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2021

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#心象風景

雨男・晴女 −六月の星々−

雨男・晴女 −六月の星々−

大事な日になると絶対雨を降らせる男と絶対晴れる女が恋に落ちた。

誰もが長続きしないだろうと噂した。

でも意外にも、彼らはいつまでも仲睦まじく生涯を添い遂げた。

雨男の最期の日、

晴れ渡った空に登っていく彼の雲を見送りながら

晴女は穏やかな涙を流した。

二人の間には今日も虹がかかっていた。

主役降臨

主役降臨

春の嵐が呼び込んだ暖かな南西の風は

霞がかかったようなぼんやりした空を

澄み渡る深い青いろに染めかえて

弾けんばかりに膨らんだつぼみを

一気に主役の笑顔にメイクアップ

舞台装置もすっかり整い

看板役者も堂々登場

さあ、春本番の始まりです

ただ淡々と、粛々と。

ただ淡々と、粛々と。

あの日、

営々と築いてきた生活の何もかもを失って、

被災者という十字架を背負うことになって。

それ以来、早春の頃になると、

あの日から何か変わったかを振り返ることを義務付けられ、

何が足りないか、どんなに頑張ってきたかについて

何かしらのコメントをすることを求められて。

みんながみんなそんな風に、

一年を振り返りながら過ごしているわけでもなかろうに。

まず、自分に問うてみてくれ。

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スノーフレーク

スノーフレーク

すずらんに似た純白のスノーフレークは

花びらの先に黄緑色のワンポイント

住む人のいなくなった住宅の

その軒先の花壇の跡地に

愛でて世話する人がなくとも

己が根にちからをスンと蓄えて

厳冬に耐えて花を咲かせる

早春に開く花はみなどれも

行きつ戻りつする季節を

しっかり一歩進ませる

楚々として麗しく

そしてたくましく

畔道の春

畔道の春

種蒔きの時を待つ畑

とつとつと歩く畔道

ひんやりと冷たい風

あたたかな陽のひかり

小さく開いた野の花

ホトケノザ

イヌナズナ

スミレ

ヒメキンセンカ

愛でられて摘まれても

刈られても踏まれても

倦まずにそこで春を告ぐ

小さないのちの彩やかさ

春はくる

畦道を歩くはやさで

春はくる

春本番へのグラデーション

春本番へのグラデーション

日に日に夜明けが早くなる。

小鳥のさえずりが少しずつ増えてくる。

まだ鳴き慣れないウグイスの未熟な声も聞こえてきた。

山の雑木林はなんとなく暖かな色にかすんで見える。

冬越しの分厚い毛皮に包まれていたこぶしのつぼみは

冬毛を少し軽くして膨らみ始めた。

ジャガイモ植え付けのタイミングを、隣近所が探り合う。

弥生三月は、春本番へのグラデーション。

山も、畑も、虫も、鳥も

いろんな命が

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2月の星々②ー香りを探してー

2月の星々②ー香りを探してー

数年前まで毎朝通っていた道を

逆向きに辿りながら、鼻をクンクンさせる。

んー、やっぱり朝じゃないとダメか。

路地を一本左に入ってウロウロ。

するとセンサーが反応した。

あ!この香り。やっぱりまだあった!

ようやく出会えた小さなパン屋のくるみパンは

「あの頃」の味がして少ししょっぱかった。

まちのりんかく

まちのりんかく

季節をひとつ飛び越したような暖かさの中を

新しい小道を探して散歩する。

もしかしてひとんちかもよ、とおそるおそる

急な細い坂道を曲がって降りて、また降りて

見つけたのは満開のヒメキンセンカ

おひさまの光を大きく手を広げて受け止める。

知ってる場所を知らない道で繋いで

またひとつまちのりんかく線を手に入れた。

手探りで作るまちの地図は

出会った花や風の匂いも織り込んで。

富士山、雪化粧

富士山、雪化粧

今年は雪が少なくて、

何やら良くないことがあるんじゃないかと

地元のおじさんが心配してましたが、

これで安心して過ごせますね。

惚れ惚れするような雪化粧です。

大寒を過ぎて、冬も折り返し。

まだまだ寒い日が続きますが、

だんだん日が長くなってきたような気もします。

大雪予報が外れて暖かさが残る陽だまりの中で、

もうしばらくあなたの美しいお姿を楽しんで

元気をいただいて帰ります。

1月の星々ー奇跡の始まりの日ー

1月の星々ー奇跡の始まりの日ー

その日の朝一面の雪景色が世界を変えた。

欲望に駆られた街は小さなしるしにも心を満たし、

孤独な群衆は微かなぬくもりにも笑みを交わし、

人を羨まず、昨日を嘆かず、明日を憂えず、

いまこの時を心から尊び、暖かな夢を紡ぎ始める。

一年で一番寒い季節に始まる物語。

僕たちは奇跡の時を生きていく。

枯れてなお命を宿す

枯れてなお命を宿す

凛とした空気と静けさに支配された冬の里山

枯葉を敷き詰めた斜面には幾本もの立ち枯れの樹

張り巡らせた根はがっしりと岩土を抱き抱えているが

かつて聳えた逞しい幹はもうすでになく

風雨に朽ちた白い抜け殻だけが横たわる

天寿を全うしたか、はたまた命半ばで倒れたか

そのいきさつは知らないけれど、

やがて土に帰るその時までも

湿り気を保って苔草をはぐくみ

その身を砕いて冬越しの虫をかくまい

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