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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第三章「皇女たちの憂鬱」 後編 21

「弟成……、うちやったらあかんの? 八重女より、うちやったらあかん?」

 稲女の声は小さい。

 でも、弟成の耳には十分に聞こえた。

「あかんことないよ、あかんことない」

 彼はそう言うと、そっと稲女の唇を彼の唇で覆った。

 2人は、腰の力が抜けたようにその場に座り込む。

 長い口付けの間、弟成は自然と稲女の胸元に手を伸ばし、そっとその膨らみを探った。

 それもまた、自然な行為であった。

「待って……」

 稲女は唇を離す。

 2人は、しばらく間見詰め合う。

 彼女は徐に彼の前に立ち上がると、腰紐を解き、衣服を脱ぎ捨てた。

 弟成の前には、美しく輝く、生まれたままの稲女の姿がある。

 彼女の胸が大きく上下している。

 弟成は、初めて女体の美しさに心を奪われていた。

「脱がへんの?」

 見つめられる恥ずかしさに、稲女の体は熱くなっていた。

「えっ、ああ、うん……」

 稲女の言葉に我に返った弟成は、立ち上がると腰紐を解き、これも同じく生まれたままの姿となった………………一部、大きくなったところを除いては。

 2人は、そのままの姿で、見詰め合う。

 弟成にとって、稲女は初めての女である。

 稲女にとっても、弟成は初めての男である。

 互いに、男女が如何すべきか聞き知っていても、実際の場面で如何すべきなのか分からない。

「ねえ……、それをうちのに入れるんやないの?」

 稲女は、弟成の下から目を逸らしている。

 こういった場面では、女の方が良く知っているようだ。

「うん、そうやね。じゃあ、えっと……、あれ……? ご、ごめん、横になってくれへん?」

「えっ? あっ、ごめんなさい」

 稲女は真赤になった ―― 自分も、あまり理解していなかったのだ。
弟成は、自分の衣服を地面の上に敷いてやり、稲女はその上に四体を投げ出した。

 そして、彼女の上に弟成が覆いかぶさる。

「じゃあ、いくよ……」

 弟成の言葉に、稲女は小さく頷いた。

 2人には、最早水の流れ行く音さえ聞こえない。

 ………………数ヵ月後、奴婢長屋には晴れて夫婦となった2人の姿があり、さらにその数ヵ月後には、お腹がふっくらと出てきた稲女の姿があった。

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