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あなたがいるから世界は変わる

あなたがいるから世界は変わる

私は、公共の構造物をつくる土木の仕事をしている。
土木と言うと、多くの人はすごい、と驚いてくれる。でも、私が他の仕事を本質的に理解できていないのと同じで、土木構造物は社会にあふれているが、認知度は非常に低い職業ではないかと思うことがある。

私が自分の仕事に俄然やる気が出るのは、私たちが造るものを実際に使ってくれる方々と繋がったときだ。
プレッシャーもかかるけど、その人たちの姿を想うと、土木構造物

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マチネの終わりに

マチネの終わりに

『日蝕』で、芥川賞を受賞した平野啓一郎さんは、私が卒業した学校の先輩だった。
といっても、平野さんと学内ですれ違うこと等は決してあり得なかったことだし、その頃の私の学校生活が現在の私に何か影響があったか考えてみても大きな事件もなく、進路とか将来について思い悩むことも全くなかった、そんな過去のことだ。

私がその頃、興味を持っていたことのひとつは、アインシュタインの相対性理論だった。その理論を理解で

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追憶のヒロイン

追憶のヒロイン

人に貸して戻って来なかった本のひとつが、『夜は短し歩けよ乙女』だ。
本の話で意気投合したと思えた、会社の先輩に貸したっきり戻ってこなかった。
その先輩は、小説を一切読まない人だと少し経って知ったが、もう後の祭りだった。

私は『夜は短し歩けよ乙女』に、社会人一年生の頃、赴任先の田舎の小さな本屋で出会って、宿舎へ連れて帰った。
初めての一人暮らしに、テレビも車もないちょっと寂しい生活の中、その本は私

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逆ソクラテスと逆さま自動車

逆ソクラテスと逆さま自動車

現在私は、学校に通っている。
通っているといっても、今年の授業は全部Zoomで、リアルではない。
実際に会うと、クラスメイトや先生たちはみんな違ってみえるんだろうな、と思う。

たまにだけれど、クラスメイトとZoom上でお茶会をしている。
2時間弱、学校のこととか、色んなことを思いつくままに話す。
先月のお茶会では、話題が最近読んで良かった本に及んだ。

人に良かったと紹介できる本を選ぶのは、結構

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神様との出会い

神様との出会い

準備が整わないと、理解できなかったり、ただ通りすぎていくものがある。
でも、その中でも、不思議なことに、また出会ってしまうものがある。

それは、川上弘美さんの『神様2011』だった。
色々とくすぶっていた私の人生を、一気にぱたぱたと変えるきっかけをくださった方のおひとりが、noteで紹介されていたものだ。
その方は、本等で学ばれたことをそのままにせずに、実際に形にして味わって考える方だ。

『神

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【読書感想文】52ヘルツのクジラたち

【読書感想文】52ヘルツのクジラたち

私の心の中の消えないキズのひとつが、助けてあげられなかった先生のことだ。
その先生は、いじめっ子たちにいたずら書きされたとおりの人生を選択してしまった。
そのときの私は、それを見た先生がどう思うかの想像もできていなくて、どうしたら、その状況を起こさずに済むかすら考えていなかった。

いじめっ子に気付かれず、先生にも気付かれないように、そのいたずらを抹消する方法は、実はたくさんあったのだ。

私も、

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人生の最期を迎えるための教科書

人生の最期を迎えるための教科書

『エンド・オブ・ライフ』を読んだ。

この本を知ったのは、小川糸さんのエッセイ集『グリーンピースの秘密』だった。
本書で小川糸さんは『エンド・オブ・ライフ』について触れられている。
糸さんは、これをもっと前に読む機会があったとするならば、『ライオンのおやつ』という小説をきっと書いていなかったと記している。
(『ライオンのおやつ』とは、末期癌の若い女性がホスピスで夢のように温かな人生の最期を迎えるお

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事実を知るためのプロセス

事実を知るためのプロセス

泥沼にはまってしまって、抜けることができなくなることを、考え続ける日がある。

昨年ベストセラーになった『ファクト・フルネス』という本では、高学歴な人ほど、世界は悪くなっているという10の思い込みに囚われる傾向にあるといい、その思い込みから解放されるために、様々な機関が統計をとったものの見方を紹介している。
それによると、世界は少しずつではあるが、良い方向に進んでいる、という。

幼少期から社会科

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課題はたくさんあるとしても幸せな家族

課題はたくさんあるとしても幸せな家族

コロナ禍が続くと、家族仲が悪くなる気がする。最近は、ニュースで家族間の事件を頻繁に耳にするようになった。

なんだか、みんなイライラしているような気がする。
その私も持っているイライラを、いつか家族に思いっきりぶちこんで、壊してしまうのではないかと思うときがある。

家族仲が壊れるのは、コロナ禍のせいだろうか。それは、きっと違う。
コロナ禍が引き金になってマグマが噴出することが仮にあったとしても、

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戦う操縦士の還る場所

戦う操縦士の還る場所

手元に何年も前から置いているのに、読むのをためらっている本が二冊ある。
アンネ・フランクの『アンネの日記』と、サン=テグジュペリの『戦う操縦士』だ。この2冊の本の作者との出会いは、私が小学生の頃だった。

私が通っていた小学校では、おそらく長崎の原爆投下の日(8月9日)が夏休みの登校日だった。その日は、戦争を学ぶ日になっていた。
私が当時住んでいた場所は戦時中、武器を製造していたため、アメリカ軍が

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モモへつながる冒険

モモへつながる冒険

私が小学生の頃、一学期の終業式にはそれぞれの学年にあった本の販売が行われていた。
もちろん、購入の可否は自由で、事前に書名とその内容が書かれた紙が配られるのだが、母がいつもその本を選んでくれていた。
ランドセルに入れたお金が、帰りには一冊の本に姿を変えていた。
両親は、ゲーム等は決して買い与えてくれなかったが、本は読める分だけ買ってくれた。母の選んだ本は、どれも面白かった。(小さい頃にゲームをさせ

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アヒルと鴨のコインロッカー

アヒルと鴨のコインロッカー

私は、お腹がすいたとニャアニャア助けを求めるノラ猫にならすぐに救いの手を差し伸べてあげられる気がするけれど、通りすがりの人がお腹空いたと寄って来たら多分私は逃げ去ってしまうような気がする。

動物になら優しくできる。けれど、人にはどこまでも残虐になれる人もいる。ヒトラーは、ビーガンで動物愛護家だった可能性がある、と聞いたことがある。動物に優しいのと、人に優しくできるのとはまるで違う。

伊坂幸太郎

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夜の錬金術師

夜の錬金術師

私が社会人に成り立ての頃、飲み会の翌日は、いつも戸惑っていた。心が通じ合うことがないと思っていた職場の人たちに、酒の席で急接近して、仲良く楽しんだのに、夜が明けたら魔法が解けてしまうかのように、なかったことになっていた。
その空虚な気持ちを、独り噛みしめながら、この感覚は何かに似ているなと思った。それは、一気に恋が醒めてゆく時だった。
夜とお酒は、人を魔法にかけて本物を覆い隠す。だが、そのベールは

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出会うべくして出会う人が待っている未来へ

出会うべくして出会う人が待っている未来へ

学校に行きたくても通えない子どもたちは、大勢いる。
多くの国の子どもは、貧困で学校に通えず、学びたくても学ぶことができない。しかし、日本は状況が違う。学べる環境があるのに、学びたくても学校に通えない子どもがいる。

かつて、マザー・テレサは来日した際に、日本は大変進歩して裕福な国で、インドのようにたくさんの貧しい人々はいないが、この国には精神的な貧しさがある、と言われたと聞いたことがある。また、空

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