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アメリカ政府が抱える牛肉のジレンマを、マーケティング×フィットネス視点で考える。

前回の記事では、脂肪が持つ不思議な魅力と中毒性についてお話しました。
食品に含まれる脂肪は人々を惹きつけますが、脂肪の過剰摂取は重大な健康被害にも繋がります。

しかし、人々を惹きつけるものは「売れる」のも事実。
そしてそれは資本主義、自由主義を掲げる近代国家の戦略と極めて相性がよかったのです。

今回は、アメリカ政府が1980年代に行った牛肉マーケティングの事例から、【国と産業が行うマーケティング】についてお話していきます。


●脂肪の過剰摂取による弊害の実際

脂肪の過剰摂取は、当然ながら肥満に繋がります。
更に肥満は、糖尿病、心臓病、高血圧、胆嚢疾患、変形性関節症、乳がん、大腸がん、子宮内膜がんなどの疾患を引き起こします。

脂肪の過剰摂取によって、世の中で実際どのようなことが起きたのかを見ていきましょう。

まず脂質に含まれる「飽和脂肪酸」、更には「コレステロール」と心臓病との関連は以前から指摘されていました。
コレステロールが血液をドロドロにすることによって、2型糖尿病や心臓病、脳卒中の原因になることがわかっています。

実際、アメリカ人のうち2400万人が2型糖尿病の患者、7900万人が2型糖尿病予備軍と言われています。
またある統計によると、アメリカだけで3000万人以上の人がコレステロール低下薬を飲んでいます。

FDA(アメリカ食品医薬品局)によると、総カロリーにおける飽和脂肪酸の割合は10%が上限と言われていました。
しかし2010年の調査によると、1-3歳の「平均」が12%以上、全年齢でも11%に迫る勢いです。

「平均」が「上限」を大きく上回っているという異常事態に、FDAは飽和脂肪酸の摂取上限を10%から7%に引き下げました。


●経済のジレンマ

一方で、政府にはこれを規制するインセンティブがあるとは言えません。
食品業界、農産業界、製薬業界に対してダメージを与える可能性があるからです。

考えてみてください。
本能のままにジャンクフードを貪り、それによって生じた病気を治す薬を飲みつつ、でもジャンクフードはやめられない。
これが普通の人間です。

健康的に慎ましく生活をしていて、無駄遣いも病気もしない、そんな人ばかりいる世の中だとどうなるでしょうか。
農家は仕事を失い、食品業界の売上は落ち、製薬業界も立ち行かなくなる、つまり経済が回りません。

極端な話、ジャンクフードに心酔する人がいることで、経済が回り、投資家が潤い、税収が期待できるのです。
実際、糖尿病患者の治療やコレステロール低下薬は製薬業界にとって大きな収益源になっています。

これは非常に難しい問題で、今流行りのSGDsなどにも言えることですが、、、
SDGs(≒持続可能な社会)と経済はトレードオフとは限りません
つまり、「持続可能な社会」を作るための方法は一つではないということ。

・持続可能な社会を作るために、原因となっている資本主義を止める
・持続可能な社会を作るために、資本主義を急速に発展させてテクノロジーで原因を解決する

経済が回ったからこそ、製薬業界の研究開発費を賄うことができ、コレステロール低下薬を開発することができた。
経済が回らなければ、余剰リソースがないので将来への投資ができない。

こう考えることもできるので、「不健康な食品を規制しないアメリカ政府は悪だ!」とは言い切れないのです。

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●アメリカ政府のマーケティング戦略

では実際にアメリカ政府はこの問題に対してどのように取り組んできたのでしょうか。

アメリカ農務省がチーズと肉をプロモーションするようになったのは、1985年頃のこと。
乳製品の過剰生産を問題と考えたレーガン政権は、2年間で9万トンの牛肉を買い上げ、貧困者に支給しました。

一方で、牛乳出荷量100ポンドにつき15セント、牛肉1頭につき1ドルを生産者から徴収することで年間8000万ドルのマーケティング予算を確保することに成功しました。
この資金によって、牛乳と牛肉の大規模なマーケティングを展開することができるようになったのです。

農家から徴収した資金で農家のためのマーケティングをする政府、非常にアメリカらしいと個人的には思います。

この費用を使って、牛乳と牛肉に関する市場調査が行われました。
その結果、「忙しい現代人のライフスタイルに合う食品」ということで牛乳はチーズとしてピザに乗せられ、牛肉はミンチにしてハンバーガーに挟まれることになり、消費量を大きく伸ばしたのです。

これもアメリカらしいですね。笑

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●低脂肪牛肉の研究

牛肉の消費が増えることは良いことですが、このままでは飽和脂肪酸のせいで病気が増えてしまいます。
そこで、「健康的な牛肉」が実現できないか、研究が始まりました。

「脱脂牛肉」を実現するためにはじめに目をつけたのが、牛肩肉。

牛肩肉は、一食分あたりの飽和脂肪酸が4.5g以下のため、「リーン肉」として売り出すことができました。
亜鉛やビタミンB12などの栄養素が豊富な牛肩肉は、「機械的軟化処理」と言われる工程を経て、ミンチ肉として売り出されることで大きく売上を伸ばしました。

そしてもう一つ、「ピンクスライム」と呼ばれる加工肉が注目されました。
1990年代前半に農務省がハンバーグ業者に脱脂牛肉の使用を許可すると、ハンバーガー用の肉としてアメリカ市場最も売れました。

機械で遠心分離をしてからアンモニアガスで殺菌処理されたこの加工肉は、脂肪分が少なく、価格も安いため2000年代までは重宝されていました。
しかしアンモニアガスの工程が非常に難しく、失敗すると殺菌が不十分か強烈なアンモニア臭がするかのどちらかになるケースが続出。

この問題を大きく見たマクドナルド社は、2011年に脱脂牛肉の使用を中止。
それでも、脱脂牛肉は子どもたちの肥満対策として学校のランチを中心に未だに使われています。


●まとめ

・飽和脂肪酸の摂りすぎは危険!
・かといって経済の問題で規制もしづらい。
・アメリカはマーケティングで牛肉を普及させてきた
・「脱脂牛肉」は一長一短。


●おわりに

このnoteは、筋トレを始めたばかりで、しっかり身体のことについて勉強したい人をターゲットに、健康的な生き方に関する情報を論理的に発信しています。

過去にもいろいろな記事を投稿しているので、もし気になったら読んでみてください。
また、記事にしてほしいトピックのリクエストもコメント欄から募集中です。

筋トレについてそこそこ詳しい方や、実際にトレーナーとして活動されている方にとっても、「こんな考え方、こんな表現があったんだ!」という発見になってくれれば幸いです。



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