てのひら怪談

掌編小説「髪飾り」

掌編小説「髪飾り」

 数年前の話だ。  姉家族と一緒に、大阪のT市北部にある渓流へ遊びに行った。街中から車ですぐだが風光明媚な所で、花見の名所でもある。しかしその時は三月の初め頃でまだ風も冷たく、桜の木々にはつぼみ一つ見えなかった。  姉夫婦には当時四歳になる娘がいて、僕を「おにいちゃん」と呼んでよくなついてくれていた。川のそばの広場で弁当を食べた後、僕と姪っ子は小さなゴムボールで遊んでいた。  と、ボールがあらぬ方向へ飛び、「あー、待って」と慌てて二人で追いかける。ボールは広場の脇の遊歩道を転

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内包

内包

イレギュラー への 対応 で ハイ  に なった   反動 きた カラダ 重い キモチ  も   ひさびさ 体調  悪 い  忘れた 頃   現れる     戒め    不確か な ゼリー に  内包 さ  れ た キョウキ         『ふつう』 なら しなくて いい の に ね 優しく 掬 い と ろ う と す る てのひら       

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コロナ渦不染日記 #95

コロナ渦不染日記 #95

←前回/目次/次回→ 一月二十三日(土) ○一週間の……いや、今年に入ってからの疲れがたまってしょうがないので、今日は一日、何もしない日ということにした。  ○昼すぎまで寝て、昼食をとってから、アニメ『サムライジャック』を見る。  アメリカの子供むけアニメの大手「カートゥーン・ネットワーク」のオリジナルアニメで、監督のゲンディ・タルタコスフキーは、『デクスターズ・ラボ』の原作・総監督や、『スター・ウォーズ:クローン大戦』の監督をつとめた人物である。独特のデフォルメによる

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リビングに行くと電子フォトフレームの電源が急にオンに。スイッチには触れていない。映るのは亡くなった猫の甘える姿。クローゼットがいつの間にか空いているのもフォトフレームが勝手に立ち上がるのもよくある事なので、画像に挨拶をして朝の準備。台所で猫を撫でるふりをする。見えない猫と同居中。

リビングに行くと電子フォトフレームの電源が急にオンに。スイッチには触れていない。映るのは亡くなった猫の甘える姿。クローゼットがいつの間にか空いているのもフォトフレームが勝手に立ち上がるのもよくある事なので、画像に挨拶をして朝の準備。台所で猫を撫でるふりをする。見えない猫と同居中。

朝起きると玄関のクローゼットが開いている。マグネット式なのでぐっと引かないと開かない、でもいつの間にか空いている。内側からドアを押し開ける物もない。猫が爪を入れる隙間も無いから開けられない。クローゼットの中には亡くなった猫が大好きだった外出用カートが。犯人も分からぬまま今日も開く

朝起きると玄関のクローゼットが開いている。マグネット式なのでぐっと引かないと開かない、でもいつの間にか空いている。内側からドアを押し開ける物もない。猫が爪を入れる隙間も無いから開けられない。クローゼットの中には亡くなった猫が大好きだった外出用カートが。犯人も分からぬまま今日も開く

【800字怪談】青い花

【800字怪談】青い花

 あたしと弟は花屋を始めることにしました。  捨ててきた故郷の町にも花屋はあったし、魚の死骸と貝殻の粉の臭いがしみついたぼろ小屋を片付け、どんなふうに花を並べればいいかあたしは心得ていたのです。けれど肝心の花をどこで集めればいいか分からない。あんな色鮮やかに見栄えのする花は、神社の裏や線路沿いを一日歩き続けても見つかりません。この厄介な仕事の責任を弟に押し付けると、あたしは独り占めした毛布にくるまり毎日気だるく小屋で待つようになりました。  「おまえは阿呆か。こんな薄汚い雑草

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大賞「高いビルの麓」 中森臨時

大賞「高いビルの麓」 中森臨時

「本の幽霊って見たことないですか」貸出し手続きをしていた時、女性が尋ねてきました。 「それは『本の幽霊』という名前の本ですか。それとも幽霊になった本が出てくる話ですか」このような曖昧な質問から本を探すのも司書の仕事です。 「そうではなくて、府立図書館には本の幽霊が出ますよね」私は意味が飲み込めず、返事ができないでいました。 「そんなの出ませんよ」振り向くと、同僚の田崎さんでした。その声に気圧されたのか、女性は急ぎ足で立ち去りました。 「ああいう人、たまにいるのよ。でも、本当は

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優秀賞「くるくる」 来福堂

優秀賞「くるくる」 来福堂

 夕暮れの街角をあてもなく歩けば、路地裏にて、宙に浮かぶ皿たちに出会った。  ああ、あれに出会ったか、と頭上を見る。小ぶりな皿たちは列をなし、楕円の軌道を描いて、くるくると回っている。のんびり、おっとりとして、どこか優雅にすら見える。時折、一枚、二枚と皿が消えてゆく。  黄昏時だから、皿も上機嫌な模様。薄暮の街は、君たちの遊び場だもの。  自分は、淡々と、驚くでもなく眺める。子供の頃から、幾度となく出くわしているので、もう慣れたものだ。例えば、流れ星を見た、ぐらいの、たまにし

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優秀賞「恩智川の大山椒魚」 旭堂南湖

優秀賞「恩智川の大山椒魚」 旭堂南湖

 明治生まれの祖母に聞いた話。  その昔、恩智川に大山椒魚がいたそうだ。現在、川は濁っており、清流を好む大山椒魚が生息していたとは、全く考えられない。祖母曰く、昔はぎょうさんいたらしい。そして、旨かったそうだ。  この川沿いに住んでいたのが田端のおっちゃん。五十過ぎの独り者。職業不詳。話が面白く、四六時中、酒を飲んでいる。祖母は子供時代によく遊んでもらったという。おっちゃんの眉間には卍形の傷があり、若い頃、大猪と格闘してできた傷と自慢している。その話を両親にすると、 「酒に酔

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