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2021

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#田舎

土と光と花と蜂

土と光と花と蜂

適期を迎えたズッキーニ 毎朝黄色い花を咲かす

雄花と雌花を交わらせ 受粉できればそのあとは

ほんの数日待つだけで ボンッと大きく実が育つ

仲人役は マルハナバチ 心優しき働きもの

花弁の奥に潜り込み 花粉まみれになりながら

雄花と雌花を 行ったりきたり

人手をかけずに 受粉が完了

畑は森の延長線 自然と人の境界地

土のちから 虫のちから 太陽のちから

いろんなちからを借りながら 

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スズメの喧嘩

スズメの喧嘩

森の入り口の小鳥の食堂 常連組の野良スズメ

警戒心が意外に強く しばらくは一羽、二羽

遠慮がちに来ていたが 三羽、四羽と増えていき

ついには十羽を超える日も

密になれば喧嘩も増える 人も鳥もおんなじ道理

餌場のポジション争って ピーチクパーチク騒がしい

両翼を目一杯に広げて 尾翼をぐいっともちあげて

一人前の威嚇姿勢で 歯向かう相手にくちばしを向ける

小さく空を舞いながら 上から一

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手のひらいっぱいのくわの実

手のひらいっぱいのくわの実

遅れてやってきた梅雨の入口 畑畑にはしげる夏野菜の葉陰 

間を縫う畔道の土手沿いの木 たわわにみのる紫黒の桑

太陽をいっぱいに浴びた 野趣あふれる小さなふさ粒は 

摘めよ食べよと言いたげに 弾けんばかりの胸を張る 

よおく熟した子たちを選って

つぶさぬように そうっとそっと 手のひらいっぱい 

ふと思い浮かぶのは幼い日のふるさと

手も口も紫に染めて 夢中で食べた小学校の帰り道

都会

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森の賢者たち

森の賢者たち

木漏れびが遊ぶ森を見下ろすカフェテラス

朝食を終えた二人の賢者がしばし語らう

とつとつ語るのはこのところの異常気象か

それとも巷に蔓延り続ける流行病のことか

はたまたこのほしの未来への憂鬱か

まぁ、いずれにせよワシらには

どうにもしようのないことじゃがの

せめて、この空と緑と水と風の流れが

次の世にも引き継がれてくれればの

それ以上の望みはないわいな

さわさわと涼風がわたり

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3月の星々ー春の空の管制官ー

3月の星々ー春の空の管制官ー

さあさ、桜も見れたんだから、

もう少しなんて言ってないで、早く北に飛び立ってください。

そろそろ燕尾服の皆さんが南周りで到着して

ここらあたりの空も渋滞するんだから。

ツバメと相性の悪いジョウビタキを急かすように、

今日もヒバリは高い空から甲高い警笛を鳴らしている。

主役降臨

主役降臨

春の嵐が呼び込んだ暖かな南西の風は

霞がかかったようなぼんやりした空を

澄み渡る深い青いろに染めかえて

弾けんばかりに膨らんだつぼみを

一気に主役の笑顔にメイクアップ

舞台装置もすっかり整い

看板役者も堂々登場

さあ、春本番の始まりです

ただ淡々と、粛々と。

ただ淡々と、粛々と。

あの日、

営々と築いてきた生活の何もかもを失って、

被災者という十字架を背負うことになって。

それ以来、早春の頃になると、

あの日から何か変わったかを振り返ることを義務付けられ、

何が足りないか、どんなに頑張ってきたかについて

何かしらのコメントをすることを求められて。

みんながみんなそんな風に、

一年を振り返りながら過ごしているわけでもなかろうに。

まず、自分に問うてみてくれ。

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スノーフレーク

スノーフレーク

すずらんに似た純白のスノーフレークは

花びらの先に黄緑色のワンポイント

住む人のいなくなった住宅の

その軒先の花壇の跡地に

愛でて世話する人がなくとも

己が根にちからをスンと蓄えて

厳冬に耐えて花を咲かせる

早春に開く花はみなどれも

行きつ戻りつする季節を

しっかり一歩進ませる

楚々として麗しく

そしてたくましく