サルトル、ボーヴォワール・来日55周年

今年は、哲学者のサルトルとボーヴォワールが来日してから55年が経つ。

1966年は、ビートルズも来日している。

 

二人の滞日記録は、朝吹登水子『サルトル、ボーヴォワールとの28日間―日本』(同朋舎出版)に詳しい。

三島由紀夫との邂逅や、加藤周一との交流が印象的だ。

滞在期間中、朝吹氏が通訳を務めている。

気になるのは、たしか宿屋か料亭でサルトルらに「新旧論争」をふっかけた女性や、講演会で不完全な通訳を行ってサルトルに降板させられた女性を氏がシニカルに描写しているところだ。

翻訳家として有名な朝吹氏は、フランス留学の経験があり語学が堪能だったと思われるが、フランスでも日本でも大学は卒業しておらず学位は持っていなかった模様。

少なからずコンプレックスがあったのかもしれない。

 

閑話休題、サルトル一行は京都の金閣や龍安寺を訪れている。

龍安寺の石庭に、知の巨人は感銘を受けたようだ。

本書によると、無神論者のサルトルは訪れた寺社でも宗教的行為は避け、手水舎で手を洗うのを拒んだという。

こういう記述は面白い。

また、瀬戸内海を遊覧した際、地中海に似ていると大知識人は感想をもらしたそうだ。

実際、瀬戸内海は地中海同様、温暖で雨が少なくオリーブの産地である。

 

本書には、帰国後のサルトル、ボーヴォワールと朝吹氏との交流も綴られている。

氏は、死期が迫ったサルトルのもとにも駆けつけたらしい。

そこでボーヴォワールが、加藤周一の新著に言及している。

サルトルに生き延びて、読んでほしかったのだろう。

彼は晩年、認知症を患っていたとされるが、本書ではそのことには触れられていない。

 

昨年はサルトル没後40年だったが、世界はコロナでそれどころではなかった。

落ち着いて回顧できる日が来ることを願う。

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