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大恋愛


ねえ、あなた。わたしを結婚式に呼ぶなんて、あなたってひどい人ね。結婚するならわたしとだって、ずっと言ってくれていたのに、こんな日が来るなんて。

ねえ、あなた。そんなに幸せそうに微笑まないで。いつのまに、そんなに素敵な人を捕まえたの?全身全霊をかけて愛したあなたが、他の人と結婚する姿なんて、わたし、見たくなかったわ。

ねえ、あなた。わたしのこと、誰よりも大切だって言ってくれた日のこと、覚えている?
「昔の話だろ」
そう言って笑うあなたが目に浮かぶわ。あの日のこと、鮮明に覚えているのは、きっとわたしだけね。

ねえ、あなた。覚えてる?手を繋いで、色々な場所を訪れた。あなたの表情を、感情の動きを、額の汗の一粒一粒を、一瞬たりとも見逃すまいと、わたしが必死で見つめていたこと、あなたは知らないのでしょうね。

ねえ、あなた。その人の差し出すスプーンで、ケーキを食べないで。一生美味しいご飯を食べさせますという証なんて、笑っちゃうわ。私、あなたのために、どれだけ料理をしたかしら。おいしいなんて、わざわざ言ってくれなくても良かったの。お皿が綺麗になるだけで、わたしはいつも満たされた。それなのに、あの人が差し出すケーキには、そんなに嬉しそうな顔をするのね。

ねえ、あなた。知ってた?わたしって、結構気の強い女なのよ。あなたに出会うまで、男の人に尽くしたことなんてなかった。あなたがお腹が空いたと言ったなら、夜中でも、早朝でも、喜んでキッチンに立ったわ。あなたが風邪をひけば、一晩だって、二晩だって、寝ずに看病できた。どこへだって、迎えに行った。満腹な時の顔、不安そうな顔、安心したときの笑顔。全て、全て、覚えてる。あなたのためなら、喜んで命をさしだせた。そんなことを言うと、やめろよって言われそうだから、言ったことはないけどね。

ねえ、あなた。わたしの前で、その人と腕を組まないで。繋いだあなたの手の温もりが、まだ私の手から消えないのよ。

ねえ、あなた。あなたの好みの変化に気づかなくてごめんね。昔あなたが好きだった甘い卵焼き、「甘ったるい」と言われるまで、毎日毎日作ってた。そういうところ、きっと嫌だったのよね。

ねえ、あなた。あなたの気持ちに寄り添うふりをして、あなたの世界に近づきすぎて、ごめんね。あなたの変化に戸惑って、心配で心配で仕方がなかった。もっと堂々と構えていられれば、あなたに居心地の良い場所を作ってあげられたのに。あの頃から少しずつ、あなたは私から離れていった。

ねえ、あなた。あなたが初めてくれたプレゼント、覚えてる?あの赤い一輪の花が、どれだけ嬉しかったか、想像できるかしら?あれ以上に美しい花なんて、私にとっては存在しないのよ。嬉しくて、泣いてしまってごめんね。突然涙した私に驚いて、頭を撫でてくれた小さな手から伝わる、あなたの優しさや戸惑いすら、私にとっては、唯一無二の宝物だったの。

ねえ、あなた。たくさん叱ってしまってごめんね。こんなに愛した人はいないから、つい感情が昂ってしまう日がたくさんあった。あなたの寝顔を見て、頬擦りしながら謝った日が、どれだけあったことか。もう一度あの頃に戻れるなら、もっと上手にできるかしら。

ねえあなた。一日だけでいい。あの頃に戻りたいね。そうしたら、幼稚園をお休みして、テレビを消して、一日中あなたを抱きしめていたい。日が暮れて、あなたが疲れて眠るまで、ヒーローごっこを何度でもしよう。私は悪者になって、何度だって、やられてあげる。

あら、やめてよ花束なんて。あの時の、あの花よりも綺麗な花なんて

花なんて。


ねえあなた。涙でよく見えないけれど、綺麗で立派な花束ね。あなたまで、なに泣いてるのよ。情けない男ね。でもありがとう。あなたが私にくれたもの。昔は木の枝や、石や、松ぼっくりや、何が描いてあるのかさっぱり分からない絵だったね。でもね、あなたが笑顔でくれるもの、わたし、なんだって嬉しかったのよ。

変ね。あなたがいなくなってしまうわけではないのに、なんで涙が止まらないのかしら。少しずつ、でも確実に、あなたは私の手から離れていった。それに気づかないふりをしていたのに、今日、分かってしまったわ。これからはあの人が、あなたを支える1番の人。


ねえ、あなた。あなたが初めてあの人を連れてきた時、わたし、ちゃんと嬉しかったのよ。瞳の澄んだ、優しそうな人だったから。あなたが愛したあの人を、わたしも好きになれそうだったから。


ねえ、あなた。幸せになって欲しいの。世界中の誰よりも。いつか私のもとから旅立つことは、分かってたの。あなたが私のお腹から生まれたその瞬間から、今日まで、夢のようだった。一日だって、あなたを愛さなかった日はなかった。耳を覆いたくなるようなひどい言葉を投げかけられても、わたしの気持ちは揺るがなかった。雨の日も、風の日も、これからも、1日も変わらず、あなたを愛してる。あなたは、その価値がある人。だからね、自信を持って、歩んでいって。その人とならきっと大丈夫。

ねえ、あなた。わたしを大事にしてくれたように、今隣にいるその人を、大事にしてあげて。あの人のこと、わたしだって大好きなの。

ねえ、あなた。わたしはあなたから沢山のものをもらったわ。だからもう、何もいらないの。どうかどうか幸せに。二人の歩む人生が、沢山の花を集めて束ねたような、いろどりあるものになりますように。

ねえ、あなた。本当に、おめでとう

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