我妻俊樹

歌人。怪談作家。小説家。川柳作家。 agtmtsk@gmail.com

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    • 日記超短編

      その日あったことを題材にした300~1000字くらいの小説。

    • 文章

    • 川柳

    • 歯医者へ通うための歌物語集

      読み切りの"歌物語"マガジンです。歌物語=短歌+物語。随時更新。

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    【断章】川柳の/短歌の連作について

    実感でいうと川柳はわりとどのように並べても成立して、それは何か原理的に連作が不能なものだからなのでは? という仮説なのだが、短歌は並べると他の歌の影響をものすごく受けるので、連作として前後の構成に気を配らざるをえなくなる。 ○ つまり短歌は不用意に並べられていると、映画でいえば「ここのショットの繋がりが変」とか「ここに無駄なショットが入ってる」みたいな編集の不備を感じてしまい、川柳の場合はそれを感じない。それは川柳が「ショット」としてみるには何かを欠落させ、モンタージュが

      • 【川柳】ミッドセンチュリー(42句)

        書き順を忘れられない町がある 黒鍵に即身仏がゆびを置く てのひらで塩を固めた黙読よ 天井に近づいていく富士登山 人形が会議に遅刻したらしい あなたにもランプの芯があるはずだ ブルペンで菜の花が咲く戦後なの 暗色を持たずに春に来てしまう おみやげの宇宙模型の住み心地 お尻にも吹雪を挟むことにした 最近のアメリカ人はCGだ 昆虫の気持ちの中の哲学堂 喫茶店の窓をはげしく覗き込む 玉虫と決めたらずっとそうしてる 魂を齧られているアーモンド こう持てば浅

        • 【小説】ふれあいドール

           いびきがうるさくて眠れないんですよ。そう語る蝋さんは、寂しさに耐えかねて最近ふれあいドールを買った。とても高価だったそうだ。蝋さんがしている金持ちの背中乾かしのバイトは時給がたったの七十円だから、高価な買い物をするのは命とりだ。それでもふれあいドールを買わずにいられないほどの身を切るような寂しさとは、いったいどんなものだろう? 私は寂しさをほぼ感じたことがないタイプの人間なので、蝋さんの心中は窺い知れない。無謀な借金でのちのち苦しむのを承知で蝋さんはふれあいドールを入手した

          • 【断章】連作のタイトルについて

            短歌連作のタイトルがいくらでも思いつく、というときが過去にはあったような気もするし、そんなことは一度もなかったんだという気もする。 ○ 短歌が連作になろうとするのは、作品とは原則として本文・タイトル・作者名という三者に囲まれて確保される空間のことであり、短歌は連作にならないとタイトルを持つことができないからだろう。 ○ 誌上歌集の章題は自分でも気に入ってるけど、あれは連作タイトルではなく章題だから思いついた(思いつくことを自分に許すことができた)文字列たちだったと思う

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            【川柳】盗泉(30句)

            コーヒーにとけるつもりで家を出た 娘時代のトーマス・エジソン 特異日が再現された窓ガラス 不審者を見かけるだけの一生だ 小学校まがいの星に近づいた そっくりな男の髪が伸びている 奥行きに見覚えがある深海魚 くちびるを駐車場にも書きました 要点を磯の香りで伝えたい 坊さんにまたがるように馬に乗れ 銃身がきみの手紙を出し渋る 花園に反撃されて泣き寝入り 先進国首脳会議が借りにきた 福笑いどうしで話し合ってくれ 純粋に五叉路であって苦しいよ 一端を担っ

            【エッセイ】怪談的思考

            私はいわゆる実録怪談というものを書いている。このジャンルだけで単著が13冊、共著が30冊くらいあって、たぶん同ジャンルの書き手の中でもわりと多いほうじゃないかと思う。それくらい数を書いているにしてはほとんど無名に等しいけれど、怪談の中でも書いているものが偏っているというか、読む人によっては全然怖くないとか、ピンとこない、意味がわからないと思われることも多い作風にその理由の一端はあるかもしれない。 私が怪談を書く姿勢に持ち込んでいる「偏り」というのは、ではどのようなものか。ご

            半睡日記

            ×月×日 ひさしぶりにかなりいいのが書けた、と思った文章をあとで読み返すと全然そんなことはなくてびっくりする。私はいったい今までこの文章に何を読んで、あるいは書いていたのだろう。かなりいいのが書けた、と思ったときには具体的かつ曖昧な手本のようなものが事前に想定されていて、そこに肉薄したという感触があったのだと思うが、肉薄にはいろいろあっていい文章になることを捨ててするタイプの肉薄というものもあるのでは、と思ったり思わなかったり。ともかく、いい文章かどうかを書いた本人がせっかち

            【断章】内田百閒の「私」について

            内田百閒の小説は「漢字の見ている夢を読み下したもの」じゃないかと前に書いたことがあるけど、そういう意味で「短歌の見ている夢を読み下したもの」としての小説を書いてみたいと思う。特定の短歌の小説化ではなく、短歌というジャンルの見ている夢、を自分に見えるところから読み下したようなもの。 ○ 結果的に百閒ぽいと言われることはあっても、自分から百閒っぽさを狙いにいくとほぼ挫折していたけど、「読み下し」という概念を導入すればなんだかそれも書けそうな気がしてきている。 ○ 漢文の読

            【日記超短編】管理会社が変わる

             雨のせいで道に迷い、わたしは傘の下でぐるぐると目が回るほど同じ路地を通った。アパートの管理会社が最近変わったので、同じアパートだとは思えないほどよそよそしくなったその建物に、わたしはしばしば帰れずに夜を明かすのだった。しかも今は雨が降っていて、星の見えない空に重たく蓋をされた心はほとんど路面すれすれのところを足に蹴られながら進んでいるのだ。以前の会社にはどこか底の抜けたような古臭さがあって、アパートはこの新旧まだらに入り組んだ町にそれなりの表情で収まっていた。ところが今度の

            【日記超短編】東京湾

             何年も前に家を飛び出していった猫が突然帰ってくる。どこへ行っていたの? と訊くと「東京湾」と答える。猫がしゃべった、という驚きよりも「どうして東京湾に」という疑問のほうが勝ってしまう。だって東京湾は猫がいなくなるより前に埋め立てが完了して、もう存在しないはずだから。でも猫はやはり東京湾にいたのだと言い張っている。うちのベランダからも昔は東京湾が見え、洗濯物が潮臭くなったものだと母は言う。だけど海はどんどん後ずさりしていって我が家の視界から消え、かわりにビルと道路が敷き詰めら

            【小説】さびしい音楽、その他五篇

            キャンディーバーOPEN  そろそろぼくたちのキャンディーバーが開店する時刻だ。そう、それはまさにぼくたちだけのキャンディーバー。他の誰にも選ばせない、キャンディーの花園はラジオの中にある。始まった。オープニングナンバーは水色の綿毛入りキャンディーを舐めながら誰にも似ていない蝋人形シスターズの唄う「変わった腋の剃り方をするのね? あなた」。 および丸の接近  昔家の前におよび丸が止まっていたことがある。および丸というのは誰かに呼ばれていることを察知するとやってくる船のような

            【日記超短編】雑草

             こんにちは、と雑草の中から声がした。あんまり人と話したくない気分だったので無視する。誰かに撃たれて雑草の中に倒れ込んだとき、なんとなくそんな気はしていたのだ。つまり、これくらい深く草が荒々しく繁っているようなところでは、人に話しかけたくてうずうずしている先客がいたっておかしくはない。退屈なとき、誰かと話したくなる人とそうじゃない人がいて、わたしは後者のタイプ。まわりの景色と自分の頭の中を見回して、考え事のきっかけをさがしだす。たった今目に入ったものと、古い記憶の片隅がうまく

            【日記超短編】工事中の道を避ける

             工事中の道を避けて通った。通行止めではなかったが、工事している道を遠慮がちに歩くのは気が進まない。道は堂々と歩ける道だけを選びたかった。おかげですぐそこにある交差点をいったん見失い。うろおぼえで進んだ路地や団地の中の道で少し迷ったのちその交差点に、思いがけない方角からわたしは現れた。交差点も明らかに動揺して赤信号をふだんよりずいぶん長くともしている。青になったので渡る。わたしの髪の毛は太陽でずいぶん熱くなっているようで、熱が重さになってわたしを地面に押しつけてくるのを感じた

            【日記超短編】手毬唄

             娘はひどく汗をかいている。よほど暑い場所にいるのか、画面に映るのはごく平凡なマンションの一室のようだが、冷房装置が壊れて炎天下の外気温と同じになっているのか、あるいはもともと冷房のない部屋なのか。いずれにせよ尋常でない汗のつぶを額に浮き上がらせながら、娘は手にした極彩色の手毬を自分の顔と同じ高さに、ならべて掲げる。 「今から、この手毬が私のかわりにしゃべります」  娘はそう言う。荒い画面越しにも、美しさにため息の出るような手毬だ。汗まみれで、額に髪の毛が判読不能なひらがなの

            【日記超短編】土砂降り

             森の中のマンションに住人が誰もいない。それなりに古びた建物なのに今まで住まれていたという気配もなく、犬の散歩で前を通りかかるたび気になって眺めてしまう。犬も横で興味津々で眺めている。わたしに似て好奇心旺盛な犬なのだ。マンションの四階以上の窓には太陽の光が差し込んでいる。だから時々不動産屋の従業員が同行して、内見に来ている客の姿が見えることがある。もちろん、誰も借り手になったりはしない。こんな森の奥でマンションに住みたいという人間はめったにいない。森に住みたい人間は一軒家を求

            【日記超短編】左腕が上がらない

             金魚になれる注射を無料で打ってくれると聞いたので、夕暮れの町を歩いて地域センターに行ってきた。金魚になれば食事代も大してかからないし小さな水槽がひとつあれば暮らしていける。そしてたぶん、だれかが飼ってくれるだろう。そういう下心がなかったと言えば嘘になるが、ネットを見るとみんな次々とその注射を打ちに行っているし、打っていない人もこれから打つつもりで、それが当然だという空気をひしひしと感じた。事情がよくわからないなりに自分もその空気に従おうと思ったのだ。  地域センターに着くと