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全てを白紙に 第三章 日常に帰る日 七、日常は続く
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瞼の裏が暗くなり、レンは光が収まったのだと気付いた。目を開けると、先ほどまでと変わらぬ部屋の空間が広がっている。壁際に本棚が並び、エティハの立っていた辺りの壁には地図が貼られ、床には血の流れがある。持っていたはずの「虹筆」は、どこにもなかった。使ったことで消滅したか、元の場所に自然と戻ったか。下ろしていた手をぱっと離されて隣を見ると、ルネイが口の中でもごもご言
全てを白紙に 第三章 日常に帰る日 六、虹筆
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団長エティハの話には、同情できる部分こそレンにはあった。いじめと呼べるようなものは受けなかったが、リリや親からの心配には苦さを覚えていたものだ。初めて自分のように、日常で魔術が使えない人物と出会った。だからか自然と、レンは前に立つ男の語りに引き込まれていった。
だが途中で、彼とは決定的に違う点があるとレンは確信した。そしてこの特殊な空間を乗り切る方法を思い付
全てを白紙に 第三章 日常に帰る日 五、伸ばした手
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中佐に話を聞いた時、初めは彼女に脅威を覚えていた。しかし消却爆弾を止めてみせたその人に、いつの間にか別の思いが湧くようになったのだ。エティハは少女を前に、口元が緩むのを抑えられなかった。彼女なら、自分の望みを認めてくれるだろう。面白いほどに似ているのだから。
「異端の私は、惨めという言葉では表せないほどでした。学生の時分はひどい仕打ちも受けましたよ。そこで決め
全てを白紙に 第三章 日常に帰る日 四、明日の神話
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日が昇ってくると、眼前に続く白はより目に痛くなった。下を見ても雪が積もっているかのように白く、レンは目のやり場に困って薄く瞼を閉じた。方向感覚が分からなくなりそうなものを、先導のシランは迷いなくすたすたと歩いている。彼女も、そして興味深そうに周りを見ているリリも、自分たちを包む白を受け入れているようなのが不思議だった。今のレンに共感してくれそうな者は、いかにも
全てを白紙に 第三章 日常に帰る日 三、奇妙な団結
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目覚めたアーウィンは、自分が白い天井の下に寝かされていると気付いた。体には布団が掛けられ、どうやらベッドの上にいるようだ。命にも等しい横笛は枕元にあったが、他の荷物は見当たらない。両隣にも寝台が並んでおり、左ではフュシャが退屈そうに正面の広い窓を眺め、右ではイムトが半身を起こしたまま呆然と固まっていた。
「ああ、やっとお前さんも起きたか。厄介なことになったよ」
全てを白紙に 第三章 日常に帰る日 二、夜明け前
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結界の異変を察したルネイに起こされ、レンとリリはランタンを持つ彼に続いた。木々の間から見える空は暗く、朝には程遠い。こんな時間の侵入者など厄介だ。レンはしばらく欠伸を噛み殺していたが、畔と周辺の森との境に当たる場所に着くなり眠気が吹き飛んだ。ランタンの明かりに、何度も自分たちへ立ち向かってきた女が照らされる。
「貴方達が探していた『虹筆』は、軍に渡っているわ。もうする事はな
全てを白紙に 第三章 日常に帰る日 一、野蛮人として
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イホノ湖の畔に大人の姿はなく、レンとリリ、ルネイだけが残された。湖を囲むように点在していた軍用車も撤退し、既に夕方近くなった。一度は「虹筆」を見つけた今、これから逃げるというのもどうなのか。
ひとまず湖を出ようとしたレンは、後ろから袖を引っ張られる感覚に足を止めた。振り返った先を見て、思わず息を呑む。リリがその瞳の色に近いほど、目元を赤く腫らしている。
「……アーウィンさ