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記事さま、ありがとうございます。

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記事を書いてくださったのはnoterさん。noterさんにもありがとうございます。 個人的になんども拝見したい記事さまたちです。
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#短編小説

桜の木の下【短編小説/前編】

桜の木の下【短編小説/前編】

 暗い虚空の中に、微かに桃色を帯びた白い光が浮かぶ。
 光る雲のようなそれを、よくよく見れば、満開の桜だ。重そうな花をびっしりつけた桜の木が並び、そこから花びらが溢れ落ちて、季節外れの雪を、際限なく降らせ続けている。
 光の雪が降りしきる下には大勢の人々が、地面に暗い紅色の敷物を敷いて、その上に座り、賑やかに酒を酌み交わしたり、彩り豊かなご馳走に舌鼓を打ちながら、話をしている。辺りには寛いだ雰囲気

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流星葬【短編小説】

流星葬【短編小説】

 長らく音信不通になっていた父の消息が分かったのは先月のことだ。父は僕が十八歳の時に、僕と母を捨てて女と逃げた。行方をくらまして以来、二十二年が経っていて、霊安室に横たわる老人の遺体を見てもほとんど実感が湧かなかった。

 遺体が発見された時、枕元には僕宛の手紙と、とある葬儀業者のパンフレットが入った封筒があった。手紙が入っていた封筒に書かれている連絡先は僕の現住所で、父がそれを知っていたことに驚

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野手タウンで創作

野手タウンで創作

「5月16日は旅の日かぁ」石田圭はそうつぶやくと、眉間にしわを寄せてため息をつく。ところがそれを見て悲しそうに目に涙を浮かべながら自室に入ったのは、妻のベトナム人ホア。「なによ、旅の日って......」

 最近は567のこともあり、あまり外出をしていないホア。ただそれだけではない。出産の予定が6月と近く、それがより自由を阻害していたのだ。
 そのようなこともあり、自室でネットを徘徊することが増え

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カワセミカヌレ

カワセミカヌレ

オリーブの木。その傍に、お店の看板。看板の横に自転車を停め、学校鞄を提げ、歩き出す。

お店は、芝生の丘の上。入り口まで、白い砂利道が緩やかに曲がって続く。

芝生の緑、コンクリートの建物の明るい灰色。白い坂道。青い空。白い雲。その組み合わせに、つい頬がほころぶ。

ガラス扉の、流木の取手に手をかける。流木取手の上に手のひらぐらいの大きさで、お店の名前が、白文字で懐かしい字体で書いてある。

ベー

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【小説】踏み出したら「おはよう。」が聴こえる

【小説】踏み出したら「おはよう。」が聴こえる

「待って! 行かないで!」

 あの日、そう言っていたら、あなたは今も私の隣にいてくれたのかな?
 この桜の花びらが舞う駅までの道を、今も一緒に歩いていられたのかな?

 毎朝、同じ時間で目が覚める。
 無意識に手を伸ばしたテレビのリモコンは、なんのためらいもなく同じボタンを押した。聴こえてくるテーマソングも、聞こえてくる元気な声も、何も変わらない毎日の始まりを知らせてくれる。

 涙で目覚める毎

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小説|ふたばのクローバー

小説|ふたばのクローバー

 二本のクローバーに、子どもが生まれました。お母さんクローバーも、お父さんクローバーも、この子を必ず幸せにすると誓います。子どものクローバーには、他のクローバーとは違って、葉が二枚しかありませんでした。

 子どものクローバーは、何度も他のクローバーからいじめられました。二枚しか葉っぱがないからです。子どものクローバーは傷つき、悲しみました。「お母さんとお父さんは三つ葉なのに、どうして私だけ双葉な

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