イトグチヤ

奈良・室生にある1日2組限定の古民家宿。 お宿を営む中で出会う景色や、溢れる思考をつづ…

イトグチヤ

奈良・室生にある1日2組限定の古民家宿。 お宿を営む中で出会う景色や、溢れる思考をつづります。

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新しい旅のカタチを模索する

「 自分を大切にする 」 誰もがどこかしらで出会ってきたであろう言葉だが、具体的にどうすればいいかを知っている人は、案外少ないのではないだろうか。 かくゆう私は「…

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漂流

窓の外に薄いピンク色を見つける。 初夏の訪れとともにそれはあっという間に散って、いつの間にか眩しい緑色に変わるから、見返さないと分かっているけど写真に撮りたくな…

イトグチヤ
1か月前
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白昼夢の終わり

油の匂いが漂う。ここは廃校になった小学校。 キャンバスに埋もれた壁と、絵の具が染みついた床。 日当たりの良いこの教室で、わたしはときどき絵画モデルをしている。 特…

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海と 酒器と

海のない奈良で、磯の香り漂うイベントをやります。 島根県隠岐諸島の一つ、知夫里島より直接仕入れた海産物と、 オーナーの偏愛によって集められた酒器とを味わう一夜限…

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擬態する感情

天井にシミができた。 人ふたり覆うほどの大きなシミだ。 イトグチヤが冬休みに入ってからというもの、日々増していく寒さと湿気に負けないようにと、換気と火入れだけは…

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思考の循環

いつだって、花をもらうのは嬉しい。 「あなたのことを大切に思っているよ」と言われているようで、恥ずかしくも暖かな気持ちになる。なるんだけども、パートナーともなる…

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猫になれる宿

「ここは猫になれますね」 縁側から外を眺めていたお客さんに言われたことがある。 彼女が座っていた古い籐のロッキングチェアは、足もとにオレンジの陽だまりができてじん…

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素っ裸で出会う

「印象に残っている素敵な出会いはなんですか」と聞かれると、ちょうど1年前、とある温泉での出来事が思い出される。 道端のススキが揺れ、遠くに香る金木犀に気づく頃、…

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新しい旅のカタチを模索する

新しい旅のカタチを模索する

「 自分を大切にする 」
誰もがどこかしらで出会ってきたであろう言葉だが、具体的にどうすればいいかを知っている人は、案外少ないのではないだろうか。

かくゆう私は「自分を大切にする」という言葉を知るよりも先に、傾聴!カウンセリング!とカウンセラーをしている母の影響で、自分と向き合う機会がたくさんあった。時には怒りや悲しみといった感情の行き先として、新聞をビリビリに破いたり、プラスチックのバットでク

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漂流

漂流

窓の外に薄いピンク色を見つける。
初夏の訪れとともにそれはあっという間に散って、いつの間にか眩しい緑色に変わるから、見返さないと分かっているけど写真に撮りたくなってしまう。

そうしてスマホを取り出すが、カメラを開いたときにはもう既に知らない街が映っていて、次いで駅のホームが流れ込む。
どうやら間に合わなかったようだ。
役割をなくした手を膝に乗せ、ぼうっと車内を眺める。久しぶりの電車。

背中から

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白昼夢の終わり

白昼夢の終わり

油の匂いが漂う。ここは廃校になった小学校。
キャンバスに埋もれた壁と、絵の具が染みついた床。
日当たりの良いこの教室で、わたしはときどき絵画モデルをしている。

特別綺麗だとか、モデルの経験があるとか、そんなことはもちろんなく。ただ「目と鼻と口がついていたらそれでいい」と言われ、「じゃあ」と手伝うことになった。
70歳を超える雇い主は、平凡で数奇な人生の果てにここで絵を描いている。よく喋る物知りだ

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 海と 酒器と

海と 酒器と

海のない奈良で、磯の香り漂うイベントをやります。

島根県隠岐諸島の一つ、知夫里島より直接仕入れた海産物と、
オーナーの偏愛によって集められた酒器とを味わう一夜限りのイベント。

ゴールデンウィークの始まりに、ちょっとディープな体験はいかがですか?

ご案内お申し込みはこちら

物語陸の孤島「室生」と、モノホンの孤島「知夫里島」
今回その2つを結んだのは、たびたびnoteにも登場する弊パートナー。

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擬態する感情

擬態する感情

天井にシミができた。
人ふたり覆うほどの大きなシミだ。

イトグチヤが冬休みに入ってからというもの、日々増していく寒さと湿気に負けないようにと、換気と火入れだけは毎週欠かさず続けてきた。
にもかかわらず、今私の頭の上にはメタモンのような形をした模様が張り付いている。
心なしか天井が紫に見える。

あと、なんだかいつもよりフローリングが冷たい気がする。
視線を落とした先には、これまた大きな水溜り。こ

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思考の循環

思考の循環

いつだって、花をもらうのは嬉しい。
「あなたのことを大切に思っているよ」と言われているようで、恥ずかしくも暖かな気持ちになる。なるんだけども、パートナーともなると、その思いやりだけでは心許ないなと思うことがある。

冬の始まり。ガンガンに焚いたストーブに背中を預け、部屋の隅でぶら下がった花束を眺めている。この花をくれた人とは、地味で終わりのない話をたくさんしてきた。

イトグチヤが12月から冬休み

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猫になれる宿

猫になれる宿

「ここは猫になれますね」
縁側から外を眺めていたお客さんに言われたことがある。
彼女が座っていた古い籐のロッキングチェアは、足もとにオレンジの陽だまりができてじんわり暖かい。いかにも猫の好きそうな場所だった。

こんな時、「猫が好きそうな」とか「猫が居るような」などと言いそうなものだが、彼女は「猫になれる」という表現を選んだ。
私はこれに似た言葉を、ある暗闇で聞いたことがある。

大阪のど真ん中。

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素っ裸で出会う

素っ裸で出会う

「印象に残っている素敵な出会いはなんですか」と聞かれると、ちょうど1年前、とある温泉での出来事が思い出される。

道端のススキが揺れ、遠くに香る金木犀に気づく頃、私は故郷の九州で湯船に浸かっていた。脱衣所と、地面に掘った浴槽だけのシンプルなつくり。一見温泉とは分からないほど集落に馴染む、いわゆる秘湯である。

中は狭く、6人も入れば窮屈になってしまうため、入浴時間は原則1時間。目の前の秘湯にワクワ

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