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夫の後ろ姿に足音の効果音をつけてみたら、ちょっと心が優しくなれた話


「かくして夫は、今日もゴミを右手に、ぽちぽちと歩いていった」


これは今朝、出勤する夫の後ろ姿を見て、私が心の中で呟いた文章です。なんか哀愁漂いますね。


昨日、夫とケンカしました。
ケンカの理由は些細なことすぎて、もう今となってはかなりどうでも良いことなのですが、ケンカしている最中って


夫の口にダイナマイト突っ込みたい


と思うほどに憤ってるわけです。
気分は完全にトムとジェリーのネズミの方(どっち?)

運動神経が悪すぎて、スポーツテストのハンドボール投げという種目で


3メートル


という奇跡の記録を叩き出し、見事級外になった私ですが

今ならものすごく綺麗な放物線を描いて、ダイナマイトを投げられると確信を持てるくらい憤っているのです。

ケンカが10分くらい続き、なんとなくお互い着地点は見えたものの、ダイナマイト握っちゃってる私は、簡単には手を下ろせない。ふてくされて寝る夫。

とりあえず雪苺娘(ノーベルスイーツ学賞なる賞があったら、一度は受賞しているに違いないスイーツです)を食べて心を落ち着かせていたら、口の中が幸せすぎて、物事を冷静に考えられるようになってきました。


明日の朝、気まずいだろうなぁ

もうごめんって言っちゃおうか。

てかなんでケンカしたんだっけ。

ああ雪苺娘おいしいなぁ。もう一個食べたいなぁ…

そういや昔、雪苺娘勝手に食べられて夫とケンカしたなぁ。思い出したらムカついてきた…。寝顔に落書きしてやろうかな。


とそこへ、同じ幼稚園の仲良しママさんからLINEが。

「こないだね、ちょっと早めに幼稚園にお迎えに行ったんだけど、〇〇ちゃん(私の娘)が、タンポポ持ってぽちぽち歩いてる姿がかわいくてね、写真撮ったからあげるー」


そんな文面とともに、園庭で摘んだのであろうたんぽぽの束を大切そうに抱えて、制服姿で歩く娘の写真が一緒に送られてきました。


そういや先日、娘、タンポポいっぱい持って帰ってきたな。


てか


ぽちぽち…?


私は娘の写真より、その効果音?に心を奪われてしまって。


な、なんかかわいい…!!

ぽちぽち歩く娘、いつもの3倍かわいく思える…。

そこから私は、「ぽちぽち」の魔力に囚われてしまったのです。

足音って、ただ単に靴の奏でる音であり、足音を出しているその人をかたち作る要素ではないはず。それなのに、足音ひとつでその人の印象(元気そう、楽しそう、寂しそう)を左右してしまいます。単純に、面白い!!

趣味で小説を書いたりするので、表現について考え出したら止まらなくなりました。

私が知ってる足音の効果音(オノマトペ)ってなんだろう。

・とことこ
・てくてく
・かつかつ
・とぼとぼ
・ぱたぱた


おい、どれもずいぶんかわいいな。

かわいくないの、無いの?


どすどす?
どたどた?


やだ。平仮名だとちょっとかわいい。


漢字にしてみる?

怒主怒主(どすどす)
土多土多(どたどた)

うーん、雰囲気は出るけどさ。

……いや、私よ。ケンカの話どこいった?
インベーダーゲームの戦闘機よろしく、夫に向かってミサイル撃ちまくってたくせに、なぜその数分後、「ぽちぽち」に夢中?

でもきっとこれは、私の心に平和をもたらしめんとする天のお導きに違いない。よし、いっちょ足音に没頭してみよう。

明日も朝早く起きねばならないくせに、考え始めると止まらない私の思考は夜中に爆走し始めたのです。


ぽてぽて
ぺたぺた
よちよち
ぷきゅぷきゅ(踏むと音が出る、あのサンダルです。世界中の人がアレを履いたら、なんか色々バカバカしくなって、世界は少し平和になるかも)

考えていてもなかなか浮かばないので、ネットで検索してみる。

すると、

『「動き」を表す漫画のオノマトペ 「歩く・走る」を例として』

なる論文を書かれている方が!!

以下、同志社大学 平 弥悠紀さんの論文から一部引用させていただきます。

うろうろ/えっちらおっちら/かっぽかっぽ/さっさ/さっさっ/しゃなりしゃなり/しゃらりしゃらり/すたこら/すたこらさっさ/すたすた/せかせか/たー/たたーっ/たかたか/たじたじ/だだーっ/たたたた/だだだだ/たったかたったか/たったっ/たどたど/ ちょこちょこ/てくてく/てけてけ/どっしどっし/とーん/とことこ/とっとことっとこ /とっとっ/とっと/ととと/どたばた/とぼとぼ/のさのさ/のしのし/のそのそ/のっ しのっし/のらりのらり/のろのろ/のろりのろり/ぱかぱか/ぱっぱか/ぱたぱた/ばたばた/ぴたぴた/ひょこひょこ/ふらふら/ぶらぶら/よたよた/よちよち/よぼよぼ/よろよろ/らったった/わたわた/のこのこ/ぱっぱ


恐るべし足音。読んでみたら、ちゃんとその歩き方が浮かぶ。さすがに「らったった」とかはよく分からんけど、まあなんとなく楽しそうなので、私もいつか、「らったった」な歩き方を会得してみたい。

小説を書いていると、これという表現が見つからなくて、うんうん言いながら頭をひねる瞬間がたくさんあります。

でも、自分の中にないものは、どう頑張ったって浮かばない。人との会話、あるいは本やテレビで出会う言葉、考え方、表現のひとつひとつを、無駄に消費しないで、それってどういうことなんだろう?とか、その言葉、好きだなぁ、とか、丁寧に向き合っていけたら、私の世界はもっと豊かで楽しくなるのかも。

なーんて考えていたら、夫がケンカの最中、私に言った言葉の一つ一つも、ミサイルで撃ち返すのではなく、ちゃんと聞くべきだったのかなぁと思えました。

ま、そこですぐに素直に謝れるほど、人間できていないけどな!私は。ははは。

というわけで、今朝は少し気まずかったけれど、いつも通りゴミを持って行ってくれた夫の後ろ姿に、少し小さい声で「いってらっしゃい」を言いつつ、今一番のお気に入りのアレをつけてみたというわけです。

「かくして夫は、今日もゴミを右手に、ぽちぽちと歩いて行った」


うん、やっぱりちゃんと仲直りしよう。
今日は夫の好物のとんかつにしようかな。

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