芳更悠季
馴染みの小料理屋「七分咲き」に集まっていた蒐集団体「早二野(はやにの)」のもとに、謎の荷物が届く。中に収まっていたのは科学の発展した異世界を発祥とした高度な知能を持つ人造人間・久遠の刑部姫(おさかべひめ)だった。その出会いを皮切りに、富岡椛(とみおかもみじ)たちは久遠に関わる騒動に巻き込まれていく。ある男は亡くなった恩師・二条元家(にじょうもといえ)を久遠として復活させようとし、別の男はそれを阻止すべく「早二野」に依頼をする。やがて久遠の二条が起動を始め、椛は意見の違う二人を和解させるべく奔走していく。 「蒐集家、団結する」の続編です。前作を読んでいればより楽しめると思います。フィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。毎週火・木・土曜日に更新予定。
「白紙郷」を名乗る組織により、魔法の栄える国・ライニアの国土が消されていく事件が発生した。「かっこよさ」にこだわる少女・レンは、騒ぎから逃げているだけで良いのか悩む中、友人のリリと共に避難する。消したものを元に戻す道具「虹筆」の存在を知り、それを探しに行くことにしたレンは、やがて「白紙郷」の裏に隠された真実に立ち向かう。 週3回、午後6時に更新予定です。残酷描写があるので、苦手な方はご注意ください。
昔に自分の宝物を取り返してくれた「蒐集家」を名乗る「天使」に憧れ、富岡椛は盗品を元の持ち主へ返すことを繰り返していた。ある日、友人の屋久島真木と共に蒐集をしていた椛は、窮地を蒐集家である端治に救われる。彼に異世界を含めた各地で美術品を盗んでいる「楽土蒐集会」の存在を聞いた椛は、新たに加わった仲間と共に蒐集団体「早二野(はやにの)」を結成する。しかしやがて「楽土蒐集会」が、ある切実な願いのために動いていると知る。 2020年を舞台にした現代ファンタジーです。残虐な描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。月・水・金曜日に更新予定です。
高校に入学した平井清隆は、学校帰りに追われて負傷した女・シャシャテンを助ける。居候となった彼女の故国・瑞香は、かつて日本と交流があった不死鳥の住む国だという。疑いを持ちつつ瑞香と関わるようになった清隆は、やがて隠された陰謀を知ることになる。 全三部構成・各六章の長編ファンタジー小説です。残酷な描写もあるので、苦手な方はご注意ください。
前の話へ 第三章一話へ 第一章一話へ 騒動から一ヵ月半が過ぎたころに、二条元家の久遠は改めて作り直された。彦根の攻撃を受けたとはいえ大きな損害はなかったこと、…
前の話へ 第三章一話へ 第一章一話へ 刑部姫の意図を、椛はなかなか呑み込むことが出来なかった。部品をそのまま使うということは、刑部姫自体はどうなるのか。呆然と…
前の話へ 第三章一話へ 第一章一話へ 右腕を失い、鎖骨周りにも傷を受けていた二条は、それも気にせず悠然と地面に立っていた。彦根と姫路、林を順番に見ていき、全員…
前の話へ 第三章一話へ 第一章一話へ 駅を出て道路を渡っていると、黒い煙が一方向から流れているのが椛にもはっきりと分かった。あれを辿っていけば、久遠研究所へ到…
前の話へ 第三章一話へ 第一章一話へ ここよりずっと先にある久遠研究所へ、走って行くなど無理だ。追い付いた二条に椛は、電車を使うことを勧めた。何も持っていない…
前の話へ 第三章一話へ 第一章一話へ 西日によって深い影の出来た久遠研究所の前で、彦根は所長の到着を待った。鍵は閉ざされており、手袋をした手を固く握り合わせて…
前の話へ 第一章一話へ 年が明けて三日目になり、椛は朝から雑貨屋を開けた。ずっと昔に母が作ったエプロンを着て、二条が椛のいるレジの横で立つ。今日も二条を目当て…
前の話へ 第一章一話へ その男は病室のベッドから身を起こし、広い窓の外をどこともなく眺めていた。規定の入院服から伸びた腕は痩せ、全体的にも細身な印象を受ける。…
前の話へ 第二章一話へ 第一章一話へ 時々人が慌ただしげに通り過ぎる廊下に備えられた長椅子で、深志は座り込んだまま膝に肘を付けていた。両手は硬く組まれ、額を近…
前の話へ 第二章一話へ 第一章一話へ 結局日記から探った二条にゆかりの地を探っても、肝心の久遠は見つからなかった。彦根にも協力してもらったが、相変わらずだとい…
前の話へ 第二章一話へ 第一章一話へ 昼を回ったころ、椛は重くなった買い物袋を抱えて家路を進んでいた。やはり刑部姫が急にいなくなったのは寂しい。少し前なら、こ…
前の話へ 第二章一話へ 第一章一話へ なかなか寝付けなかった夜も過ぎ、姫路は起きてすぐ隣の研究室へ向かった。素早く鍵を開けて奥に声を掛けるが、返事はない。無口…
前の話へ 第二章一話へ 第一章一話へ 『確かに姫路さんの言う通り、職人不足は深刻な問題です。わたしが勤めている博物館でも作品の修復などを行っていますが、これがも…
前の話へ 第二章一話へ 第一章一話へ 何とか姫路と彦根双方に話を付け、椛たちが久遠研究所を訪ねた翌日の夜には、「七分咲き」に彼らが来ることになっていた。カウン…
前の話へ 第二章一話へ 第一章一話へ 完成から二日が経っても、久遠の二条元家は生前と全く異なる様子を見せるだけだった。言葉は理解して話せるようだが、ほとんど会…
2024年6月11日 18:00
前の話へ第三章一話へ第一章一話へ 騒動から一ヵ月半が過ぎたころに、二条元家の久遠は改めて作り直された。彦根の攻撃を受けたとはいえ大きな損害はなかったこと、刑部姫が身を賭して部品を提供したことなどから、予定より順調に事は進んだ。久遠研究所は元の場所で再建を進めている間、仮の施設を利用している。狭いので大量製造は出来ないが、むしろ久遠の一体一体へじっくり向き合えると多くの職員たちは語ってい
2024年6月8日 18:00
前の話へ第三章一話へ第一章一話へ 刑部姫の意図を、椛はなかなか呑み込むことが出来なかった。部品をそのまま使うということは、刑部姫自体はどうなるのか。呆然としている間に、真木が久遠を問い詰める。「二条さんを椛のもとへ行くよう勧めたのは、あなたですね? それに国蒐構とも関わりを持っていたとは、どういうことですか?」「そうですね、最初の疑問については――わたしは、『父』の語る久遠論に、納
2024年6月6日 18:00
前の話へ第三章一話へ第一章一話へ 右腕を失い、鎖骨周りにも傷を受けていた二条は、それも気にせず悠然と地面に立っていた。彦根と姫路、林を順番に見ていき、全員へ頭を下げる。その姿勢が右へ傾き、倒れそうになるも持ち直される。「みんなを混乱させて、本当にすまなかった。わたしのせいで、ここまで苦しめてしまったね。姫路くん、あの話は戯れ事だと思って、忘れてくれないかな?」 創造主に向けて、久遠
2024年6月4日 18:00
前の話へ第三章一話へ第一章一話へ 駅を出て道路を渡っていると、黒い煙が一方向から流れているのが椛にもはっきりと分かった。あれを辿っていけば、久遠研究所へ到着できるに違いない。空を見上げてどよめく人々を脇目に、椛は店の並ぶ道で足を進めていく。そして不意に、後ろから袖を掴まれた。「あいつら、久遠研究所のやつらじゃないか?」 白神が指差すのは、道の一つ先の角で固まる人々の姿だった。その中
2024年6月1日 18:00
前の話へ第三章一話へ第一章一話へ ここよりずっと先にある久遠研究所へ、走って行くなど無理だ。追い付いた二条に椛は、電車を使うことを勧めた。何も持っていない久遠へ切符を買ってやる間に、白神が「早二野」の残る仲間へ連絡を入れた。二人も研究所の最寄り駅で合流することになるそうだ。 電車の中でも、二条はずっと人の名を小声で呟き続けていた。隣に立つその肩をそっと叩き、椛は根拠さえなく励ます。
2024年5月30日 18:00
前の話へ第三章一話へ第一章一話へ 西日によって深い影の出来た久遠研究所の前で、彦根は所長の到着を待った。鍵は閉ざされており、手袋をした手を固く握り合わせて彦根は息をつく。自分がこうして呼び出される謂れはないはずだ。深志も今日が久遠の捜索を打ち切る日だと知っているだろうに、なぜわざわざ対面で話そうとするのか。あの人はどんな連絡や叱責でも、人と会わずに済ませることが好きだと思っていたのだが
2024年5月28日 18:00
前の話へ第一章一話へ 年が明けて三日目になり、椛は朝から雑貨屋を開けた。ずっと昔に母が作ったエプロンを着て、二条が椛のいるレジの横で立つ。今日も二条を目当てにして訪れる客がいるだろうか。もちろん客が増えるのは嬉しいが、同時になぜか悔しさを覚えて、椛は横目でちらりと久遠を見た。 二条は相変わらず、スムーズに作業をしている。客の質問には丁寧に答え、レジを操作する動きも速かった。そして購入者か
2024年5月23日 18:04
毎週火・木・土曜日に更新している『蒐集家、久遠に出会う』ですが、5月25日土曜日の分は諸事情により休みとさせていただきます。28日火曜日から、またいつも通り連載を続ける予定です。
2024年5月23日 18:00
前の話へ第一章一話へ その男は病室のベッドから身を起こし、広い窓の外をどこともなく眺めていた。規定の入院服から伸びた腕は痩せ、全体的にも細身な印象を受ける。一度目の闘病を経て健康にはかなり気を遣っていたという彼も、再びの病魔から逃れられなかった。「姫路君は、元気にしている?」 事前に言わず訪ねてきたことも驚かず、二条元家は笑って問い掛ける。創造主の留守中に黙ってこの病院へ侵入した刑部姫
2024年5月21日 18:00
前の話へ第二章一話へ第一章一話へ 時々人が慌ただしげに通り過ぎる廊下に備えられた長椅子で、深志は座り込んだまま膝に肘を付けていた。両手は硬く組まれ、額を近付けて深く俯く。ここで待つよう言われてから、時間がひどく長く経っているような気がする。心臓の騒ぎは収まらず、今にも喉から出てきそうだった。「その動きは祈りだね、深志さん。君の生まれた世界では存在しない文化だと聞いたけど」 隣にいた
2024年5月18日 18:00
前の話へ第二章一話へ第一章一話へ 結局日記から探った二条にゆかりの地を探っても、肝心の久遠は見つからなかった。彦根にも協力してもらったが、相変わらずだという。『ここまで手間を掛けさせてくれるなんて、どう責任を取るんだ? 姫路』 彦根に電話で責められても、姫路はそれへ対応する気になれなかった。自宅の奥にある窓から暗くなっていく空を眺め、ただ日記の記述に思考を巡らせる。あれに書かれてい
2024年5月16日 18:00
前の話へ第二章一話へ第一章一話へ 昼を回ったころ、椛は重くなった買い物袋を抱えて家路を進んでいた。やはり刑部姫が急にいなくなったのは寂しい。少し前なら、こんな荷物運びなど任せておけたのに。また誰かが家の手伝いをしてくれないか思って息をつき、通りすがりの公園にあった時計が目に入る。 今ごろは昨夜の約束通り、姫路と彦根が会ってちゃんと仲直りを果たしているだろうか。そういえば久遠の二条を渡
2024年5月14日 18:00
前の話へ第二章一話へ第一章一話へ なかなか寝付けなかった夜も過ぎ、姫路は起きてすぐ隣の研究室へ向かった。素早く鍵を開けて奥に声を掛けるが、返事はない。無口な久遠もついにここまで来たかとわずかに顔をしかめ、靴を脱いで部屋の中を進む。だがどこにも、二条の姿はなかった。 慌てて自分の生活圏にもいなかったか探るべく引き返したが、結果は同じだった。台所で作業をしていた刑部姫に尋ねても、知らない
2024年5月11日 18:00
前の話へ第二章一話へ第一章一話へ『確かに姫路さんの言う通り、職人不足は深刻な問題です。わたしが勤めている博物館でも作品の修復などを行っていますが、これがもう大変で』 真木は姫路に賛同する根拠を丁寧に述べている。現状を懸念して話す彼女が学芸員であることを治が来客に教え、続きを促す。『問題は若い職人が集まらないだけではありません。教える側も高齢になっていて、全ての技を伝え切れるか不安を
2024年5月9日 18:00
前の話へ第二章一話へ第一章一話へ 何とか姫路と彦根双方に話を付け、椛たちが久遠研究所を訪ねた翌日の夜には、「七分咲き」に彼らが来ることになっていた。カウンターをいそいそと拭き、椛は客人を出迎える準備を整える。店内には他に奥の部屋で作業する苫小牧しかおらず、あとの仲間は皆自宅でテレビ電話越しに話し合いの様子を見ると言っていた。スマートフォンの画面から、早速白神の声がする。『別に姫路たち
2024年5月7日 18:00
前の話へ第二章一話へ第一章一話へ 完成から二日が経っても、久遠の二条元家は生前と全く異なる様子を見せるだけだった。言葉は理解して話せるようだが、ほとんど会話を行わない。姫路と会うのも避け、生活用の部屋に隣接する久遠を製造するための部屋――目覚めた場所の奥で籠もり気味だ。何があったのか事情を聞きたくても、関係ないと一蹴される。そして毎日同じ時間に寝起きし、健康のためだという習慣をいくつか