西野市香

西野市香(にしや いちか)と申します。本好きが高じて、自分でもいろいろ書き始めてしまっ…

西野市香

西野市香(にしや いちか)と申します。本好きが高じて、自分でもいろいろ書き始めてしまった、主婦で2児の母です。アイコンは、息子が描いてくれた私の似顔絵です。ソックリです。

記事一覧

あの日の思い出と、性教育と。

小学6年生の秋のこと。私ははじめて、アダルトビデオというものを観た。 近所に住んでいたSちゃんが、ある日クラスの女子数名を集めて、ひそひそ声で言ったのだ。 「お兄…

西野市香
2年前
10

酔いを覚ますは琥珀色 【2000字のドラマ】

帰宅したかなみは、冷蔵庫から水を取り出した。ボトルのキャップを開け、一瞬だけ迷う。グラスに注いだ方が良いのは分かっている。けれど— まあいいや。 疲れで頭も身体…

西野市香
2年前
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アホ男子たちよ、永遠に

母から定期的に送られてくる荷物の中に、新聞の切り抜きがたまに入っています。子育てに関するコラムが多く、いつもありがたく読んでいます。今回その中に、衝撃的なものが…

西野市香
2年前
14

祈り

寝る前、ベッドに寝転びながら、子供が言った。 「おともだちの〇〇ちゃんがね、もう2ねんいじょう、おじいちゃんおばあちゃんに会ってないんだって。わたしと一緒だね」 …

西野市香
3年前
11

摩耶さんの涙

「お前ら付き合っちゃえよ」 佐伯先輩が言ったその一言に、心臓が3センチくらい飛び跳ねた。その瞬間俺は、自分が彼女のことをどんな風に想っているのか悟ってしまった。 …

西野市香
3年前
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花の命は結構長い

私が小さかった頃、テレビで「花の命は結構長い〜」という音楽とともに、日本生命のCMがよく流れていた。かなり昔のCMだが、鮮明に覚えていて、今でも時々口ずさんでしまう…

西野市香
3年前
7

夫の後ろ姿に足音の効果音をつけてみたら、ちょっと心が優しくなれた話

「かくして夫は、今日もゴミを右手に、ぽちぽちと歩いていった」 これは今朝、出勤する夫の後ろ姿を見て、私が心の中で呟いた文章です。なんか哀愁漂いますね。 昨日、夫…

西野市香
3年前
7

最初から別れが前提の大恋愛

田舎の母が送ってくれる荷物の中に、いつも新聞の切り抜きが数枚入っています。 記事の内容はほとんどが子育てに関するコラムで、それらを読んでいると、母の子供に対する…

西野市香
3年前
19

大恋愛

ねえ、あなた。わたしを結婚式に呼ぶなんて、あなたってひどい人ね。結婚するならわたしとだって、ずっと言ってくれていたのに、こんな日が来るなんて。 ねえ、あなた。そ…

西野市香
3年前
7

ブルーベース(上)

腕時計を見ると、まださっき時刻を確認した時から3分しか経っていなかった。ただ立って人を待っているだけなのに、どうしてこうも疲れるのか。答えは明白なのだけれど、僕…

西野市香
3年前
2

ブルーベース(下)

「なにぼーっとしてんのよ。あんまり綺麗でビックリした?」 下から覗かれ、僕は慌てて少し距離をとった。美貴から慣れない化粧品の香りを感じるのが、なんとなく嫌だった…

西野市香
3年前
3

noteを始めた経緯と、私のこと

こちらの記事をご覧いただき、ありがとうございます。 つい先日noteを始めたばかりの 西野市香(にしや いちか) と申します。 少し自己紹介的なことを書きたいと思いま…

西野市香
3年前
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風が吹かなかったから

ホテルの部屋から望む夜景は、天体を散りばめた宇宙のように、遠く美しく滲んでいた。その夜景を背に、あなたは窓際の椅子に座っている。膝の上で肘をつき、手を組んで、祈…

西野市香
3年前
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あの日の思い出と、性教育と。

あの日の思い出と、性教育と。

小学6年生の秋のこと。私ははじめて、アダルトビデオというものを観た。

近所に住んでいたSちゃんが、ある日クラスの女子数名を集めて、ひそひそ声で言ったのだ。

「お兄ちゃんの部屋で、エッチなビデオを見つけたの。今日学校が終わったら、みんなでうちで観ない?」と。

みんな、「アダルトビデオ」などという名称すら知らない少女だった。

静岡の片田舎で育った素朴で純朴な女子たちは、それを聞いて、上を下への

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酔いを覚ますは琥珀色 【2000字のドラマ】

酔いを覚ますは琥珀色 【2000字のドラマ】

帰宅したかなみは、冷蔵庫から水を取り出した。ボトルのキャップを開け、一瞬だけ迷う。グラスに注いだ方が良いのは分かっている。けれど—

まあいいや。

疲れで頭も身体も働かない。投げやりな気持ちを身体の奥に押し流すように、口をつけて直接飲んだ。

金曜日。時刻は夜の11時を回っている。残業続きの1週間がやっと終わった。入社3年目の若手とはいえ、かなみの身体はさすがに悲鳴をあげている。

着替える気力

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アホ男子たちよ、永遠に

アホ男子たちよ、永遠に

母から定期的に送られてくる荷物の中に、新聞の切り抜きがたまに入っています。子育てに関するコラムが多く、いつもありがたく読んでいます。今回その中に、衝撃的なものがひとつありました。

それは、筆者である大阪教育大学准教授、小崎恭弘さんの少年時代について書かれたもので、ざっくり内容を説明すると、

『男の子、特に小学生男児という生き物は、純粋かつ最強のアホであり、本当にしょうもないことばかりするのだが

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祈り

祈り

寝る前、ベッドに寝転びながら、子供が言った。
「おともだちの〇〇ちゃんがね、もう2ねんいじょう、おじいちゃんおばあちゃんに会ってないんだって。わたしと一緒だね」

そっかそっか、と言いながら、田舎に住む両親を思った。

「おかあさん、わたしと弟くんは、いつになったらおじいちゃん達に会えるの?」

「うーん、いつかなぁ。すぐだと良いんだけどね。今は、県を超えて移動するのはあまり良くないと言われている

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摩耶さんの涙

摩耶さんの涙

「お前ら付き合っちゃえよ」
佐伯先輩が言ったその一言に、心臓が3センチくらい飛び跳ねた。その瞬間俺は、自分が彼女のことをどんな風に想っているのか悟ってしまった。

付き合っちゃえよ、と言うセリフは、言わずもがな、付き合ってもおかしくないような間柄の男女に対して使われるものだ。それは分かっている。問題は、そのセリフを言われたのが俺ではないということ。

付き合っちゃえよ、というセリフの対象である男女

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花の命は結構長い

花の命は結構長い

私が小さかった頃、テレビで「花の命は結構長い〜」という音楽とともに、日本生命のCMがよく流れていた。かなり昔のCMだが、鮮明に覚えていて、今でも時々口ずさんでしまう。

✳︎

昔から、花が好きだった。

若い頃、仕事で身体も心もどうしようもなくなった時、初めて花を買って、当時住んでいたワンルームに飾った。眺めながら毎日のように思っていたことは

「この花が綺麗だと思えるうちは、私はまだ大丈夫」

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夫の後ろ姿に足音の効果音をつけてみたら、ちょっと心が優しくなれた話

夫の後ろ姿に足音の効果音をつけてみたら、ちょっと心が優しくなれた話

「かくして夫は、今日もゴミを右手に、ぽちぽちと歩いていった」

これは今朝、出勤する夫の後ろ姿を見て、私が心の中で呟いた文章です。なんか哀愁漂いますね。

昨日、夫とケンカしました。
ケンカの理由は些細なことすぎて、もう今となってはかなりどうでも良いことなのですが、ケンカしている最中って

夫の口にダイナマイト突っ込みたい

と思うほどに憤ってるわけです。
気分は完全にトムとジェリーのネズミの方(

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最初から別れが前提の大恋愛

最初から別れが前提の大恋愛

田舎の母が送ってくれる荷物の中に、いつも新聞の切り抜きが数枚入っています。

記事の内容はほとんどが子育てに関するコラムで、それらを読んでいると、母の子供に対する思いや、過去の子育てに関する後悔などが透けて見えて、恥ずかしいやら嬉しいやら。

愛情のバトンだと思って、毎回ありがたく読ませてもらっています。

その中に、ひとつ気になるコラムがありました。

そのコラムには、子供(特に息子)が自立する

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大恋愛

大恋愛

ねえ、あなた。わたしを結婚式に呼ぶなんて、あなたってひどい人ね。結婚するならわたしとだって、ずっと言ってくれていたのに、こんな日が来るなんて。

ねえ、あなた。そんなに幸せそうに微笑まないで。いつのまに、そんなに素敵な人を捕まえたの?全身全霊をかけて愛したあなたが、他の人と結婚する姿なんて、わたし、見たくなかったわ。

ねえ、あなた。わたしのこと、誰よりも大切だって言ってくれた日のこと、覚えている

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ブルーベース(上)

ブルーベース(上)

腕時計を見ると、まださっき時刻を確認した時から3分しか経っていなかった。ただ立って人を待っているだけなのに、どうしてこうも疲れるのか。答えは明白なのだけれど、僕は敢えてそれを考えないようにしていた。考え始めると、イライラしてしまうことが分かっていたからだ。

もう何度目になるかかわからないくしゃみをした後、僕は観念して、読んでいた文庫本を閉じた。読書など、とてもしていられない。先ほどから、慣れない

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ブルーベース(下)

ブルーベース(下)

「なにぼーっとしてんのよ。あんまり綺麗でビックリした?」
下から覗かれ、僕は慌てて少し距離をとった。美貴から慣れない化粧品の香りを感じるのが、なんとなく嫌だった。
「唇、なんかヌルヌルしてるよ」
「…あんたさぁ。その貧弱な語彙力でよく本が読めるわね。せっかく新色塗ってもらっても、見せる相手を間違えたら意味ないわね」
紙袋を僕に押し付ける美貴の顔には、すでにいつもの憎たらしい笑顔が戻っている。
「あ

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noteを始めた経緯と、私のこと

noteを始めた経緯と、私のこと

こちらの記事をご覧いただき、ありがとうございます。
つい先日noteを始めたばかりの

西野市香(にしや いちか)

と申します。
少し自己紹介的なことを書きたいと思います。

私は関東近郊に住む30代の主婦です。昔から本が好きで、若い頃から、暇さえあれば本を読んで暮らして来ました。

私はある意味活字オタクのようなところがあり、とにかく紙(紙的なもの)に字が書いてあれば、なんでも良いのです。

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風が吹かなかったから

ホテルの部屋から望む夜景は、天体を散りばめた宇宙のように、遠く美しく滲んでいた。その夜景を背に、あなたは窓際の椅子に座っている。膝の上で肘をつき、手を組んで、祈るような姿勢で床を見つめるあなたは、ひどく疲れているように見えた。

少し伸びた前髪が、あなたの目の上に影を作っていた。その影のせいで、あなたの瞳はうかがい知れないけれど、そのまぶたが悩ましげに歪み、瞳がいつもより乾いていることは分かった。

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