガルドの肉体も、オールヌードを披露するアニャ・テイラー=ジョイも必見です。未成年への教育的配慮などどこ吹く風。そういう原始的な視覚的娯楽を湛えた良作です。

●宗教色の強い第二幕:

普通の日本人の感覚で見ていると、第二幕のアムレートの行動は少しまどろっこしく見えるかもしれません。彼はフィヨルニルを襲うチャンスが何度もありながらそれを実行しません。しかし、これは全て成人の儀式での誓いとルインに定められし宿命に従うためだからです。

(今殺そうとするなんて)私は愚かだった。預言者には燃える湖で父の仇を討つと言われたではないか。その日が来るまで、私は私の人生を地獄に変えた男を苦しめるのだ。今は眠れ復讐の剣よ。そうだ、私達は復讐に飢えている。しかし運命からは逃れらぬのだ。
I am a fool. It was foretold that I would slay my father’s killer in a burning lake. Till that day comes, I will torment the man who made my life a hell. Now sleep well, night blade. Yes, we thirst for vengeance, but we cannot escape our fate.

https://scrapsfromtheloft.com/movies/the-northman-transcript/

彼は怒りの感情に任せて復讐をしにきたのではなくて、預言者に思い出させられて、自分の運命の予言に従うために復讐に来たのです。感情ではなく、あくまで王家の習わしのために動いているのです。それによって彼と彼の子孫がオーディンの加護を受けることを目指しているのです。

だからこそ、アムレートは外堀から順番に埋めて、フィヨルニルが地獄の門でアムレートと決闘せざるを得ない状況を作っていくのです。

母親は本来は運命には関係なく、アムレート自身は救出したいと考えていましたが、途中で黒幕だと判明したので救出対象ではなくなり、そしてフィヨルニルの禍根と一族を絶やすために息子もろとも殺してしまったという所でしょう。本来は女子供は(自分では)殺めない主義だったアムレートも、オーディンの御心に従う(復讐を完遂する)ために殺します。

このように信仰のために肉親さえ殺すというのが、ハードな時代劇らしくて非常に良いです。人の命を奪ったからこそ、彼は対価として彼自身の命を差し出したとも言えるでしょう。本当に、王家に生まれた人の宿命とは凄まじいものがありますね。(私は現代の平民として生まれて良かったです:笑)

●あの映画そっくりな第三幕:

辿り着いた地獄の門ことヘクラ山の火口付近にて。夜の暗闇で猛烈に燃え上がるマグマと炎。そこに浮かび上がる二人のシルエット。

最後の地獄の門でのバトルは完全に『シスの復讐』でした。

https://padua360.com/opinion/2021/02/11/why-revenge-of-the-sith-is-the-best-star-wars-movie/

しかもなぜか全裸のアムレートとフィヨルニル。何故に?(笑)

日本の国技である相撲では武器を隠し持っていないことを示すために全裸で戦うということになっていますが、同じようなヴァイブスを感じます。

ちなみに武器と盾を持って対峙するのはスカンジナビアに古くから伝わる決闘のスタイルですが、服を脱ぐ風習は無かったようです。

https://en.wikipedia.org/wiki/Holmgang

剣で盾をドラムのように叩きながら古代言語で呪文のように唱えます。

我が一族の血を讃える
我が運命を断ち切る
我が復讐を果たさん
I will honor our blood.
I will cut the thread of Fate.
I will avenge you.

https://scrapsfromtheloft.com/movies/the-northman-transcript/

もう最初から預言に従って死ぬ気満々なんですよねアムレート。こうなったらもう無敵の人じゃないですか。

そして火山の煙の向こうから眼前に現れる裸のフィヨルニヨル。ここで初めて明かされるのですがフィヨルニルの肉体はものすごく鍛え上げられているだけでなく、古い刀傷だらけなんですよね。もう一体いくつの修羅場を、どれだけ壮絶な戦いをこの男は経験してきたんだよと。

実際にSWのアナキンとオビワンと同じく激しいチャンバラを繰り広げ、熊のように屈強なアムレートをあと一歩のところまで追い込みますからね。結局はオーディンの御心に従い「正しき行い」を実践してきたアムレートに神の加護がはたらいて、アムレートは復讐を果たしますけれども。

なんというか、アナキンとオビワンの戦いもこのくらい壮絶に描いてほしかったなあと思ってしまいました。まあ本当にやったらR指定になってしまうのでディズニー的には無理な話ではありますが。私がSWを観ていて物足りないと感じるものをノースマンは持っていましたね。だから大満足です。

●感想まとめ

ここまで語ってきたように、物語・俳優・衣装・小道具・大道具・撮影方法・音楽とあらゆる面でハイクオリティで、感情がメチャクチャにされるパワーを持ったすごい映画なので、なるべく多くの人に観てもらいたいと思う映画でした。

▼余談:

私は去年の夏に一足早く見ました。日本在住の日本人としてはトップクラスに早かったでしょう。アメリカで4Kブルーレイが発売された瞬間に米国アマゾンで購入しましたから。果たして、日本の劇場ではおそらく観ること叶わぬであろうHDR対応の4K解像度という超高画質を自宅で堪能できました。

日本公開までの時差には解決してほしいと願うばかりです。

メイキングなどの特典映像がかなり良いです。演技や撮影面でのエピソードも興味深かったですが。個人的には衣装などは素材や編み方にもこだわり、このままスカンジナビアの博物館に寄贈したいとまで言っていたことに感銘を受けました。

本気の時代劇って良いですよね。

了。

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