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ある日の記録

21
日常の中でたまに起きる、忘れたくない一日のこと
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#詩

愛しい6秒

愛しい6秒

日常のふとした時に、空を見上げる。

電車の流れる車窓の向こう。

自転車をこぐ、スーパーからの帰り道。

エレベーターから玄関までの数メートル。

洗濯物をとりこむベランダ。

そのたびに、ああ、この色合いが最高に好きだ、と思う。

川面よりもまぶしい水色。
幻想的な青とピンク。
淡いグラデーションの藍。
ピンクとオレンジの間の夕焼け。

どの色も、二度と見られない。写真には収まらない。

ずっ

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詩をよみたいと思った日

詩をよみたいと思った日

「はるのひ」という名前は、中原中也の『春の日の歌』という詩から来ている。初めてこの詩を知ったのは、”文字“ではなく、”音“だった。

朗々と読み上げられたときの、その独特のリズム。ぱっと正確には意味が取れないのに、どこか惹かれる…そんな経験は初めてだった。

*****

春の日の歌   作・中原中也

流(ながれ)よ、 淡(あは)き 嬌羞(きょうしゅう)よ、
ながれて ゆくか 空の国?

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海へ向かう

海へ向かう

真冬の夜の闇の中、車は街を滑る。

頭上には、いつになく見事な満点の星空。

「代わりに見といて」

ハンドルを握る彼は前方に視線を戻し、ふわりと言う。

彼の隣で、彼の分まで星に見とれる。

地図は出さずに、目指すは海の方。

間違った道をぐるりと回り

また同じ場所に出て、2人で笑う。

見知らぬ街の、見知らぬ坂を上りきると

突然 視界が開けた。

同時に息をのみ、歓声をあげる。

宝石のよ

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