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シャーリイ・ジャクスン『くじ』

スティーヴン・キングの系譜を遡ると、シャーリイ・ジャクスンという作家が先駆者・先輩格らしい。

ということで、短篇集の『くじ』(ハヤカワ文庫)を少し読んでみた。


表題作の「くじ」(1948)は衝撃作だそうだが、結末は「まあ、そうなるんだろうな」という感じ。

むしろ注目すべきは、発表されたのが第二次大戦が終わってまだ3年後だったこと。

そこで繰り広げられる理不尽で殺伐としたストーリーは、戦争の余波を感じさせる。それは同年のヒッチコック監督作品『ロープ』に通ずる。ただし、「くじ」の時代設定が戦後かどうかは分からない。

ちなみに訳者の深町眞理子氏による文庫版あとがき(2016)では、戦争との類比は見られなかった。

『アンネの日記』を訳した方なので、少しはそうした言及があってもよさそうだが。


「曖昧の七つの型」は意外にも、詩人・批評家のエンプソンによる評論が、そのままタイトルになっている。

ラストは、少年が不憫な気がする。その後、大男があの本を少年にプレゼントする気配はない。高尚な本が知的な少年にではなく、無学な人物に渡るというアイロニカルな結末だ。

作者は、「くじ」にも描かれているような無教養な人々に冷笑的なのだろうか。


「魔女」の初出が正確に何年か存じ上げないが、短篇集発表の1949年までに書かれたはずだ。この作品こそ『ロープ』的である。

無責任な大人が殺伐とした「ジョーク」を子供に吹き込むという内容が共通している。

『ロープ』における、こうした特徴は以前記事で触れた。


「くじ」もそうだが、倫理の崩壊は大人から始まることを肝に銘じておかねばなるまい。

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