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神様との出会い

準備が整わないと、理解できなかったり、ただ通りすぎていくものがある。
でも、その中でも、不思議なことに、また出会ってしまうものがある。

それは、川上弘美さんの『神様2011』だった。
色々とくすぶっていた私の人生を、一気にぱたぱたと変えるきっかけをくださった方のおひとりが、noteで紹介されていたものだ。
その方は、本等で学ばれたことをそのままにせずに、実際に形にして味わって考える方だ。

『神様2011』。
私はこの本に、かつて出会ったことがあった。

数年前まで私は、湖のある街に住んでいた。
そこには、ベレー帽のよく似合う、年配の女性が営む古本屋があった。
私は常連ではなかったけれど、一年に一回くらいそこを訪れて、珍しい本がないか探していた。

数年前のある日、そこ訪れると、奈良美智さんの描かれた絵が壁に掛けられていた。
その絵は、目を尖らせて、口をへの字に曲げたオレンジの髪の毛を二つ結びにした少女が『NO NUKES』と書いたプラカードを掲げているものだった。

その少女の下に、古書ではなく新品の川上弘美さんの『神様2011』が山積みされていた。その鮮やかな少女の絵と対照的な、『神様2011』の表紙とその表紙に描かれた熊の地味さ。
それは、私の目に深く焼き付いたが、本に触れることなく、そこを後にした。
無関心だったのかもしれない。

それからまた出会った『神様2011』。
私は、図書館に行き『神様2011』を借りた。

本書は、川上弘美さんが1993年に書かれた熊との散歩をする1日を、『あのこと(原発事故後)』を境にして大きく変わった日常の中の散歩に書き替えられたものだ。

私たちは忘れてしまいがちなのだけど、神様が作った出来事によってではなく、もとを正せば、自身で産み出したものに苦しめられ、もとの日常に戻りたいという。
だけど、もとの日常とは、ものによって産み出され、ものによって造られた日常で、壊れたものは、決して完全には戻らない。
そして、もとのとは、日々変わってゆく日常の、どこの時点にあたるのだろうか。

図書館の本なのに、以前借りた誰かが川上弘美さんのあとがきに線を引かれていた。
『わたしは何も知らず、また、知ろうとしないで来てしまったのだな』
という言葉と、
『日常は続いてゆく、けれどその日常は何かのことで大きく変化してしまう可能性をもつものだ、という大きな驚きの気持ちをこめて書きました』
という言葉だ。

借り物なのに、思わずそれに線を引いてしまうくらい、その人にも、そう思える出来事があったのだと思う。

先日の学校の授業は、個人のレーベルで出版社を立ち上げ書店も経営している先生のお話だった。
先生は、その中で、2冊の本をあげ、読むように言われた。
ホモ・サピエンス道具研究会の『世界をきちんと味わうための本』と、文部省の『民主主義』だった。

その中で、先生は世の中に存在しているものの全てを当たり前と見ずに、どういうものなのか知って、考えて、感じて、味わい、表現することの必要性を唱える。

そこで、ふと奈良美智さんの『NO NUKES』の絵を思い出し、調べてみた。
この絵は、奈良さんが、ライフワークとして続けてこられていた核兵器や反戦の想いを表現したもので、福島の原発事故後、脱原発のデモの参加者が掲げていた絵だそうだ。

古本屋の、年配の女性を想う。
この女性は病気になられて、今は本屋を閉店された。
デモに参加したり、声をあげたりするのは、体力も勇気もいる。
この女性は、自分のフィールドで、自分にできるやり方で、誰かに押し付けるでもなく、そっと表現されていたことに、ようやく今になって気付いた。

その人が、そっと蒔き続けた種は、今頃あちこちのどこかで、きっと芽が生えている。

どれだけお金があれば幸せ?
どんな仕事に就けば幸せ?
学歴があれば幸せ?
結婚すれば幸せ?

どうしたら幸せ?

激動の時代を迎え、大きく物事の価値観がゆらいでいる。

形あるものは失われる。でも、その中でも、みすみす手放してはならないもの、受け入れてはいけないものもきっとある。

私は、現場主義の土木技術者がリモートワークなんて邪道だと思っているが、現在はとりあえずそれにチャレンジしている。

私のちょっとした日常も、大きく変わった。

その中でも護りたいものがある。

大したご飯は忙しくて作れないけれど、自然に育まれたご飯を食べられる日常。

有川浩さんの『図書館戦争』のような本に規制のかかる社会でなくて、言論と思想の自由がある社会。

それは、手放したくないものの中の一部。

ある日の昼ご飯

この授業を受けた後、すぐに私はまるでシュミテクトのCMのような、普段は忘れているけれども、冷たいものを食べたらキーンと思い出す、ほっといても良くない知覚過敏のようなものを、一気に手放した。

そして、先生の推薦図書2冊と、酒井駒子さんの『みみをすますように』を手に入れた。

何かを手放して手に入れたもの

私も酒井駒子さんが描かれる絵の子どもたちがたたえている静けさのように、荒波に翻弄されずに、平常心で、生き抜くことができるだろうか。


本記事の中に出てきた書籍は、以下のとおりです。


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