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小説|晩産のたしなみ。

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いわゆる晩婚、もしかしたら「晩産」に至れるかもしれない40代のリアルデイズ……。いちコピーライターとして初めて書き残したくなった自分ごとは、苦節9年、不妊治療の行末でした。普通の…
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#夫婦関係

DAY16.  カルチャー・ラプソディ

DAY16.  カルチャー・ラプソディ

 結婚する意味、たまに考えないでもない。10代20代の頃、結婚する理由はただ一つ、「子どもを産むため」だった。もともと結婚そのものに、あまり憧れがなかったから。じゃあ、もしも子どもができなかったら……?  

   *

 ストレス。うん、確実にこれはストレス。

 このコロナ禍、余計なストレスは一切取り除いてやろうと日増しに感度が高くなっている私のスカウターが、また新たなストレスを感知している。

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DAY14.  9回目のクリスマス

DAY14.  9回目のクリスマス

「クウホウ、ということですか」

「そうですね。今回の所見からすると……クウホウ、になります」

 医師との会話は、正直それくらいしか覚えていない。流産からもうすぐ4か月、ようやく挑んだ採卵手術を終えての診察室。

 長々といろいろなことを聞いた気がするけれど、最後はこれまで何度も聞いた「次回、生理3日目に来てください」で締めくくられた。結局、得られた情報もその程度だ。今できることはほとんど何もな

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DAY13. たぶん、残念な家事分担

DAY13. たぶん、残念な家事分担

 心も体も健康でエネルギーに満ちあふれているときじゃないと、悲劇なんて書けないものだ。ある人にそう言われたことがある。

 逆に、人はつらいときにこそ喜劇を書くんじゃないか。そのとき彼女はそう続けたけれど、わかったような、わからないような。でも最近になって、ようやくその意味がわかった気もしている。

 表層に出てくる言動とその奥底にくすぶっているもの、それが時々まったく違って、ちぐはぐなのも、どこ

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DAY12.  犬猫のぬくもり

DAY12.  犬猫のぬくもり

 わが家には、猫と犬がいる。男女を女男とは言わないみたいに、犬猫を猫犬と言うと変な気がするのは、やっぱり犬のほうが人間界に根づいた相棒として第一党的なイメージがあるからだろうか。うちの場合は、猫が先住民だ。犬はあとからやってきた。

「犬が飼えるような大人になりたいって、昔から思ってたんだ」

 夫は私の夫になる前、よくそんなことを言っていた。

「自分の子どもは、双子なんじゃないかって気がする」

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DAY11.  雨上がりの土曜日

DAY11.  雨上がりの土曜日

 ホルモンのバランス。よく言うやつ。私の中で日々起こっている根拠のない浮き沈みは、恐らくそこにトリガーがある。そんなふうに思い出したのは、ごく最近のことだ。

 人の体に100種類以上あるホルモン。その中でも卵胞期に増えるエストロゲンと、排卵した後にぐんと上がるプロゲステロン、いわゆる2つの女性ホルモンの動きには、もはや抗いようのないところがある。

 ことあるごとに血液検査をされる不妊治療下、そ

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DAY10.  タイムラインの世界線

DAY10.  タイムラインの世界線

 子どもがいる未来も、子どもがいない未来も。いまだ描くことができずにいるジレンマの只中で。

 人流が減ったのか、ワクチンの効果なのか、専門家もあまりはっきりとした原因がわからないまま、コロナの新規感染者数は明らかに激減している。

 この9月いっぱいで、とうとう東京の緊急事態宣言も明けるらしい。ここまで長く自粛を強いられ続けると、もはやどこか他人事のようで、私にとってはどうでもいいニュースになり

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