【川柳】金星と土星(60句)
紙切れがまぶしく親友しかいない
人類がおまえのせいで進化する
場違いな城をつくって見せに来た
妹が同一人物、抜け殻の
わしづかみされて訃報に気づいたよ
みんな笑ってフルーツの傷目立たせる
しらすにも雪にも見えて嬉し泣き
彗星の裏番組にしてもらう
わたあめに頭の中と同じ棒
抱き上げた案山子のような空だった
あらすじに戻されていく機内食
相部屋がずっとヒントを出している
コップでも息の映画をみるでしょう
睡眠の質をあらわす活人画
明晰夢を持ちこたえてる新幹線
星雲をがっかりさせたことがある
怪物は惜しまれながら目を覚ます
四年後の四国のような脱脂綿
反対に本屋が本に売られたら
石つぶてにもパ・リーグがある
夜の底を折り返してくるサインペン
新宿といえば歯車換えたでしょう
面積は人魚の町を軽くする
明太子からはじめての名探偵
挟み撃ちされて花屋があったかな
瀬戸物の都営住宅なのがいい
金星と土星は色違いの帽子
ゆっくりと痣になるのも西部劇
押し花の水泳選手たちあがる
ホテルへと真昼がつづくハコヤナギ
滋賀県を裏返しても気づかない
とびこんだしゃぼん玉には奥座敷
いい本はたいてい悪人にもらった
きみたちが音楽葬を見にくるよ
更衣室をうしろでつなぐ水たまり
二十代は大きな飴の空洞だ
竜がいていなくなってるアンソロジー
頬骨に氷をのせておばけだぞ
双六が巻き込まれてる鳩レース
メロディーは羊歯の壁紙からでした
千年後、漫才師とのカーセックス
何十羽いたってきみはひよどりだ
電波時計は女をあまり殴らない
羊肉と気づかれながら名画座へ
乗り捨てたジープが先に着くだろう
桃太郎以外は桃の銅版画
螺旋だよ陸海空で分けあって
三〇〇のきっと透明だった問い
連綿と家族会議を待たせてる
電線があんなにあっての冬の曲
かわいそう団地に唾がたまっていく
雲なんて隠し扉に似たものだ
大雪がさっそくきみを騙してる
引き算で気がつく千年王国に
ためぐちで石器時代をやり直す
いじわるな顔でもするか戴冠式
帰り道みたいな蛇が来ちゃったよ
かなしいなら手記がかなしいで始まる
春の雲ついに信じられなくなった
エンドロール、トリコロール、みんな人形だ
(初出:ネットプリント 2023年6月)